72点。

 

イヤミス―「嫌な気分になるミステリージャンル」の同名小説が原作。私は未読ですが、久方振りのミステリーということで、頑張って考察しようと思います!

未怜、頑張れ!頑張れ、未怜!☆٩(。•ω<。)و

 

 

〜あらすじ〜

とある中学校。終業式後のホームルームで、1年B組の担任・森口悠子(松たか子)は、37人の生徒を前に語り出す。私の娘が死にました。警察は事故死と判断しましたが、娘は事故で死んだのではありません。このクラスの生徒に殺されたのです……。一瞬、静寂に包まれる教室。事件に関わった関係者たちの告白によって真相が明らかになっていく中、森口は、罪を犯して反省しない犯人に対し想像を絶する方法で罰を与える……。

(※キネマ旬報Webより抜粋)

 

 

以下、ネタバレ。って言うか、感想。

 

 

□心理的な側面から:森口先生、教師生活最後の渾身の授業にて、魂の告白。

この授業を通して、自分自身の心境の吐露と今後の行動を暗示したもの。この行動は彼女の自己ルールに照らしたもので、実にフェアだと思う。

 

一つ、子どもたちを呼び捨てにしない―

二つ、出来る限り同じ目線に立ち、丁寧な言葉で話す―

 

 

同時に、当映画では少年法の存在について、フェアでない(犯した罪と罰のバランスが取れていない)と捉えている。(そもそも、事故で処理されてしまっている)自分の娘が殺されたという悲痛な告白により、罪の重さを、HIVの血液を使った脅しも、命の重さを理解させたいとする教師としての想いの表れだ。そして、フェアであるということは、加害生徒たちが悔い改めた場合は、復讐を止めるつもりがあったということに他ならないと私は考えるもの。

 

 

□桜宮先生の言葉の引用。生徒に向けられた言葉だけど、自分にも言い聞かせてる。

 

心の弱い者が、更に弱い者を傷付ける。傷付けられた者は耐えるか、死を選ぶしかないのか。いや、君たちが生きているのはそんな狭い世界じゃないんだ。今居る場所が苦しいのなら、別の場所に避難しても良いんじゃないのか。

 

 

これは、表面的には逃げる行為のように思えるけど、実際には新たな形でこの状況と向き合うための行動だと思われる。教師という立場から一歩引くことで、復讐を遂行する自由を得るもの。しかし、教室の窓は何故か、全て曇りガラス。先は全く見通せないね―。

 

でも、フェアであるからと言って、復讐を自己正当化するのは、明確に否定したいと思う。…そんなことしたってきっと、彼女自身が救われないと思うから。

 

 

□社会的な影響から:ルナシー事件。

当物語内の架空の事件だけど、現実の "静岡女子高生母親毒殺未遂事件" を参考にした可能性が高い。

 

 

美月はこのルナシー事件にシンパシーを感じ、命の重さが解っていなかった。それは思わぬ形で彼女に降りかかる。他者の命の重さが理解出来なければ当然に、自分の命だって簡単に失うということ。

 

これをモチーフにした映画「タリウム少女の毒殺日記」はいずれ観ようと思ってる…サブスクに来たらだけど。

 

 

□倫理的な問題から:あれ?のっけから成り立たなくない?

HIVの理解については当映画でも説明されるので、ここでは割愛。要は、牛乳に患者の血液を入れたものを飲んだところで、感染する確率なんてほぼ無いから。

 

 

それより、森口が最愛の夫であるはずの彼の血を利用して、加害生徒へ復讐しようとしたことが問題。これって夫の尊厳を大きく傷付ける行為であり、これこそが劇中で一番のHIV患者に対する偏見と差別だよ。愛する人に対する尊敬や思い遣りが欠けていると、その設定の息遣いが聴こえない。感情と倫理の両方ともを無視すると、人間の物語は成り立たない。現行の法制度や医療知識からも、非現実的な行動だ。ましてや、教職を一体なんだと…。

 

 

□森口先生が加害生徒が飲む牛乳に、その血を入れたかどうか。

入れたこと自体が嘘だと確定する。夫に止められたという話も尤もらしい嘘だ。

 

 

そもそも、告白が全て本当とは限らない。森口先生この時に美月と視線を合わせないもん。森口先生はここで止まりたかったんだ。この時点で、最終目的が当映画の結末までを含んでいたなら、美月にこの場で告白する必要は無いのが理由。自分が間接的にしたことで、加害少年Bの母親が亡くなったのだから、結果的に加害者と同じ境遇に堕ちた。

 

そこまでしても、美月や加害少年Aには、命の重さを理解させることが出来なかった。教師としての能力が不足するから?歪んでしまったけど、教師として最後まで責務を全うせんとする苦しさと悲しみが森口を襲う。森口先生は自分自身を一番責めていて行く道は茨の道。娘から目を離したことは自分が殺したことと同義であると苦しみ、愛する者を自らの手で殺させるという最大の復讐に至った。

 

 

 

~総評~

第三者機関の介入(警察等)が欠けているというプロットの無理は感じる。思春期を拗らせた少年少女を、過剰に愚かに描かれている点も心情的にはきつい。爆弾の存在に気付けたのは加害少年Aのビデオから?事が上手く運び過ぎる。ただ、それ以上に嫌な気分にさせてもらえた。良く出来たミステリーだと思う。

どっかーん!…こんなのフィクション、本気に取っても良くないね。

 

 

命の重さについて深く考えるきっかけにしてください。…なんてね。

 
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