大場久美子、サージェント・ペパーズを歌う! | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

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元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。

⬇直筆サインとキャッチ「アイドル界の甘えん坊将軍、ラテンを唱う」に注目!
大場久美子 - Sgt. Pepper's Lonely Club Band (from the album "なんてったってアイドルポップ -あこがれ-", 東芝EMI TOCT-8061, 1993.6.30) - 6:24 :  


 この曲は東芝EMIが1993年に『なんてったってアイドルポップ』という共通タイトルで伊藤咲子(1958-、副題「つぶやきあつめ」)、岡崎友紀(1953-、副題「しあわせの涙」)、片平なぎさ(1959-、副題「純愛」)、ザ・リリーズ(双子姉妹の燕奈緒美・真由美/1960-、副題「水色のときめき」)とともに発売された本人の代表的ヒット曲の再録音新アレンジ版+カヴァー曲集という企画盤シリーズの大場久美子(1960-、副題「あこがれ」)盤収録曲ですが(伊藤咲子のみ2CD、他は1CD)、この面子からもおわかりのように三十路を過ぎた'70年代女性アイドル歌手のリサイクル企画の色が強く、当時どの元人気アイドルたちのヒット曲のオリジナル盤は東芝移籍前のレコード会社で廃盤になっていたため、新アレンジ版の再録音によるベスト・アルバムにレア曲の再収録と、新たにカヴァー曲を加えたものとなっています。ジャケット写真もあえてアイドル時代の全盛期だった頃のポートレイト写真によるベスト盤のように見せかけておきながら共通タイトルは『なんてったってアイドルポップ』と、1990年代のリリースにしては微妙にズレた路線ばかりか、ジャケットのダサ可愛さ、ヒット曲の新アレンジ、カヴァー曲の奇天烈さとともにひそかに'70年代女性アイドル歌手マニアの間で話題を呼び、初回プレスのみで廃盤になった現在は中古CD市場でプレミア価格で取引されているシリーズです。
 中でも話題になったのが本作で、1993年当時大場久美子はVシネマ出演作のヘアヌード場面をめぐって係争中で、かつ翌1994年には経営していたレストランの負債によって自己破産という実に元大人気アイドルらしい三十路を送っていました。もともとデビュー当時からその破壊的な歌唱力には定評があり、'70年代にはNHKではプロのデビュー歌手でもNHK独自のオーディションを合格しないとNHKには出演させない制度を取っていましたが、大場久美子はなかなかNHKのオーディションを合格できないことでも話題を呼びました。19歳の1979年には日本武道館で「さよならコンサート」を開いて女優専念・歌手引退を宣言し、記者会見で理由を問われて「私は音痴だから」と答えて芸能界を啞然とさせましたが、5年後の1984年には突然シングルを発表し、歌手復帰します。

 東芝企画の『なんてったってアイドルポップ』シリーズで他の元人気アイドルたちがキャリア相応の成長と円熟した歌唱力を披露したのに対し、大場久美子盤はデビュー~人気全盛期に輪をかけたとんでもないヴォーカルに磨きがかかり、『なんてったってアイドルポップ』シリーズ中でも最大の注目を一部のマニアから浴びました。他の元人気アイドルたちのシリーズ盤が標準的な曲数だったのに大場久美子盤は全19曲も収録され、ほとんどの曲が2分台とあっけなく、しかもアルバム・エンディング曲に久美子レパートリーのレア曲、ビートルズの「サージェント・ペパーズ・ロンリー・クラブ・バンド」の日本語カヴァーまで入っているという念の入りようで、しかもアレンジャーは'70年代から現在まで歌謡界の御大・萩田光雄(1946-)が手がけ、アルバム最長の6分24秒をかけてジャズ・ロック、ブルース・ロック、レトロR&B、アイドルポップ、歌謡曲がモザイク状に展開され、大場久美子のゆるふわヴォーカルと野卑な男女混声コーラスが唱和する、異常なサイケデリック歌謡空間を作り出しています。この曲はアナログLP時代の『Kumikoアンソロジー』(東芝 TP-80070, 1979.3.20)が初出(同LPではA面1曲目)なのですが、CDでは『なんてったってアイドルポップ』盤でしか聴けないためこの1曲のために本作を探している'70年代アイドルポップ・マニア、ビートルズ・マニアは多いと言われます。このカヴァーの脱力感は、世界を平和にする1曲として細く長く語り継がれていくにふさわしいでしょう。お聴きください。これが大場久美子が歌う「サージェント・ペパーズ・ロンリー・クラブ・バンド」です。