女性なら誰でも経験する、外陰部のかゆみやおりもの、におい。
「何かの菌に感染したのでは?」と心配するのが普通ですよね。
「自分の体は清潔で、毎日お風呂入っているし、菌なんか持っているはずが無い!」
なんて思いがちですが、実は私たちの体の中、皮膚の上には無数の菌(いわゆる「雑菌」)が存在しています。
菌が繁殖するには「温かいこと、湿っていること、適当な栄養があること」の3つの条件が必要。
人間の体の中で一番雑菌を含むのは便ですから、パンツの中は最も菌が繁殖しやすい場所。
特に、女性の腟の中は、温かく湿っているし、肛門のすぐ隣なのに雑菌が入らないよう蓋をできるわけではないし。
よく考えると、むしろ便の中の雑菌が繁殖しない方が不思議ですよね?
なぜ、便の中にウヨウヨいる雑菌が膣の中で増殖しないのか?
・・・実は、雑菌から膣の中を守ってくれているのは「おりもの」なのです。
正常な「おりもの」の中には、乳酸桿菌という「良い菌」がおり、腟内を酸性に保って雑菌が入ってくるのをブロックする働きがあるのです。
雑菌による激しい、かゆみで最も有名なのが「カンジダ腟炎」。
激しいかゆみやヒリヒリとした痛かゆさを伴い、ボロボロとカス状のおりものが出ます。
カンジダは真菌(カビ)の一種で、便の中などに普通に存在する「常在菌」。
特に暑い時期には蒸れて繁殖しやすいものです。
抗生物質を服用した後に起こりやすいのは、抗生物質は「細菌」(乳酸桿菌を含む)を死滅させる効果があるものの、「真菌(カビ)」には無効だから。
また、性交後に起こりやすいのは、性交時の腟内の摩擦により腟壁が傷つき、「いいおりもの」を作る力が落ち、さらに「清潔にしなきゃ!」と腟内を洗い流す人も結構いるようで、「いいおりもの」が流され、さらに水分が豊富にあるために繁殖しやすい環境をつくってしまう・・・ と考えられています。
初めて症状が起こったときには、産婦人科を受診してきちんと診断・治療を受けましょう。
一度カンジダ腟炎になった人は、生活習慣を見直して上記のような原因を除外できなければ、残念ながら反復もしやすいものです。
しかし近年、過去にカンジダ腟炎にかかったことがあり、治療薬でアレルギーなどの副作用がなかった人は、市販薬を買って自分で治せるようになりました。
なかなか病院には行けない人に、これは朗報!上手に利用したいですね。
なお、おりものやかゆみの症状があると、真っ先に「性感染症」を心配する人も多いでしょうが、「性感染症は症状が出ないものほど流行する」
という事実は知っておきましょう。
よく考えてみてください!においやおりものなど何か症状があれば、普通はすぐに治療を受け、次のパートナーには感染させないはずですよね。
それに強いにおいがしたり普段と違ったおりものであれば、そもそも性交自体を避けるはず。
現在、世界中でもっとも流行している性感染症はクラミジアなのですが、
実際、クラミジアと診断された人のうち、おりものなどの自覚症状があったのはたったの2割!というデータもある位。
残念ながら、おりものやにおい、かゆみなどの症状は、決して性感染症を疑うポイントではなくなっています。
ですから私のクリニックでは、何も症状がなくても、パートナーが変わるたびに検査を受けておくことをおススメしているくらいです。
さらに、性器の構造上、男性よりも女性のほうがはるかに性感染症などに感染しやすく重症化しやすいということはご存知ですか?
先ほどお話したカンジダや大腸菌などの便中の常在菌は、女性の場合、肛門から近い腟や膀胱に容易に入ってしまいますが、男性のペニスは肛門から遠いですよね。
しかも、性交に用いる男性器(ペニス)は尿道と共用ですから、菌がペニスから体内に入ろうとしても、尿をするたびに洗い流せてしまうのです。
婦人科でクラミジアと診断された女性のパートナーを検査すると、クラミジアが検出されない、という驚く事実がたびたび起こるのはこういう理由からです。
一方、女性の場合、腟の中に菌が入ってきても洗い流せないばかりか、子宮内から卵管を通って腹腔内(お腹の中の腸などの内臓があるところ)まで容易に到達することができるのです。
それで、女性の場合はクラミジアなどの性感染症が原因で腹膜炎のような強い腹痛を起こしたり、不妊症になったりしてしまうのです。
ただし、クラミジアと早く診断できれば、よく効く治療薬もありますので、とにかく早く診断をつけることが大切です!
性に開放的になってしまう人が多いですが、男性と女性の体にはこんな違いがあり、性交の後に起こりえる感染症のリスクは女性の方がはるかに高いものであることは知っておきましょう。
もちろん望まない妊娠が起こった場合の身体的・精神的リスクはいうまでもありません。
性感染症予防にはコンドーム、避妊にはピルが常識です!
ただし、今は避妊に失敗した場合、性交後72時間以内に内服すれば妊娠のリスクを下げることができる緊急避妊法もあります。
そして羽目を外しそうになったら、少しこの話を思い出してください。
・・・もし、少しでも思い当たるフシがあれば、傷を小さくするために、できるだけ早く産婦人科を受診して適切な検査・治療を受けましょうね!