今週は図らずもプティ・スイス・ウィーク。ヴィンタートゥール・ムジークコレギウム、オットー・ネーベル展に続き、シャルル・デュトワさんがN響に客演したラヴェルのコンサートを聴いてきました。

 

 

NHK交響楽団第1873回定期演奏会Apro.

(NHKホール)

 

指揮:シャルル・デュトワ

ピアノ:ピエール・ロラン・エマール

 

~ラヴェル没後80年~

ラヴェル/古風なメヌエット

ラヴェル/組曲「クープランの墓」

ラヴェル/左手のためのピアノ協奏曲ニ長調

ラヴェル/道化師の朝の歌

ラヴェル/スペイン狂詩曲

ラヴェル/ボレロ

 

 

んん?どうしてこのコンサートがスイスなの?はい、得意のこじつけでーす(笑)。というのは冗談で、デュトワさんはフランスやモントリオールのイメージが強いですが、ローザンヌ生まれとスイスご出身の方。ラヴェルはもちろんフランスの作曲家ですが、その精緻な作曲から「スイスの時計職人」と呼ばれるからです(ストラヴィンスキー談)。オネゲルやマルタン、ブロッホなどスイスの作曲家ではないのでちょっと弱いかもですが、こういうのは硬いこと言わず、いいように解釈して雰囲気を楽しみましょう!

 

 

1曲目は古風なメヌエット。シャブリエ/はなやかなメヌエット、からの影響が認められる作品だそうです。ラヴェルとしては古典的な味わいのある曲。

 

最初は襟を正したキビキビさ、中間部には懐かしい親密さを感じます。思うに、最初のシーンはカップルが正装をしてキッチリ踊りますが、中間部はパーティが終わって家に帰り服を脱ぎ、パーティの余韻のもと、お酒も入った二人が親密にリラックスして踊っているシーンを思い浮かべました。

 

 

2曲目はクープランの墓。17~18世紀のフランス・クラヴサン音楽の典雅な舞踏組曲の響きを念頭に置いて曲を書いたそうです。

 

弱音を利かして軽妙な第1曲、しっとり神秘的に聴かせた第2曲、透明感がありラストのニュアンスに痺れた第3曲、ワクワク感に溢れた楽しい第4曲、素敵な演奏でした。

 

 

3曲目は左手のためのピアノ協奏曲。ピアノ協奏曲ト長調も味わいがありますが、この左手のためのピアノ協奏曲の洒脱さには得も言えぬ魅力を感じます。20代の頃、六本木のとある映画館のレイトショーでジャン=リュック・ゴダールの「パッション」という映画を観た時、この曲が冒頭に使われていて、非常に感動した記憶があります。パッション自体のストーリーはゴダールなので、チンプンカンプンでしたが(笑)。(ゴダールは「勝手にしやがれ」と「気狂いピエロ」は非常に感激したのですが、それ以外の作品がどうにもよく分からず…)

 

冒頭のコントラバスとコントラファゴットのうごめき、ライヴでしか味わえない魅惑の響きです。コントラファゴットに始まる旋律がヴァイオリンまでリレーされて高まる部分の素晴らしさ!エマールさんは冒頭からたっぷりのピアノ、最初の独奏のシーンのラストのグリッサンドがめっちゃカッコいい!

 

後はめくるめく音楽の連続。エマールさんはきらめくアルペジオ、ニュアンスの込められた揺らめくようなスローパート、ジャズっぼいフレーズの迫力の打鍵、何もかも素晴らしい。最後はオケとともに華々しく弾けて終わりました。ブラヴォー!アンコールのブーレーズ/ノタシオンも流れがあって良かったです。

 

 

 

後半1曲目は道化師の朝の歌。「道化師」はスペインの舞台に登場する喜劇的な人物ですが、伊達男という意味にあるそうで、朝帰りの男の目に映るスペインの朝の光と影、歌と踊りのあらゆる要素が見て取れる、とのことです。

 

冒頭の弦のピィツィカートに大きく抑揚が付いて、デュトワさん、前半よりも意欲的な表現付けです。フルートの弱音にホルンの弱音、繊細な打楽器と、N響の名人芸のオンパレード、素晴らしい道化師の朝の歌でした!終わった後の拍手も凄かったです。

 

 

後半2曲目はスペイン狂詩曲。ラヴェルはバスク人の母が歌う民謡を子守唄に育ち、「スペイン音楽に最大の称賛の念を抱いている」と語っています。ファリャは「母を通して理想化された形で彼が感じてきたスペイン」と指摘しています。

 

第1曲のラストの繊細な弦とチェレスタ、フルートが天高く飛翔する第2曲、高まる前の逡巡する弦のニュアンスが印象的だった第3曲、第4曲は華々しい音楽になりますが、弦の弱音の繊細なグリッサンドのニュアンスが素晴らしい!ここを聴くだけで、このコンサートに来た甲斐があるくらいの、素晴らしい演奏でした。前の曲に引き続き、演奏が終わった後、爆発的な拍手が起こりました!

 

 

最後はボレロ。ボレロをコンサートで聴くのは本当に久しぶり。基本的にストラヴィンスキーのバレエ音楽と同様に、バレエで観たい作品です。過去にシルヴィ・ギエムさんと首藤康之さんのソロで観たことがあります。どちらも、先日の魔笛が素晴らしかった、モーリス・ベジャールさんの振付。女豹のようにしなやかなでリズムの精にしか見えなかったギエムさん、長い手足を活かしてダイナミックだった首藤さん、いずれも素晴らしいボレロでした!

 

久しぶりにコンサートで聴いたボレロ、とても素敵な演奏でした。ただし、そういう縛りなのかも知れませんが、ちょっとキッチリし過ぎた感があったかも知れません?ラストも折り目正しく正確に崩壊したという感じで、非常にキッチリとした演奏でした。いずれにしても見事な演奏。一方で、やっぱりボレロは踊り付きで観たいとも思いました。9月に観たアルルの女でのヴィヴェット役が素晴らしかった、上野水香さんのソロでいつか観てみたいです!

 

(参考)2017.9.8 東京バレエ団のアルルの女

https://ameblo.jp/franz2013/entry-12308990811.html

 

 

 

ムッシュー・デュトワの繊細かつ精緻なラヴェル、もう堪能し尽くしました!前半は古典的&ピアノ協奏曲、後半はスペインものでまとめて、本当に粋なプログラム。こういうのはもうたまらないですね!6月のパーヴォ・ヤルヴィさんのラヴェルも良かったですが、やはりラヴェルの演奏の当代随一のスペシャリストの指揮は凄かった!!!来年12月は、この際ABCとも全部ドビュッシー・プロでよろしくお願いします!

 

 

 

(写真)私のスペインのイメージは、アンダルシア地方で街中に沢山生い茂っていたオレンジの木です。写真はコルドバのメスキータの前。

 

 

(追伸)あれ~、スイスを楽しむって言ってて、結局スペインに行っちゃったじゃないですか!いや、スイスの時計職人が…。いやいやいや、上のオレンジは何ですか!(笑)でも、よくよく考えてみたら、明日聴くコンサートの指揮者もスイスの方でした。めっちゃ楽しみです!