現在放送中のNHK連続テレビ小説『スカーレット』は、信楽を舞台に女性陶芸家の波乱万丈な人生を描いていますが、先日の放送でヒロイン喜美子(戸田恵梨香)のまことに出来の悪い父親常治(北村一輝)がこんな言葉をつぶやいていました。
「人間はなんぼがんばっても上手くいかない方がずっと多い。俺だって家長の責任を果たそうと思っても、子どもを高校まで行かせることもできん。責任を果たせない苦しさが賭博や酒に走らせ、より自分も周りの人も苦しませている。これも持って生まれた人生だと近頃思っている。」と、こんなことを言っていました。人は時と処を得ないと力を発揮することが出来ず、人生は運の占める要素が大きいですよね。

 

 1980年代後半から1990年代前半にかけてブラジルは空前絶後の超インフレを経験しましたが、このインフレを日本サイドでビジネス化した私は大成功者となりました。ブラジルで暮らす日系人のみなさんは、この超インフレで生活もままならず、やむを得ず自国を捨て、日本へ出稼ぎに行かざるを得ませんでした。サンパウロ大学(日本の東京大学クラス)を出た弁護士の方も私の事務所から階段まで続く列に並んで面接の順番を待っていました。列の中には医師や企業経営者もいました。いくらがんばっても報われない人生がある。優れた能力の人が勉学に励み、資格を取り、その後も努力してキャリアを積み上げた結果報われない。そんな人生も当たり前にあるのだと思い知らされたとともに、日本に生まれた幸せをかみしめた一時でした。

 

 ハーバード大学教授のマイケル・サンデル氏が『ハーバード白熱教室』で述べた内容によると、アメリカの優秀な大学146校の学生を対象に彼らの経済的なバックグラウンドを調査すると、アメリカの家族の所得が下から25%に属する学生はたったの3%しかおらず、70%以上が裕福な家庭出身だったといいます。東京大学の学生の家は、別荘を所有している家庭が3分の2もいるという話もあり、アメリカも日本も資本主義社会において格差の固定化は留まることはなさそうですね。日本の労働市場に目を向けると、技能実習他で300万人近いアジアの人たちが労働他のビザで来日してがんばっています。生み、育ててもらい、教育までさせて完成した人材を新興国から労働で受入れる。育てるコストゼロ、老後は帰国してもらい福祉コストゼロとまことに虫のよい政策を始めましたが、こんな話には必ず「落ち」があります。かつて宗主国としてアジアやアフリカに君臨したイギリス・フランス・イタリア・スペインも植民地の独立・発展に追われることになっているように、新興国と幸せ感を共有できないビジネスモデルはどこかでしっぺ返しが来るでしょう。

 

 100円ショップは世界の様々な国で展開され、日本発の成功モデルですが、30年前から日本は100円、フィリピンやベトナムに行くと150円、タイに至っては200円以上と価格が違い、日本が一番安く日本を訪れた外国人旅行客を100円ショップに連れて行くと、「安い安い」と爆買いしますよね。その安さを維持するコストカットが母子家庭の貧困化や非正規の増大につながっているのです。アジアの他の国を見習い、適正利潤を設定すればよいのですが、難しいのが現状です。階層化で利益を出すアメリカ型グローバル・スタンダード・ビジネスモデルは人間を幸せにしないビジネスモデルで、そろそろ賞味期限切れ寸前かもしれませんね。

 

 先日ドイツでタクシーに乗ると、驚いたことにタクシー運転手にドイツ人がほとんどいないではありませんか。トラックの運転手に話を聞くと、その方はポーランド人で、会社もポーランドの会社だといいます。職域そのものを明け渡したのがドイツモデルで、「階層化」ではなく「棲み分け」モデルがドイツでは始まっています。新たな民主主義の壮大な実験が始まったことを感じさせられました。2020年4月から働き方改革の一つ、「同一労働同一賃金制度」の適用が始まる日本では、民主主義の未来実験がどんな形で始まるのでしょうね。