ジャンプ+で『ルックバック』『転生したらヤムチャだった件』に次いで大反響を呼んだ読切「にくをはぐ」は同名の短編集にもなりました。ジェンダーについて取り扱いなおかつ親子間の難しすぎる繊細な問題にまで、まさに肉を削がん勢いで斬りこんだ作品で読み応え十分です。

 今回はそんな短編集から遠田おと先生描きおろしの短編「自担をマジで愛してる」を取り扱いたいと思います。自担とは要するに「私が好きなアイドル」の事ですね。しかもグループ全体ではなくグループの誰かを指しての事だと思います。関ジャニの錦戸くんとかAKBの指原さんとかそんな感じですね。

 

 A-LIVEというアイドルのキリリンというメンバーが好きなおばあちゃんが主人公です。担当こそ違ったようですが、同じくA-LIVEファンの若い女性と意気投合し、それぞれの推しについて語り合います。

 今、使ってふと思ったんですが、自担って要するに推しってことですよね?あまりアイドル文化に明るくないので、軽はずみなことは言えませんが、自担という言葉ってもしかして死語だったりするんでしょうか。2020年に出された漫画で死語が出てくるなんて無いと思いたいですが、最近の文化は異常なほどルーティンが速いのでありえない話ではないかもしれません。

 

 話が脱線してしまいました。大盛り上がりで語り合うファンたちですが、話題は自分たちとは距離が遠すぎて応援の言葉が届かないという暗いものに変わってしまいました。

 ですが、それでも気持ちは届くと女性を元気づけるおばあちゃん。そこで何とおばあちゃんはキリリンの祖母だったことが分かります。それって自担とは違うんやないかいと思わんでもないですが、細かいことは言いっこなしです。

 じゃあ距離が近いじゃないかと思うも、畳みかけるように女性とおばあちゃんの2人は既にこの世の人ではないことが分かります。果てしないくらい遠い場所にいたのです。そりゃあナイーブな気持ちにもなります。お盆でお墓に帰ってきたおばあちゃんはお参りに来たキリリンこと桐斗くんと出会います。当然声は一方的で、おばあちゃんの応援は聞こえません。おまけにキリリンは自身のソロCDが発売されることで不安がたまっているみたいです。

 

 この死者を生きているかのようにキャピキャピと描き、墓だとか仏壇だとか遺影だとかで唐突に死者であることを読者にカミングアウトする手法は今や一般的ですが、アイドルと引っ掛けたことで、うまく読者に勘繰らせないようにできています。ですが、先程も言った通りありきたりな手法。死人であったことは別段、(個人的には)特筆すべき物語のキーではありません。

 ですが、その後、キリリンが生前祖母が言っていた言葉を思い出して、弱気を吹き飛ばすシーンは遠すぎる距離の壁を気持ちよく超えた感動的な場面だと思います。人が死んでも思いは残る。実は死人でしたドッキリよりずっとありふれたメッセージですが、刺さるものは刺さります。

 

(出典:『遠田おと短編集 にくをはぐ』遠田おと 集英社 2020年8月)