チョコレート・ウォッチバンド(2) ジ・インナー・ミスティーク (Tower, 1968) | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

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元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。

チョコレート・ウォッチバンド - ジ・インナー・ミスティーク (Tower, 1968)
チョコレート・ウォッチバンド Chocolate Watchband - ジ・インナー・ミスティーク The Inner Mystique (Tower, 1968) :  

Released by Capitol / Tower Records ST 5106, February 1968
Produced by Ed Cobb
(Side 1)
A1. Voyage of the Trieste (Ed Cobb) - 3:41 (by The Yo-Yoz)
A2. In the Past (Wayne Proctor) - 3:08 (by The Yo-Yoz)
A3. Inner Mystique (Cobb) - 5:37 (by The Yo-Yoz)
(Side 2)
B1. I'm Not Like Everybody Else (Ray Davies) - 3:42
B2. Medication (Ben Di Tosti, Minette Alton) - 2:08 (Don Bennett, vocal)
B3. Let's Go, Let's Go, Let's Go (Hank Ballard) - 2:18 (by The Inmates)
B4. Baby Blue (Bob Dylan) - 3:14
B5. I Ain't No Miracle Worker (Annette Tucker, Nancie Mantz) - 2:53
(CD Bonus Tracks)
9. She Weaves A Tender Trap (Cobb) - 3:29 *Originally Released as Uptown 749
10. Misty Lane (Martin Siegel) - 3:16 *Originally Released as Uptown 749
[ Personnel ]
< Chocolate Watchband > B1, B2, B4, B5. Bonus tracks only
David Aguilar - lead vocals, harmonica, percussion (expect B2)
Sean Tolby - lead guitar
Mark Loomis - rhythm guitar, backing vocals
Bill Flores - bass guitar
Gary Andrijasevich - drums, backing vocals
Danny Phay - lead vocals (Bonus Track 1,2)
< The Yo-Yoz > Side 1 (All tracks)
Ed Cob - producer
Bill Cooper - engineer
Richard Podolor - engineer
Don Bennett - lead vocals (A2)
with Studio Musicians
< The Inmates > B3
Don Bennett - lead vocals
with Studio Musicians 

(Original Tower "The Inner Mystique" LP Liner Cover & Side 1 Label)

 このバンドのデビュー作『ノー・ウェイ・アウト (No Way Out)』'67は先にご紹介して、そこで活動歴全般まで触れてしまいましたから、つけ足すことはほとんどありません。バンド名について触れておくとこのバンド名は紛らわしいので「The」がついたりつかなかったり、「Chocolate Watchband」ではなくて「Chocolate Watch Band」と切り離して表記されてきました。一見同じに見えて前者と後者では違ってくるので、後者なら「チョコレート腕時計バンド」、前者なら「チョコレート製時計ベルト」ということになります。バンドは再結成後の'60年代音源全集(といってもCD2枚組)でバンド名を「The Chocolate Watchband」と定め、その後は「The」が取れたり戻ったりしますが2枚組全集(Big Beat, 2005)のタイトルが『Melts in Your Brain...Not On Your Wrist!』(「手首ではなくて……お前の脳の中で溶かせ!」)ですから、チョコレート製腕時計ベルト(Chocolate Watchband)という名称がバンドの意図なのです。実にサイケデリックです。だいたいこのバンドは音はださいのか決まっているのかリスナーを惑わせるのにバンド名やアルバム・タイトル、アルバム・ジャケットはなかなかかっこよく、デビュー作が『出口なし』なら第2作の本作は『内なる神秘』、第3作でラスト作は『一歩後退 (One Step Beyond)』で、なかなか気が効いています。そして再結成後の2005年の全集『Melts in Your Brain...Not On Your Wrists! : The Complete Recordings! (手首ではなく…頭の中で溶かせ!)』の添付データで初めて明かされたことですが、デビュー作も28分半全10曲中チョコレート・ウォッチバンドのメンバー全員による演奏が2曲しかなかったばかりか、やはり27分半全8曲しかない本作もバンド自身による演奏は旧LPのB面5曲のうち4曲、そのうち本来のリード・ヴォーカリストが歌っているのは3曲というありさまです。

 LPのA面に当たる3曲は3曲ともプロデューサーのエド・コブがスタジオ・ミュージシャンに即席で組ませたザ・ヨーヨーズ(The Yo-Yoz)の作・演奏(このメンバーのリチャード・ポドローは前作に引き続き参加で、一方ではエレクトリック・プルーンズのマネジメントを勤めていました)、LPのB面5曲は全部カヴァー曲でバンド自身の演奏はB1、B2、B4、B5しかなく、うちエド・コブのプロデュースしたザ・スタンデルスのファースト・アルバム『Dirty Water』(Tower, May 1966)のオープニング・ナンバー「Medication」のカヴァーB2(外部ライター提供曲ですが、なかなかのガレージ・ロックの名曲です)はデビュー作に引き続いてコブが連れてきた黒人シンガーソングライター(ヨーヨーズにも参加)のドン・ベネットが歌っており、B3は本来バンド自身のレパートリーだったのにベネットが歌う即席バンドのザ・インメイツ(The Inmates)が演奏しています。つまり全8曲中チョコレート・ウォッチバンドのメンバー自身の歌と演奏はB1、B4、B5の3曲しかないのです。ボーナス・トラックのアルバム・デビュー前のシングルはチョコレート・ウォッチバンド自身による歌・演奏です。A面を占めるコブとポドローによるスタジオ・ミュージシャン・バンド、ヨーヨーズの演奏によるインストルメンタル曲はいかにも'60年代後半らしいレトロでモンドなサイケデリック曲で、これはこれでTV番組主題曲のようないかがわしくもいいムードなのですが、A面はサイケ・インスト、B面はガレージ・ロックと、本作は1枚で二度おいしいのか、A面とB面がまるで別物の中途半端なアルバムか、収録時間の短さもあってリスナーを大いに困惑させます。

 実は翌'69年に発表が持ち越された第3作『ワン・ステップ・ビヨンド』の方がデビュー作以前に録音されたことも現在では判明しており、同作はAB面で23分全7曲しかないアルバムながらアシュフォード&シンプソンのカヴァー1曲を除く6曲がメンバー自作曲で、全曲チョコレート・ウォッチバンドの歌・演奏の唯一のアルバムになります。しかしその頃にはバンドの人気は凋落しており、なし崩し的に解散して30年後の1999年に突然再結成したしぶとい人たちがこのバンドで、‘60年代ロック研究の第一人者アレック・パラオ氏(現在再結成ウォッチバンドにベーシストとして正式メンバー、かつプロデューサー)編・監修のCD2枚組全集『Melts in Your Brain…Not On Your Wrists! : The Complete Recordings!』にも曲が足りないのと、昔はヴォーカルを差し替えられてしまったので、ベネットが歌う旧ヴァージョンと本来のヴォーカリストのデイヴ・アギラーが同じバック・トラックに新しくヴォーカルを入れたヴァージョンの2通りを収録したりしています。しかも2005年(ほぼ40年ぶり!)に新録したアギラーのヴォーカルもベネットそっくりとなると、チョコレート・ウォッチバンドのアルバムとはいったい何だったんだということになります。本作ではB1に、キンクス'66年の全英No.1ヒット曲「サニー・アフターヌーン」のシングルB面に隠れていた反骨的な名曲「僕はウヌボレ屋 (I'm Not Like Everybody Else)」(近年iPhoneのCMにも使われました)をいち早くカヴァーした鋭いセンス(このアルバム最高のハイライトとなった1曲はアギラーのかぶりつきヴォーカルも冴えて、このバンド最高の演奏にしてガレージ・パンク最高の名演の一つでしょう)も見せつけながら、デビュー作のジャケットまで真似たテキサスの13thフロア・エレヴェイターズもカヴァーしていたボブ・ディランの「イッツ・オール・オーヴァー・ナウ、ベイビー・ブルー」(ザ・バーズよりも先です)をつたなく(そこが味ですが)やっています。そこがガレージ・ロックのリスナーには刺さるので、泡沫ガレージ・バンドのブローグスのマイナー・ヒット名曲「ミラクル・ワーカー」(作者はエレクトリック・プルーンズの「今夜は眠れない」のソングライター・コンビで、ポドローの縁でしょう)のカヴァーなど似たようなガレージ・バンド同士ですからなかなか良いのですが、ブローグスのヴァージョンは'65年末リリースです。つまるところチョコレート・ウォッチバンドの最大の強みと弱点は、サイケデリック全盛の時代になってもビート・グループ崩れのガレージ感覚から出なかったことでした。スタンデルスやザ・シーズ、エレクトリック・プルーンズにも通うこのだささはスタンデルスでは先駆的でしたし、シーズの場合は間抜けな愛嬌に突き抜けたものになり、プルーンズでは強引なプロデュース側になし崩しにされたものでしたが、チョコレート・ウォッチバンドの場合はプロデューサーに粉飾されてサイケデリック然としてしまったことにあり、本作も裏ジャケットにはデビュー作同様予約したファン一覧の名簿を載せていますが(13thのデビュー作の真似です)、デビュー作より名簿の人数が膨大に増えているのは当然100枚単位でしかプレスされないこのバンドでは寄贈などはできないでしょうから、「お前らの名前が載せてあるからキャンセルせず買え」作戦としか思えません。しかしバンドの人気は失速し、次作はデビュー作前の録音を手直しして新作として出す、という切り札を切り、見事に不評と売れ行き不振でバンドは解散となります。こんなみっともないアルバム制作、そして終わり方ができたバンドがどれだけあるかと思うと(しかも平然と30年後に復活して大活躍しています)、チョコレート・ウォッチバンド的な生き方(出口なし→内なる神秘→一歩後退)もありかな、という気がしてくるのです。 


(旧記事を手直しし、再掲載しました)