少佐、君は何を怖がっている? | 親愛なるエロイカへ

少佐、君は何を怖がっている?

- 少佐の人物考察 - PART2  (PART 1

第2話(鉄のクラウス)。

今となっては大変なつかしい、エーベルバッハ少佐の初登場のストーリー。
海外で昔から出回っていたらしい「スキャンレーション」の訳に、
大変気になる部分があったので見てみよう。

ランボルギーニ(!) と戦車の高速でのチェイスの後、
北海の孤島に少佐と伯爵そして天才少年シーザーが取り残されるシーンだ。
疲れと寒さで動けないシーザーの体を温めようと、
伯爵が気遣って少佐にこうお願いする。
伯爵:
Major, Take off your uniform.
少佐 軍服をぬいでくれないか
少佐:
What?
な!
Do you want to tear off my uniform and attack me?
き きさま おれの軍服をはぎとって …おれをおそう気か!
© 青池保子著「エロイカより愛をこめて」1巻 P.139/プリンセスコミックス/秋田書店
© Aoike Yasuko 「From Eroica with Love」Vol.1 P.137/CMX /DC Comics
ここでの少佐のセリフ;
『Do you tear off my uniform and attack me? 』(CMX)

スキャンレーションではこうなっている;
『Are you trying to strip me and... rape me!? 』(スキャンレーション)

CMXでは
「(服を)はぎとる」を TEAR OFF (引きはがす、はぎ取るの意)
「おそう」を ATTACK (攻撃する、襲う - 暴行の意味もあり) としている。
スキャンレーションでは
「(服を)はぎとる」を STRIP (~を裸にする、はぎ取る)
「おそう」を RAPE (強姦する) としている。

そう、なんと!つまりスキャンレーション中では、彼はこう言っているのだ;
おれの軍服を脱がせて裸にしてレイプする気か!

・・・・・。

いくら少佐がゲイ嫌悪症だからといって、(当時は)伯爵が苦手だからといって、
軍隊で訓練されている大の男が、マグナム片手で撃てる男が、
いくらなんでも「レイプする気か~」は無いだろう~・・・


ではここに、確認のために各語彙の意味を上げておく。
襲う:
2)不意に攻めてかかる。不意に人に危害を加える。また、突然に人の家におしかける。
3)おびやかす。
広辞苑 第五版 岩波書店 Casio EX-word版

rape
動詞)強姦する、強奪(略奪)する
名詞)婦女暴行、レイプ、性行為の強要、犯し
リーダーズ英和辞典 第2版 Casio EX-word版

attack : 攻撃する、襲う (暴行の意味もあり)
リーダーズ英和辞典 第2版 Casio EX-word版

「襲う」→「暴行する」→「強姦する」という流れで、「おそう」に「Rape」という言葉を
使ったのだろう。
あるいは、「やおい」的な雰囲気をより強調するためにあえてその言葉にしたのとも考えられるが、
それにしてもニュアンスが違いすぎるだろう。
これじゃあエーベルバッハ少佐が妙な男に見えてしまうよなあ。

私が思うのは単純だ。初期の頃の少佐の、極端な嫌悪感丸出しの一連の拒絶反応は、
青池先生が伯爵と対比的な人物を作るにあたって、硬派性と潔癖症を強調した結果の
人物描写だと思っているのだが・・・マジメ過ぎる考えだろうか?

****

ではここで、またびっくりさせてくれた訳例をもう一つ紹介しよう。
第10話「グラス・ターゲット/ Glass Target」。

「特別休暇命令」の後、少佐が渋滞で遅れたため、部長と入り口で鉢合わせし(思うに少佐の狙いか)、
エレベーターで2人で部室へ向かう時のシーンだ。
部長:
・・・・・・
・・・・・・
少佐:
・・・・・・
・・・・・・
部長:
Like I said, I was acting in your best interests with that vacation order!
You could use a woman in your life!
特別休暇命令の件は女性に縁の薄い君のためを思う
親心だったと説明しただろう!
※In your best interest :君ためになって、君にとって一番良い、得策で

青池保子著「エロイカより愛をこめて」6巻 P.69/プリンセスコミックス/秋田書店
Aoike Yasuko 「From Eroica with Love」Vol.6 P.67/CMX /DC Comics
ここでの部長のこのフレーズ。「女性に縁の薄い君」。
ではスキャンレーションの訳はどうだろうか。最後のフレーズを抜粋する。

『I was only showing fatherly interest in you
since you don't know any women! 』

(~君が女性を知らないから、(我が子のように)目をかけてやっただけだ!)

おっとっと。・・・・すごい言葉だ。

このセリフは『性体験がない』という意味にもとれるぞ。

『女性に縁が薄い』 → 『身近にあまり女性がいない』→ 『女性についてよく知らない』
といったつもりの訳だったのかもしれないが、それにしてもちょっと語弊が無いかい?

いくら覗き見趣味の親心から出た部長のセリフだったとしても(それの真偽はともかくも)、
捉えようによってはかなり下世話でダイレクトかつ失礼じゃないだろうか。


こういったスキャンレーションは、やはり誤訳やニュアンス違いが散見しているようだ。
大きな話の流れが変わるほどではないものの、上記の二例をとっても
微妙にキャラクターの印象に影響するのは明らかだろう。

海外のフィクションを読んで、少佐の人物描写に妙なものが多いと
感じるとすれば、それはおそらくこう言ったことの積み重ねが
彼らのイメージに少なくとも影響している事は否定しきれないのではないだろうか。
その後にCMXを読み直していたとしても、初めて見た時に
擦り込まれた印象というのは変わりにくいものだ。

こんな訳があるから、海外の人たちに勝手に「少佐はVerginだ」とか
言われちゃうんだよ。(多分)。Poor you, Major .

海外でスキャンレーションの読者は、内容を再確認するためにも、
CMXからリリースされた分は購入して読み直して欲しいよなあ。