ヘビーでディープな海外エロイカワールド | 親愛なるエロイカへ

ヘビーでディープな海外エロイカワールド

「エロイカより愛をこめて」は秋田書店の月刊プリンセスコミックスで1976年に始まった。

海外(おそらくUSA)では2000年頃には海賊版のようなものが出回っていて、
そのころからエロイカのマニアな世界 (Fandom) が出来始めていたらしい。


日本語を理解しない外国人が、どこまでのシリーズを読んでいるかはかなりバラバラと
思われる。正式英語版CMXだけを知る人もいれば、有志の間で作られている
「スキャンレーション/Scanlation」で話を知る人もいるようだ。

スキャンレーションとは造語で、漫画の画面をスキャンしたものに
翻訳/トランスレーションを当てた二次的作品を指す。

どうやら星の数ほどあるファンフィクションに加え、スキャンレーションも存在している。

エロイカのやや複雑なキャラクター設定は、海外にもビッグなオタク世界を
生み出す程に独特な魅力と奥深さがあるのだ。

原作者の青池先生と同じ日本人であり、海外ものとは表現力の幅もレベルも違うMANGA を
生んだこの国に生まれて、勝手に少しばかり誇り高い気分になったりもする 。


一般公開されていないクローズドのページにあるスキャンレーションを見る機会があった。
翻訳された英語は『ああ、日本人が訳したんだなあ』と感じさせる冗長感のある訳ではあったが、
絵があるためストーリーを読むには十分だ。

一つのシリーズすべての言葉を訳すには相当な時間が必要だ。
訳が完成した後は画面の原語を消して訳文を入れ込む作業も発生する。
原作の言語がわからないファンたちのために、ボランティアたちは多大なる時間を費やしているのだ。

待ち望む者がいて、その重労働を志願するものがいる。
いやはや、ファンのエネルギーってすごい。


著作権法的には限りなくクロに近いもの *だろうが、同人誌のパロディや二次創作物のように、
思い入れのある作品を二次的創作物にする活動は、他のファンと一緒に楽しみたいという動機だろう。

そこで著作権保持者がいちいち目くじらを立てて大切なファンを敵に回すこともないわけで、
あえてそれらを見逃しているというのが現状なのだろう。

* Dec.10 修正追記:「限りなくクロに近い」ではなく、「クロ」である。
また、スキャンレーションに関しては、見逃しているというより現状の違法行為を
すべてチェック仕切れないというのが正しいようだ。


しかしながら、海外のエロイカのファンダムでは「同性愛」的側面がクローズアップされている
ものが多分に多い。

たしかにこの作品の主役の一人はゲイだ。
彼が少佐に言い寄ったり色目を使ったりして少佐を困らせるようなシーンは沢山ある。
でもそれは一方通行で、キスシーンはむろん、何か具体的なシーンがあるわけでもない。

ああ、確かにほっぺにチュッはあったけれど、キスされた側はとてもイヤそうな
顔をしている、まったくロマンティックでもなんでもないシーンだ。


DC Comicsが発売する正式英語版は、読者の対象年齢を「TEEN (13歳~19歳)」以上としている。

「TEEN」

Titles with this rating are appropriate for a teen audience and older.
They may contain some violent content, language, and/or suggestive themes.

TEENと付いている作品はティーン(13~19歳)以上を対象としています。
暴力的な内容や言葉、または不適切な内容を連想するテーマを扱っている場合があります。

CMX 「From Eroica with Love」 VOL.8 P.90 より抜粋 (全巻に共通して掲載)

ティーンにとっては「不適切な内容を示唆するテーマ」だというのだ。
つまり同性愛的要素(少佐の言葉遣いなどはもしかして不適切の対象になるかもしれない)は
示唆する・連想させるというレベルにとどまっており、直接的表現はないので「ティーンには安全と
してよい」ということだ。

しかしながら、まさにその「ほのめかし」こそ、読者の欲求を刺激している重要な要素であり、
ファンの妄想を駆り立てるものなのだ。
つまり「少佐と伯爵のキワどく複雑な関係」こそがエロイカの醍醐味だ。

部下たちもそれを知っている。

少佐と伯爵の特殊な関係を どう説明するんだ」
©青池保子/秋田書店 プリンセスコミックス23巻 P186


嫌悪感丸出しに邪魔者扱いをしているかと思えば、見事なチームワークでお互いの目的を達成し、
時に平気で裏切り、色目を使うかと思えば嫌がらせをし合い、時に愛の言葉を…交わしはしないが
伯爵だけが口にする。


それに加えてエーベルバッハ少佐という人物像。
かたくなに伯爵のアプローチを拒み、嫌悪する典型的なホモフォビアだ。
そして異常なほどのワーカホリック。任務以外はほとんど興味のない、
かなりの堅物で硬派の軍人だ。んでいてイケメン。

だからこそ伯爵が、日本の読者が、海外のファンダムの人たちがみんな思うのだ。


あの軍服をはぎ取ってやりたい!
つついて困らせてみたい!
堅物の意外な別顔を見てみたい!



だからファンフィクションの中では、少佐の堅物である原因について掘り下げた話が
いろいろ出てくるわけだ。

そう。そんなヤツが相手だから結局彼らの間には、何か起こりそうで何も起こらない。

ちらりと見せては引っ込ませる。ほのめかしては何事もないように進展する。
その辺のさじ加減はまさに青池先生の才でもある。

(少佐がサウナに閉じ込められて気絶してしまったシーンを初めて読んだ時、
伯爵がぐたぐたしている間に少佐が目を覚ましてしまって、かなりガッカリした記憶がある)


それに加えて少女マンガ史上屈指の素晴らしいキャラクター描写。

それらがすべて相まって、ファンの妄想力 想像力に火をつける。



まさにヘビーでディープな愛の世界。