「 歩けメロス 」の ネタ元の ネタ元です。(●´ω`●)ゞ
シラー作 「 人質 」
暴君ディオニュソス王に メロス( 原作では ダモン )は
忍び寄った、短剣を衣服に隠して。
メロスを捕吏たちが縛り上げた。
「 お前はその短剣で何をしようとしたのだ、話せ ! 」
ディオニュソス王に陰鬱にその怒れる男は答えた。
「 この町を暴君から解放しようとしたのだ ! 」
「 そのことをお前に十字架上で後悔させてやろう 」
「 俺は 」、とメロスは話す、
「 死ぬ準備は出来ている。
命乞いをしようとは思わん。
しかし、お前が俺に慈悲を垂れようというのであれば、
三日間待ってくれ、
俺が妹を許婚と結婚させてしまうまで。
俺は友達をお前に人質として委ねる。
もし俺が逃げたら、そいつをお前は縛り首にするがいい 」
すると王は悪しき企みを心に抱いて微笑む。
そして少し考えてから言う。
「 三日間の猶予をお前にやろう。
しかし、わかっているだろうな!
お前が戻って来る前に もしその期間が過ぎたら、
お前の友達は お前の代わりに死なねばならん。
しかし、お前の罰は免除してやろう 」
そしてメロスは友人の所へ行って言う。
「 王は命じた、 俺が十字架で悪しき企てを
償うようにと。
しかし、俺が妹を許婚と結婚させるまで、
王は俺に三日の猶予を与えようというのだ。
そういうわけで、お前が王の人質になっていてくれ、
縛めを解くために、俺が戻って来るまで 」
すると黙って彼を忠実なる友人は抱擁して、
身を暴君に委ねる、
メロスは出発する。
そして三度目の曙が現れる前に、
メロスは急いで許婚と妹を結婚させてしまい、
心に憂いを抱きつつ急ぐ、
約束の期限を逸しないようにと。
すると絶え間ない土砂降りの雨が降ってきて、
山から泉が溢れ出る。
小川は溢れ、流れは溢れる。
メロスが旅の杖を携えて岸に着くと、
橋を激流が押し流し、
轟音を上げつつ波は
橋のアーチを打ち壊す。
メロスは川岸をさまよう、
どれほど見回しても
どんなに叫んでも
舟は安全な岸辺を離れて
メロスを向こう岸へ渡そうとはしない。
船頭は渡し舟を操ろうとせず
荒々しい流れは大海の如くになる。
そこでメロスは岸辺に座り込み、
泣いて嘆願する、
手をゼウスの方に差し上げて。
「 ああ、荒れ狂う流れをとどめて下さい !
時は速やかに過ぎ去り、南に
太陽はあります。そして、もし日が沈んだら、
そして、私が町にたどり着かなかったら、
友達は私のために死なねばならないのです 」
しかしますます流れは激しくなり、
そして波は次々に砕け、
そして時は刻々と過ぎ去る。
メロスは不安に駆り立てられ、勇気を奮い起こし、
激しい流れに飛び込む
そして、力強い腕で
流れを分けて泳ぐ、すると一人の神が慈悲を垂れ給う。
そして岸にたどり着き、急いで進む。
そして救い給う神に感謝する。
そこに盗賊の群れが
暗い森から現れて襲いかかり、
メロスの行く手をさえぎり、殺すぞと息巻き、
脅かすように棍棒を振り回して
急ぐ旅人の邪魔をする
「 何が欲しいのだ ? 」
とメロスは、叫ぶ、
驚愕の余り青ざめて、
「 俺は自分の命以外は何も要らぬ、
これを俺は王に与えねばならんのだ ! 」
そして棍棒を近くにいる奴から直ちに奪い取る。
「 友達のためだ、哀れと思ってくれ! 」
そして三人を力いっぱいぶんなぐって
メロスが倒すと、他の者たちは逃げてしまう。
そして太陽は焼けつくような暑熱を送り、
そして終らぬ努力に
疲れて膝は沈み込む。
「 ああ、神様は私をお恵みにより盗賊の手から救い、
濁流から神聖な土地に救い上げて下さいました。
それなのに、ここで憔悴して死ねとおっしゃるのですね、
そして私のために身代わりになった友人に
死ねとおっしゃるのですね ! 」
すると、ほら! 銀色に輝く水が
すぐ近くに流れる音がする、さらさらという水音が、
そして静かに彼は聞き耳を立てる。
すると、見よ、岩から、囁くように、すばやく、
つぶやくように、生き生きとした泉が溢れる。
喜んでメロスは身をかがめ、
燃える四肢を冷やす。
太陽は枝の緑を通して射し込み、
木々の巨大な影を描く。
メロスには二人の旅人が道を進むのが、
急いで通り過ぎるのが見える。
その時彼には彼らが言うのが聞こえる。
「 今頃あの男は十字架につけられている 」と。
不安は急ぐ足に羽をつけ、
彼を憂慮の苦しみは追い立てる。
すると夕陽の輝きの中で
遠くからシラクサの城壁がほのかに光る。
メロスに、家の実直な守り手、
ピロストラートスが向って来て、
主人を驚いて認める。
「 お戻り下さい。もうお友達を救うことはできません。
自分自身の命をお救い下さい。
お友達は今死の苦しみを味わっておられます。
毎時間、お友達は
戻って来られるのを待ち望んでおられました。
お友達から勇気ある信頼を
暴君の嘲りは奪うことはできませんでした 」
「 たとえ遅くなり過ぎても、そして俺が奴に
歓迎される救い手として現れることができなくても、
俺は死んで奴と一つになるつもりだ。
残忍な暴君に
友が友に対して義務を果たさなかったことを
自慢させてなるものか。
暴君には二人を犠牲として殺させ、
そして愛と誠を信じさせてやるのだ 」
そして太陽が沈む時、メロスが市の門に立と、
十字架が既に立てられるのが見える。
群衆は口を開けてその回りに立っている。
綱につけられて既に友人が引き上げられようとしている。
その時メロスは力強くひしめく人々をかき分けて、
「 刑吏よ、俺を 」とメロスは叫ぶ
「 縛り首にしろ ! 俺はここにいる、
俺の代りにそいつは人質になっているのだ ! 」
周囲の民衆は驚きに捉えられる。
お互いの腕の中に 二人は抱き合って、
そして痛みと喜びのあまり泣く。
見る限り濡れていない目はなく、
王にこの不思議な話を伝える。
王は人間らしく感動して、
すぐに王座の前に 二人を連れて来させる。
そして二人を長く 不思議そうに見つめる。
そして彼は言う。
「 お前たちは成功した、
お前たちは私の心に打ち勝った、
誠は空虚な妄想ではないのだ、
私も仲間に加えてくれ、
願いを聞き届けてくれるなら、
私を お前たちの仲間の三人目にしてくれ 」
ヨーハン・クリストフ・フリードリヒ・フォン・シラー
( Johann Christoph Friedrich von Schiller、1759年11月10日 - 1805年5月9日 )
ドイツの詩人、歴史学者、劇作家、思想家。
ゲーテと並ぶドイツ古典主義の代表者である。