意識高いインデペンデンターが再会した話①

https://ameblo.jp/firemoon01/entry-12482125499.html


意識高いインデペンデンターが再会した話②

https://ameblo.jp/firemoon01/entry-12512978476.html


意識高いインデペンデンターが再開した話③

https://ameblo.jp/firemoon01/entry-12549809428.html




上の続き




4.真っ赤な嘘

 


"光まみれでもう見えなくなった

目を閉じたらこぼれていくこれは何?"



有村竜太郎のとある詩である。



それはごく自然に思考のテーブルに言語化されていた。

 

有村氏と僕の心情が重なるとは到底思えないが、ギラギラとアマノショー・ジャガージャックから卑劣な精神攻撃を受けた僕にとって、少なくともこの一部の詩だけは重なる部分があった。



脚がひどく疲れていた。



力の入らないその脚でフラフラと会場を彷徨った。



行く当てがあるわけでもなく、足のもつれるまま前に進んでいただけだったと思う。

よく覚えてはいない。


ただ、この二人を決して許さないと心に誓ったことだけは今でも覚えている。

 


ふと顔を見上げるとカットが目に入った。


見覚えのある軌道だった。

 

間違いない。



焼肉だ。


焼肉のハラダさんだ。


焼肉のハラダさんといえば、僕に焼肉を奢ってくれる人格者であり成功者であり、そしてカットマンでもある。

 

彼がINDEPENDENTに電撃移籍した年、八王子オープンのペアマッチで二人で優勝したことがある。


A,B,Cクラスとあったが、どのクラスかは覚えていない。


たぶんAだったと思う。(本当はC


ぼくらはいつでも2人でひとつだったし、地元じゃ負け知らずだった。


ひどく情けない話ではあるが、ある時僕は例の奴らに追われてもうダメかもしれないと思ったとき、助けを求めて彼に電話したことがある。


結果的に二人を裂くように電話は切れてしまったけど。


ハラダさんの試合が終わった。


ハラダさんがこちらに気付いて言った。

「見ていたんだね。今の試合。」


笑顔ではあったが、目は笑っていなかった。

この人はいつもこうだ。



僕は答えた。

「ええ。拝見させて頂きました。最期までご立派でした。」

 


「まさか君にそんなことを言われる日が来るとはね。」


僕に背を向け、足元のバッグにラケットしまいそのまましゃがみこんだ。

 

僕はハラダさんと練習したり大会に明け暮れていた日々を思い出した。

ーかつてはインデペ練が毎週執り行われて、他チームを呼んだりしたこともあった。ー



おそらく、ハラダさんもそうだったのだと思う。

背中で大きなため息をついていた。


下を向きながらハラダさんは言った。


「故郷(ふるさと)を捨て去り、でかい夢を追いかけ、笑って生きてきた。」


誰に言うわけでもないような言葉だった。

 

続けて言った。

「これからも変わることない未来を、ふたりで追いかけられると夢みー」

 

「ハラダさん・・・!」

僕は最後まで聞く勇気が無かった。



完璧なチームなどと言ったものは存在しない。

完璧な絶望が存在しないようにね。



いつか、誰かが言っていた言葉が脳裏をよぎった。



ハラダさんはしゃがみこんだまま、床には綺麗な水玉がひとつ、またひとつと光を反射させていた。

 

「ハラダさん。もう・・・終わったことです。」


一体何が終わってたのか自分でも分からなかったが、自然と口にしていた。


 

「冷静になれよ、ってか。あの時もそうだったな。」

 少し笑みがこぼれているような言い方だった。


僕はかける言葉が見つからなかった。

 


INDEPENDENTではない背中のゼッケンが、重石のように、或いは仮面のようにも見えた。

 

 

立ち上がって続けた。

「今思えばそう思ってるのは俺だけだったんだよな。俺たちの本来の姿がなんなのかも知らずにさ。」


変わらず僕に背を向けたまま、高く眩しい天井に視線を移していた。


嘘を言っていると思った。



たぶんこの人が一番最初に気づいてしまったんだと思う。



INDEPENDENTはチームではなく、僕らに共通しているメタファーだと。

 


僕らの青春がアミーゴだった時代は、コップの底に辿り着くまでのほんの一瞬だった。


辿り着いたら、あとは溶けて消えていくのを待つだけの角砂糖のように。


 

「代表の僕がこんなだから、こんなまとまりの無いチームになってしまったんです。あと、さっきアマノ君にも言われたんですが、本当は気づいてました。この口臭。ほら、今この瞬間も。」

 


明白且つ圧倒的事実が、そこにはあった。


 

「俺はさ、君のその口臭嫌いじゃなかったよ。もちろん体臭もね。それにダブルスの時のサーブミスとか、レシーブミスとか、あとその変な髪型もね。」


こちらに振り返ってハラダさんは言った。

その表情は笑顔に似ていた。



この人は大人だった。


ただ、僕は口臭以外のことまで言及した覚えは無かった。

少なくともハラダさんの前では。



ある意味で全てを悟った瞬間でもあった。



ハラダさんは、ハラダさんなりに最後まで僕のことを傷つけたくなかったんだと思う。



ただその優しさが、どうしてかな、とてもつらかった。

 


月五で焼肉を奢ってもらう約束をして、僕はハラダさんのコートを後にした。



行き先は新体連の自チームであるまじかるぱんだ。


といっても、チームメイトはリーダー以外全員初対面だし、焼肉を奢ってもらったことも当然無い。


それでも僕は、彼らの為にも決して振り返るわけにはいかなかった。


ギラギラもジャガージャックも焼肉もそこには存在しない。


僕の居場所は一体何処にあるのだろうか。


僕らインデペンデンターは、海を漂う海月のように、泳ぎが少し苦手なのかもしれない。



脚を一歩また一歩と進める度に、糸がほどけていく音がした。




続く





この物語はフィクションであり、実在する人物、団体とは関係ありません。