星の輝き、月の光 -38ページ目

星の輝き、月の光

「イケメンですね」(韓国版)の二次小説です。
ドラマの直後からのお話になります。


緑の生い茂った山の空気は少しひんやりとして清々しく、どこからか聞こえてくる鳥の鳴き声は可憐で軽やかだ。

普段人ごみの中で生活している俺にはそこに立っているだけで心癒されるような空間なのに、そんな場所でフラれた俺は、かなりの大ダメージを受けていた。

いや、場所なんて関係ないか。

俺が好きだと告げた女は、別の男が好きだと言った。その事実はどこで聞いても変わらない。

降ってきそうな満天の星の下でも、駅のトイレの前でも。


もう1度手に入れたかった。

もう1度手に入ると思ってた。


だがそんな俺の考えは、甘い空想でしかなかったんだと思い知らされた。






例のバーでいつものロックではなく水割りを注文すると、俺はあっという間にグラスを空けた。味わって呑むのではなく一気に流し込む感じで。それが目的で水割りを頼んだんだから呑み方としては間違っちゃいないと思うが、マスターはあまりいい顔をしていない。

まあ1杯目だけならまだしも、それが2杯、3杯と続くんだから、マスターの言いたいことも判るが。


「無茶な呑み方するな」


俺はそんな呑み方教えてないぞと苦言を呈しながらも新たに置かれたグラス。そのグラスは俺が手にする前に、不意に後ろから伸びてきた手に持っていかれ、瞬く間に空になって戻ってきた。


「荒れてる?落ち込んでる?・・・・・・両方か」


小さなため息とともに隣にアヨンが座った。




俺はどうしてここに来たんだろう。ただ呑むだけなら他にも店はたくさんあるし、わざわざこんな遠くへ来る必要はない。合宿所には誰もいないんだから、たとえ俺が呑み過ぎて醜態をさらしても誰かに見られる心配はなく、心おきなく呑むことができるはずなのに。


「また何かあったみたいね、じゃなきゃ来ないか。それとも私に会いたかった?」


「そうだな・・・会いたかった」


俺のことをよく判っているアヨンは簡単に俺の心を言い当てたが、素直な返事があまりにも意外だったのか目を丸くして俺の顔を見た。

今1人で呑むには合宿所は広すぎて落ち着かないし、心の中のもやもやとしたものを吐き出したいと思ったら、足がここに向いていた。


以前にも何度かあった。この間もそうだ。まくしたてるわけではない、ポツリポツリと呟くように、吐き出したいことを口にするのに、ここを、この場所を、アヨンを求めて店へ来る。

ただ今日は少し違っていた。

会って、話をして。

それだけじゃ物足りない。

自分でも持て余してしまう感情のやり場を彼女の身体に求め、ここへ来た。


「今日・・・・・・いいか?」


俺はアヨンの顔を見ず、真っ直ぐ前を見たままそう呟いた。

俺のこの言葉はさっきよりも確実に彼女を驚かせたようだ。アヨンの息を詰めたような強い視線を横顔に感じる。しかしそれはすぐに艶やかなものへと変わった。

そして俺の耳に触れそうなほど近く、彼女の唇が寄せられた。


「・・・・・・いいわ」


甘い囁き声が俺の鼓膜を刺激する。


俺はアヨンと2人で店を出た。




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「好きだ」


ミニョを腕の中に閉じ込めたまま俺は耳元でそう告げた。


まずは謝って、とりあえず誤解を解いて・・・そう思っていたはずが、俺の前から立ち去ろうとするミニョを見て一切の過程をすっ飛ばし、自分でも思いがけない言葉を口にしていた。

しかしこうして口に出してやっとはっきりと自覚した。俺はそのことを伝えたかったんだと。


「き、急に何言い出すんですか」


いきなりそんなことをされれば誰だって驚くだろう。ましてや今は一時中断しているとはいえ撮影中で、周りにはスタッフが何人もいる。

当然のようにミニョは俺の腕の中から逃げ出すと、驚いた顔で俺を見上げキョロキョロと辺りを気にした。

このままではミニョは走ってどこかへ行ってしまうかも知れない。そう思った俺はとっさにミニョの手を掴み、話があるんだと店の外へと連れ出した。






留守電に気づかなかったこと、一方的に怒鳴って電話を切ったこと。アフリカにいる間にシヌに心変わりしたんじゃないかと疑ったこと、他にもいろいろ。

俺は自分に非があったことを認め、謝った。


「留守電のことはもういいです。テギョンさんに伝えてってお兄ちゃんに頼まなかった私も悪いんです」


ミニョはそう言うと、わずかに顔を俯けた。


「私、テギョンさんと話せなくなって、すごく寂しかったんです。離れてることが不安で心細くて・・・でもお仕事の邪魔しないようにって我慢して。シスターにもう少し残って欲しいって言われた時もすごく悩みました。悩んで留守電入れて。返事がないのはもしかしたら違う人に電話しちゃったのかもとかいろいろ考えて。やっと電話がかかってきて、久しぶりにテギョンさんと話せるってすごく喜んで出たのに、いきなり怒られました。何がいけなかったのか一生懸命考えて、ごめんなさいって何度もメッセージ入れて、でも全然返事がなくて。そのうち、私ってもういらなくなっちゃったんじゃないかなって思い始めたんです。返事がないのは、うっとうしいからほっとけばそのうち諦めるだろうって思ってるのかもって」


ミニョの声が震えている。俺に見られないようにするためか、顔を逸らしたミニョは小さく鼻をすすり、涙を拭く仕種をした。


「そんなことないって思いたかった。私は捨てられてないって、思いたかった。だから迎えに来て欲しかったんです。無理なお願いだって判ってるけど、来て欲しかった。でもずっと待ってたのに、テギョンさんは来ませんでした。そしたらお兄ちゃんとテギョンさんが話してるのを聞いたって、シヌさんが空港に・・・・・・」


シヌがあの時空港にいたのは俺とミナムの話を聞いてたからだったのか。やっぱりミニョが伝えようとしてたのは俺だけだった。

しかし・・・・・・


知り合いもいない遠い国でひとり。

どれだけ不安で心細かっただろう。俺が電話をすると楽しげな声でずっとしゃべっていたのは、アフリカでの生活の楽しさを伝えようとしてたんじゃなくて、俺としゃべれることが嬉しかったんだと初めて気づいた。それなのに俺は自分の都合をミニョに押しつけた。


「ごめん、俺は・・・」


「シヌさんは落ち込んでる私の傍にいて、ずっと元気づけてくれました。私今、シヌさんとおつき合いしてます」


ミニョの口からはっきりと告げられた言葉は、かなりショックだった。

ミニョに触れようと伸ばした手はその言葉でそれ以上近づくことができず、俺は虚しく宙を握る。


「俺は今でもお前が好きだ」


「ごめんなさい」


「お前は俺のことが嫌いになったのか」


「嫌いじゃありません」


「だったら」


「・・・今、私が好きなのは、シヌさんなんです」


きっぱりと俺を拒絶する冷たい言葉。


「さようなら」


小さく頭を下げ立ち去るミニョの後ろ姿を、俺はその場に立ちつくし、見送ることしかできなかった。




。.:*゜゜*:..☆ 。.:*゜゜*:..☆ 。.:*゜゜*:..☆ 。.:*゜゜*:..☆ 。.:*゜゜*:..☆




明けましておめでとうございます



今年もこの場でこうやってご挨拶ができることを嬉しく思います。






それにしても・・・・・ああ、新年最初のお話がこんな内容で・・・(><;)






テギョン、ファイティン!(笑)







今年もよろしくお願いしますm(__)m




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「ミニョ、何で・・・」


俺はミニョを目の前にし、そう呟くとその後は言葉が出なかった。


どうしてこんなとこにいる?

俺の知らない間にスタッフになってたのか?

いや、でも、関係なヤツと言われてたぞ。

じゃあ一体どうして・・・


俺の頭の中は疑問で埋め尽くされている。

俺が呆然としている間にミニョは監督と何やら話をしていて、その後、スタッフがわらわらと動き出した。






「一体どういうことなんだ」


「今監督さんと話してたの聞いてませんでした?お料理作り直すまで、撮影は一時中断するって」


「そのことじゃない、どうしてお前がここにいるんだ」


「それもさっき説明しましたけど」


目の前で話してたのに聞いてなかったんですか?とミニョが小首を傾げながら俺の顔を覗き込んだ。


「私、ここでアルバイトしてるんです。今日お店はお休みだけど、撮影があるから見に来てもいいよって言われてて。でもまさかテギョンさんが撮影してるなんて思わなかったからびっくりしました」


裏口から入ったミニョは調理場にいたスタッフと仲良くなり、グラタンの中にエビが入っていることを聞き、それを俺が今まさに食べようとしているのを見て手近にあった皿を数枚掴んで床に投げ落としたと説明した。


俺がさっき見えたような気がした人影は、本当にミニョだった。

今本人を目の前にし、俺は複雑な心境だった。

ミニョに会えて嬉しいという思いと、戸惑う気持ちが入り混じる。

突然の再会に少なからず・・・いや、かなりうろたえている俺とは対照的に、ミニョは何でもないことのように俺と話している。そのことが俺の癇に障った。


「どうしてそんなに平気な顔ができるんだ」


「どうしてって言われても・・・」


困ったような顔をするミニョに俺は眉根を寄せつつ、拳を握った。ミニョの態度にイラつくが、同時に感情的になって声を荒らげてはいけないと自制する。

もとはといえば俺が悪いんだ。俺はそんなつもりはなかったが、ミニョにしてみれば俺にずっと無視され続けてたことになる。

その結果がこれだ。

シヌとつき合っているミニョはもう俺のことは何とも思っていないんだろう。だから久しぶりの再会にも動じることなく、まるでただ知り合いにでも会っただけのような反応。

だが俺は違う。ミニョのことを忘れようと頭では考えていても、その声と姿に敏感に反応してしまい、心はもやもやと深い霧の中で出口を求めさまよっている。


「話があるんだ」


霧の正体は判らないが、まずは電話で怒鳴ったことを謝って、留守電に気づかなかったことを謝って・・・

俺たちの間に誤解があったことを説明したかった。しかしミニョは「私は別にありません」と言って素っ気なく背を向ける。

その行動に対する俺の反応はほとんど無意識だった。

そのまま俺の前から去ろうとするミニョの腕を掴むと、引き寄せ、抱きしめた。




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