Vassily Kandinsky, "In Blue", 1924
生きいきとして純粋な
または、やんごとないできごと
まず蛸つぼを ふみにじる 誰もそこに隠れ家を
見つけないように それからビスケットを ふみにじる
誰のおやつにも あきらめる ように そしてきみの内面を
塗りつぶす きみが内面を 誇らないように
ぼくは 徹底的にやる
それから音楽をにぎりつぶす 空間ごと
何も鳴りひびかないように
「くさった梨のひときれのに 地獄も 神もあったものか
世界でいちばん偉い王様はだあれ?
乞食の王様はだあれ?」
生きいきとして純粋な ブルーに染まった
きみのたましいに ぼくは反吐を吐きかける
ぼくはひとつの 反感器官として ぼく自身を
締めあげる やがてぼく自身が それに
飽きるまで それをつづける どこの世界も例外はいるが
ぼくは 例外ですら ない
かぐわしく熟れたぶどうの
または、やんごとないできごと
それはぼくの生まれた土地 薔薇とひまわりの
咲きほこる土地だ ぼくは稲妻に打たれ
堕ちていく一羽の鳥の 翼 のなかに包まれて いた
ぼくは着地した この土地の土に
かぐわしいぶどうの熟れる 腐葉土の土に
かぐわしく熟れたぶどうのように
ぼくは 甘やかされて そだった
坂と河の町 鳥が空をよぎり
魚が河をおよぐ それはごくごく
ありふれた現象でしかない しかしぼくは いつの間にか
大きく破損して 空に 河に おぼれた
ぼくは暗号を受信し ぼくの信管は震えた
生きながら死んでいる手榴弾 しかしすでに ぼくは
もう 慣れてしまった だから このまま ぼくのことは
放っておいてくれないか まやかしと まがいものの かぐわしく
熟れたぶどうが腐りはてる まで
収穫と損失
または、やんごとないできごと
「一般的には男女ともに 性行為は
成人するまで待った方がいい 精神的に
また経済的に 性行為ほどリスクを負いかねない
経験はないから」などと くだらないことから
書きだした「詩」に ろくなものはないので
あえて くだらないことから 書きだしてみた それが
「詩」という くだらないものへの ぼくの
スタンスだ つまりぼくは ぼくにとって
すでにどうでもよければ くだらないこと にしか 「詩」を見いだせないほど 詩に
音楽に そして 芸 術 に あきあきして 憎んですら いる
ぼくのなかの 一羽のカラスが 血を吐きながら
鳴きわめいては 抗議する カラスはいつも
からからの 空白にさらされて 飢えているから
何とかぼくを 駆りたてようと なおも鳴きわめくが
ぼくはカラスの くちばしをへし折り しめ殺す それがたぶん唯一のぼくの
収穫と損失だ