一昨日のティペット/ピアノ協奏曲が素晴らしかったスティーヴン・オズボーンさんがメシアンの大曲を弾かれるので聴いてきました。

 

 

スティーヴン・オズボーン ピアノ・リサイタル

(ヤマハホール)

 

メシアン/幼子イエスに注ぐ20のまなざし

 

 

1月にカンブルラン/読響でメシアン/彼方の閃光を聴いて以来、今年は何となくメシアン・モード。「幼子イエスに注ぐ20のまなざし」は「彼方の閃光」や「トゥランガリラ交響曲」と好対照をなす曲なので、どうしても聴きたくなり、仕事を全速力で終え、当日券で滑り込みました。

 

(参考)素晴らしかったカンブルラン/読響のメシアン/彼方の閃光。それにしてもコトドリが…(しつこい?笑)

http://ameblo.jp/franz2013/entry-12244460156.html

 

 

プログラムにオズボーンさんのメッセージが載っていました。

 

○私は、メシアンの音楽へのアプローチは、作品が神への捧げ物であるという点で、本質的にはバッハのそれと同じであると考えています。この作品はピアノ音楽の書法で書かれた「マタイ受難曲」である、とさえ言えるのではないかと思っています。

○この作品は、「全体」が単に「部分」の合計ではなく、それ以上の何かを形作っている稀有な作品のひとつです。そしてこの作品は、長大でありながら、完全な調和を持っています。まさに特筆すべき偉業がここに達成されています。

○・・・あらゆるピアノ作品の中で、私が最も深く愛してやまないこの曲を、東京で演奏出来ることを心から楽しみにしています。

 

ただでさえメシアンの大曲を聴ける喜びが、何倍にも膨らむ素晴らしいメッセージです。140分、休憩なしとしたのも、ピアニストにとっては大変なチャレンジですが、とてもいいですね。

 

 

I 父なる神のまなざし

冒頭から<神のテーマ>の和音が続きますが、オズボーンさん、最高音を弦に届くかどうかという最弱音のフェザータッチで弾いていたのが印象的。

 

II 星のまなざし
III .交換

力強い和音を弾く場面が出てきますが、見ているとオズボーンさんはピアノを弾く所作も素晴らしい。ダイナミックでありながら、わざとらしさを感じず、それ自体が芸術品に思えます。


IV 聖母のまなざし
V キリストがキリスト自身に注ぐまなざし

解説に、3つの部分から成り、3つの音色、3つのモード(音列)、3つのリズム、3つの音楽が重ね合わせられている、とありました。フリーメイソンに関連するモーツァルト/魔笛も3つにこだわった音楽ですが、キリスト教でも3は大切な数字ですね。音楽自体は、親鳥の優しい進行にジャズの音をも思わせるちょっとやんちゃな雛が愛情を持ってまとわりついている様子が見えるかのようでした。

 

VI 彼によってすべては成された
VII 十字架のまなざし
VIII 高みのまなざし

この辺りはとにかく圧倒されっぱなしでした!

 

IX .時のまなざし
X 喜びの精霊のまなざし

20曲の中で一番好きなまなざしです。メシアンの音楽の中でも、トゥランガリラ交響曲の第5楽章「星たちの血の喜悦」と、この「喜びの精霊のまなざし」が双璧で好きかも。オズボーンさんの感動的な演奏には言葉もありません!ここで終わっても十分過ぎるほどに充実していますが、まだ中間地点です。


XI 聖母マリアの第一聖体拝領

派手さはないものの大変美しい音楽です。

 

XII 全能の御言葉
XIII クリスマス(聖誕祭)

ここの冒頭のリズムは一体どうなっているんでしょう?クロスリズムとも変拍子ともつかぬ、何とも不思議なリズム。楽譜を見てみたくなります。幼子イエスの生誕を祝福する教会の鐘が不規則に鳴る様子が目に浮かびます。


XIV 天使のまなざし
XV 幼子イエスの接吻

愛情に満ちた子守唄。これなら何とか弾けるかな?弾いてみたいな!と思わせる音楽がしばらく続きましたが、残念ながら後半は難しくなってしまいました(泣)。優しく美しさを感じさせる曲。


XVI 予言者、羊飼いと東方の三博士のまなざし

解説には「摩訶不思議な念仏が唱えられるような音楽」とありました。「キリスト教の曲に念仏はないよな~」と思っていたら…、やはり念仏でした(笑)。メシアンの音楽の多様性を物語っているかのようです。


XVII 沈黙のまなざし
XVIII 終油の秘蹟のまなざし

最後、右手と左手が一押さえごとにクロスの上下を変えながら上昇し、6オクターブは上下したかというグリッサンドを経て、ズバッと終わります。何という凄まじい音楽!


XIX 私は眠る、しかし心は起きている
XX 愛の教会のまなざし

オズボーンさんは感動的な<神のテーマ>の前の導入を、たっぷり間を取って弾かれていました。終曲に相応しく、祝福感に満ち溢れた幸せな音楽。もう2時間を超えていますが、いつまでもこの幸せな曲が終わらなければいいのに、と思いながら聴きました。

 

 

この長くかつ沢山の音を弾かなければならない超絶技巧の曲を、オズボーンさんは何と一音たりとも間違えていませんでした!もちろんピアノは正確性を競うものではなく、正確性に欠けても感情の込められた演奏の方が良かったりするのですが、オズボーンさんは極めて感動的な演奏を所作も含め完璧にこなされて、これを奇跡と言わずに何と言うのでしょうか!!!

 

今日は観客のみなさまも本当に素晴らしいと思いました。この140分休憩なしの曲を全くだれることなく、みな集中して聴いている雰囲気に満ちていました。最後の音が奏でられた後、ピアノでは珍しく15秒くらいでしょうか?オズボーンさんは祈りを捧げられているかのように留まっていましたが、観客も音を立てずその余韻を見守っていました。

 

そして割れんばかりの拍手!難しい曲目からして、必ずしもいっぱいではなかったヤマハホールでしたが、非常に熱烈な拍手で奇跡を起こしたオズボーンさんをお迎えしました。オズボーンさんも観客に向かって拍手をされていたので、今日の観客の集中力は伝わったようですね。オズボーンさん、最初のあいさつで「2週間の巡礼に出るような曲」とおっしゃっていましたが、あたかも巡礼を終えた者たちを祝福する司祭のようでした。

 

オズボーンさん、感動のメシアンを本当にありがとうございました!!!

 

 

(写真)家宝にします!