科学は面白い
理科離れなんてもったいない。
科学って実は面白い。
にほんブログ村 科学ブログへ
Amebaでブログを始めよう!
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 最初次のページへ >>

熊本地震

 5年前に経験したことのない津波災害に襲われた日本は、再度、かつて経験したことのない種類の災害に襲われてしまいました。被害に遭われました方々に、心よりお見舞い申し上げます。

 従来の内陸型地震と最も大きく異なる点は、日本最古、最大と言っていい、中央構造線の一部と考えていい断層、布田川・日奈久断層帯が動いたことで、当初の日奈久断層の地震(14日21時26分;Mw6.5)に留まらず、布田川断層の地震(16日1時25分;Mw7.3)と繋がり、別府-万年山断層帯へ向かっているように思えます。

 
中央構造線の九州部分


 一見異なる断層帯の地震のように思えますが、大きく見ると中央構造線の一部ですので、同じ断層帯の地震とみることができます。一番大きな16日AM1:25の地震を本震と呼んでいるようですが、もはやこれでは、どれが本震でどれが余震かというのは大きな問題ではないと思います。

 地下でこの断層帯がどのような状況になっているのか、今すぐ調査できるわけではありませんので、今後、地震が四国側などへ伸びて、新たな被害を起こさないと言い切る自信は、私にはありません。中央構造線、特に九州近くにお住まいの方は、是非ご注意下さい。過去、このような大規模な(広義の)群発地震が世界的に存在したかどうか、少なくとも20世紀以降、観測されていないはずですから、もはや、少々極端な言い方をするならばの話ですが、何が起こっても想定外ではありません。幸い、大規模な地震は現在の所収まりつつありますが、しばらくの間、まだ注意が必要と思います。

 なお、中央構造線が動いた地震と思われるものに、慶長地震があります。この時は、西は豊後水道(別府湾-日出生断層帯)から、東は有馬高槻構造線と思われる京都市南部の地震が連続して起こっており、時間的には慶長伊予地震(1596年9月1日、M7.0;川上断層と推定)、慶長豊後地震(M7.5前後と思われる;9月4日)、慶長伏見地震(M7.1弱か;9月5日)となっており、距離的な違いは異なるものの、今回の地震に類似している可能性があります。この例を鑑みても、まだまだ注意が必要だと思われますので、是非ご注意下さい。

 なお、白地図は、Sekai Chizuを使用させて頂きました。深謝申し上げます。


にほんブログ村 科学ブログへにほんブログ村 科学ブログ 自然科学へ

2009年H1N1と2013年H7N9インフルエンザウィルス

 H9N7の感染例がアジア数カ国で拡大しています。ちょっと前まで、H1N1だH5N1だと騒いでいたのが、「一挙に何で9と7何だ?」と思われるかもしれませんが、もともと、Hは16まで、Nは9まであり、種々の組み合わせがありますので、どんな組み合わせがやってきても不思議ではありません。

 インフルエンザウィルスには、A,B,C三つの型に大別でき、H1N1等という名前が付いているのは。中でも変異の著しいA型ですので、正確には、A/Shandong/1/2009(H1N1)~A型/中国山東省分離/1番目に分離/2009年分離(H1N1)~等と書く必要があるものと思いますが、面倒なので、H1N1等と書けば、A型を意味していると思ってください。

 現在では、インフルエンザの自然宿主(正確にはリザーバー)は水鳥ではないかと考えられていますが、他にも存在する可能性もあり、少なくともトリ、豚、馬、イヌなどの食肉目、クジラへの明確な感染例が知られています。

ヒトへの流行で、歴史的に明らかなのは、

1918-1919 スペインカゼ H1N1
1957年  アジアカゼ  H2N2
1968年  香港カゼ   H3N2
1977年  ソ連カゼ   H1N1
2009年  新型インフルエンザ H1N1

などですが、この他、ヒトに対する感染例があるものとして、H5N1と、今回のH9N7があります。また、19世紀末の流行は、H2N2、H3N8、H2N8と言う説もありますが、古い時代のことで詳細はわかっていません。

 ところで、インフルエンザウィルスは、下図のような、10種類の遺伝子(8本だが、2本は、2種類のタンパク質につながっている)を持っています。上から、HA(ヘマグルチニン)、NA(ノイラミニダーゼ)、PA(RNAポリメラーゼα)、PB1(RNAポリメラーゼβ1)、PB2(RNAポリメラーゼβ2)、NP(核タンパク質)、M(マトリクスタンパク質)、NS(非構造タンパク質)を合成する遺伝子です。

 このうち、ウィルス表面にあるHAとNAの抗原型を使って、H1N1等と表しています(下図)。従って、他の遺伝子が変わっていても、H1N1であれば、同じ表現をしますから、例えば、スペイン風邪のH1N1と2009年の新型インフルエンザのH1N1では、他の遺伝子/タンパク質が異なります。A/Shandong/1/2009(H1N1)の遺伝子の類似性解析(よく似た遺伝子を探してくる)を行いますと、最も、或いは2番目に類似しているタンパク質は、

HA A/Swine/Indiana/1726/1988 H1N1
NA A/Duck/Hong Kong/2986.1/2000 H5N1 ; A/Parrot/Ulster/1973 H7N1
NP A/Swine/Iowa/17672/1988 H1N1
PA A/Chicken/Victoria/1/1985 H7N7 ; A/Chicken/Scotland/1959 H5N1
PB1 A/Human/Kitakyushu/159/1993 H3N2 ; A/Human/Hong Kong/5/1983 H3N2
PB2 A/Duck/England/1/1956 H11N6
M1 A/Chicken/Hong Kong/YU22/2002 H5N1 genotype Z
M2 A/Turkey/Ireland/1378/1983 H5N8
NS1 A/Turkey/Ireland/1378/1983 H5N8
NS2 A/Herring gull/DE/677/1988 H2N8

となります。このうち、HA, NP が豚から、NA, PA, PB2, M, NSの7本が鳥から、PB1がヒトからのもので、これらの遺伝子がおそらくは豚の体内で再集合して、新しいH1N1ができたものと思われます。

科学は面白い-A型インフルエンザウィルスの遺伝子


科学は面白い-A型インフルエンザウィルスの表面


 今回のH7N9に関しては、国立感染症研究所の影山努博士、田代眞人博士、ウィスコンシン-マジソン大学の G. Neumann 博士、東京大学医科学研究所の河岡義裕博士ら多くの第一線の研究者の方々によりゲノムレベルの研究が行われ[1]、NS, M, NP, PA, PB1, PB2の6タンパク質はH9N2鳥インフルエンザから、HAも鳥のH7型から、NAも鳥のN9型から(おそらく鳥の中で)再集合した新型インフルエンザで、感染に重要な働きをする、HAの部分が、ヒトに感染しやすい型に変異した形跡があるとのことです(177番目のグリシン→バリン、同じく128アラニン→セリン、217グルタミン→ロイシン)。病原性の鍵を握っているPB2の627番目のアミノ酸は、リシンのものとグルタミン酸のものがありますが、ヒトから分離されたものはリシンがほとんどで、リシンのものは、ヒトにとっては病原性が高いと考えられていますので、これも不安材料の一つというよりは、現実に多数の犠牲者を出している原因と思われます。

 なお、既に抗インフルエンザ薬、オセルタミビルやザナミニルに対して、耐性とは言えないまでも、感受性を低下させるような変異も見られるとのことです。

科学は面白い-2009年H1N1と2013年H7N9の再集合


 まだ研究が始まったばかりですので、パンデミックが起こるかどうかの判断は、恐らく専門家の方でも(もちろん私は専門家ではありません)判断が分かれる、或いは不明だと思われますが、今回のウィルスに限らず、パンデミックは常に起こりうるものとして心構えをしておくことが必要なのではないかと思っています。

 なお、私は医師ではありませんので、上記の情報に不正確な部分もあるかも知れません。情報は必ずしも正確でない可能性があります。ご自身や身の回りの方の健康問題に関しては、必ず専門医の方に相談されますよう、お願い致します。

[1]T. Kageyama, S. Fujisaki, E. Takashita, H. Xu, S. Yamada, Y. Uchida, G. Neumann, T. Saito, Y. Kawaoka, M. Tashiro, Euro Surveill. 2013;18(15):p.20453.


にほんブログ村 科学ブログへにほんブログ村 科学ブログ 自然科学へ

重症熱性血小板減少症候群(その2)

 2年前に中国東部で流行していた重症熱性血小板減少症候群(severe fever with thrombocytopenia syndrome;SFTS)に関する記事を書いたことがあります。Xue-Jie Yu博士らによって、原因ウィルスが特定された時で、当時、媒介宿主が何なのかわかっていなかったので、木(高木だけでなく低木も含めて)の多い地域(in wooded and hilly areas)が危険と書きましたが、少なくともマダニ類(フタトゲチマダニ及びオウシマダニ)が媒介宿主であることがわかりました。これらが自然宿主であることは考え難いので、ペストのケオプスネズミノミのように、自然宿主とヒトの間を媒介しているものと考えられますから、まだ自然宿主は明らかでないと考えたほうが無難だと思われます。なお、マダニ類だけが媒介宿主だとは断定できない状態ですので、咬まれる虫には注意していただくのに越したことはありません。

 以前の記事にもありますように、マダニ類は、日本紅班熱の媒介宿主でもありますし、発疹チフスやツツガムシ病も媒介しますので、咬まれないのに越したことはありませんが、少々の衣服などは貫通して咬みつきますから厄介です。しかも一度咬みつくと気が済むまで?場合によっては数週間、咬みついて離れません。逆に考えると、発熱が始まってからも咬みついたままのことも多く、体中をよく観察すると、そこそこ大きいので、肉眼で発見可能です。発見された場合は、必ず皮膚科を受診してください。自分で引きはがそうとすると大抵失敗します(頭の部分が残ったり、見えなくても咬みついている部分が残っていたりして、かえって厄介です)。症状が出ていて、発見できなくても心当たりがある場合(最近、野原で寝転がったりした)や、咬みついた跡が見つかったりした場合は、内科を受診されて、その旨心配があることを伝えてください。

 なお、中国東部で流行していたウィルスとは微妙にゲノムの塩基配列の差異があるため、もともと日本に存在していたものと考えられます(そうでなければ中国以外からの外来種となりますが、現在のところ、この二か国以外では報告がありません)。そうだとすると、あまり恐れていては何にも出来なくなってしまいますが、SFTSVの自然宿主がうろうろしているのは、今回発見された山口県だけとは限りませんので、念のため。

 と言っても、SFTSを発症した場合、有効な治療法があるわけではありません。インターフェロンは(効果があるとしても)急性感染症には向きませんし、リバビリンが有効であってもおかしくはないのですが、確実性に欠けますし、少なくとも日本では適応外です。ましてや、ヴィラミディンはまだ認可されていません。対症療法しかないのですが、血小板減少が主たる症状ですので、成分輸血や血圧管理などを行うだけでも、少しは異なるのではないかと思います。

 なお、私は医師ではありませんので、上記の情報に不正確な部分もあるかも知れません。情報は必ずしも正確でない可能性があります。ご自身や身の回りの方の健康問題に関しては、必ず専門医の方に相談されますよう、お願い致します。

にほんブログ村 科学ブログへにほんブログ村 科学ブログ 自然科学へ

1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 最初次のページへ >>