セルフライナーノーツ その8 | すてきなあなたに

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ギターリスト 藤井謙二のブログ

M10   STORM

長らくライナーノーツほっぽらかしでした。久しぶりに「ブログを書く」のページを開き、留守中にできた蜘蛛の古巣などを払うようにして、パソコンに向かっておりますが、どういう訳かあまり捗りません。今にして思えば前作のライナーノーツの時はもっと端的に曲の本質をとらえようとしていました。ここ最近は足し算の誘惑に翻弄されているような気がします。

STORMのアレンジに関しても、似たような悩みを抱えていました。と言いますのも、この曲はオーバーダビングという名の足し算が非常に多い曲だったのです。コンガを入れたい、タンバリンとシェイカーも入れたいし、クラベスにマラカスやギロも試したい。アコギも重ねたい。全員でコーラスとハンドクラップも録りたい。最終的にリミックスver.を作りたい!
雨後の竹の子のようにニョキニョキとアイデアが生えてきます。しかし、それぞれが思い描く絵図は次第にズレを生んでいき、なかなか意見が纏まりませんでした。取り敢えず構成だけ決めて「ま、後は本番で」と…なし崩し的にプリプロを終えました。

上記で述べたパーカッション類とその他諸々を全てダビングしますと、派手さや勢いやグルーヴ感は増しますが、ラテンの苦味が強く出過ぎ、些か本質がボヤケてきます。どの楽器をどこの場所にどれくらいのサジ加減で加えるか?せっかく採れた竹の子も米のとぎ汁でエグみを引かないと美味しくないのです。出汁を引いたり、灰汁を取ったり、生臭みを取りのぞくという日本料理にしかない引き算の感性がこの曲には必要でした。作業はミックスダウンの日まで持ち越し、皆であれこれと倦ねたのです。「足す」より「引く」の方が難しいと痛感しました。

茶道や俳句、生け花などで「引き算の美学」という言葉が使われますが、余白の中にこそ感受が生まれる、そんな日本人得意の美意識を大切にしたいものです。


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僕の引き算の手引書。