image

 

邦題:反撥

78点。

 

「これは、10代の時に見たかったかも。少し大人になり過ぎたっぽい。」

 

戦場のピアニスト」ロマン・ポランスキー監督のサイコロジカルホラー映画。

映る画で全てを物語り、主役本人の台詞なんてほとんどありません。上級者向け。

直接の描写は無いんですけど、誰かと見ると絶対に気まずいです。お一人様で。

 

 

~あらすじ~

ロンドンで姉と暮らすキャロル。姉が妻子持ちの男を毎晩連れ込むことに、嫌悪感を抱き、同時に男性への恐怖を募らせていた。ある日、姉がその恋人と旅行に出発。

束の間のひとり暮らしを始めたキャロルは、情緒不安定になり、少しずつ精神を崩壊させていく。

(※Filmarks映画より抜粋)

 

 

以下、ネタバレ。って言うか、感想。

 


異性恐怖症のキャロルにじっとりと張り付き、彼女に見えてくる、聞こえてくるものを彼女と同様に私達に体験させる、痛々しい人物の観察をテーマに据えるものです。姉への執着、成熟した性の拒絶、食への無関心といった解り易い症状になります。

 

 

□時代背景に言及はありません。

・風景からは無理があります。英国は古き建築物を大事にする趣があるからです。

・Revlon "Fire & Ice" ネイルカラー。レブロン社は1932年創業です。

・「黄金狂時代」1925年公開のチャップリンの喜劇映画ですが、劇中で語るのは1942年のサウンド版と思われます。

 

以上の事から、1940年代の中頃くらいかなと予想したのですが、ミニのMk-1(1959~1967年製造)が居ましたので、公開当時の "現在" か、時代背景なんてどうだって良かったのかのどっちかです。加えて、キャロルの生活圏は自宅と職場の狭い範囲の往復です。つまり、良く解りません。

 

 

□イギリスで生活するポーランド人姉妹。

あらすじとかパッケージを読まなければ姉妹がポーランド人である事は解りません。因みに女優は二人ともフランス人です。

 

妹のキャロルはネイリスト。意図的に男性と関わらなくて済む職業を選んだのかなと思います。対する姉のヘレンは妻子持ちの男性のマイケルと不倫中です。キャロルにとって安心出来るはずの場所が、目に見えて壊れて行く切っ掛けとなりました。

 

じゃあ、ヘレンが悪いのかと言うと難しいとこ。ヘレンにとってのキャロルは内気でちょっとだらしのない、甘えたがりの可愛い妹。男関係に潔癖症なとこはうざったいけど、断じて病気なんかじゃ無い普通の姉妹だと思っています。マイケルにベタ惚れで彼の言う事なら何でも聞きそうなのに、それを指摘されると怒ったのはそんなとこが理由でしょう。

 

 

□統合失調症患者をしっかりと観察したと思われる描写の数々。

解り易いところは、爪を噛む、髪の毛を弄るといった行動。心の中は見えないけど、纏わりつく様な自然音で表現しています。

 

2021年の "グルコース取り込み障害を呈する脳毛細血管障害は精神疾患の指標となりうるか─栄養環境依存性新規モデルマウスの作成,解析を通して─" の論文ですが、これ、何となく現場レベルでは解っていた様な気もしますが、端的に言うと、砂糖を摂り過ぎると脳血管が炎症を起こして精神疾患の原因になるっぽい。です。

かと言って、全く摂らないと頭が回らない様に人間は出来ているんですけども。

飲み物に角砂糖をいくつも入れる描写があります。この角砂糖はグラニュー糖に砂糖液を加えて固形化したものですから、高ショ糖の最たるものです。

 

 

イギリスに赴任して1年も経たずに精神を病んで帰国した友人が居ます。曰く、水。

当然、慣れない土地での仕事のプレッシャーもあったと思いますが、水が体質に合わなくて、食べ物も満足が行くものでは無かったみたいです。まずは、美味しいものをお腹いっぱい食べる事から始めないといけないねーとお話した事を思い出しました。

 

 

□物語後半の怒涛の展開。

あり得ないくらいに広がって見える廊下や波立つ壁。侵入者はどんなところからでもやって来る。安心出来るはずの場所は形を変えて、逃げ場が無くなった事でキャロルはとうとう壊れてしまいました。

 

 

□額縁に入った家族の集合写真。

劇中で唯一、ポランスキーが提示したのがこれです。エッフェル塔の葉書とか暖炉の上のジュリアン君ではありません。キャロルの右目のアップから始まって、家族写真に影を付けて、子供の彼女の右目のアップで終わらせる事で原因を示唆します。これは見る側の思い入れが深ければ深い程にその反動で、考えつく限りの最低な事を想像してしまいますから、多感な頃に見たならばトラウマ映画になるでしょう。

 

実際には人を殺せる元気も無いので、こんな事は起こらないでしょうが、映画としての演出が際立っているので、不思議と説得力を持っています。

 

 

実に嫌らしい趣味の映画です。これは見世物にするものじゃない。

 
サムネイル