火星の「メタンガス噴出」は的外れ?


「Science」誌9月19日号(電子版)に掲載された論文によると、火星探査車キュリオシティの観測結果からは、期待されていたメタンが検出できなかったようだ。2009年の論文で定期的なメタン噴出が報告され、微生物の兆候と見なされていたが、的外れだった可能性がある。


音史のブログ-火星_メタンガス
火星探査車キュリオシティがレーザーで組成を分析し、サンプル採取のためにドリルで穴を開けた岩石。メタンは見つからなかった。

Image courtesy NASA/Caltech/LANL/IRAP/CNES/LPGNantes/IAS/CNRS/MSSS


「メタンの有機ガスが地下から定期的かつ大規模に噴出している…。」2009年の論文は、火星に関する最新の発見として注目された。しかし今回の分析が正しいとすると、信憑性が揺らぐことになる。

 カリフォルニア州パサデナにあるNASAジェット推進研究所(JPL)の惑星科学計測器部門(Planetary Science Instrument Office)マネージャー、クリス・ウェブスター(Chris Webster)氏は、「疑問の余地はない。内容には自信がある」と述べた。

「火星大気内のメタンのバックグラウンド濃度には上限がある。メタン生成に関するシナリオは、かなり影響を受けるだろう」。

 メタンガスに関心が集まるのは、地球上のメタンの約90%が微生物から生成されているという事実があるからだ。2003年、地上からメタン噴出の兆候が観測されたため、地下に潜む微生物を発見できるのではないかと期待が高まっていた。

◆2009年の論文著者が反論

 メタン噴出に関する2009年の論文の執筆責任者で、メリーランド州グリーンベルトにあるNASAのゴダード宇宙飛行センターのマイケル・ムンマ(Michael Mumma)氏は、2003年に火星で相当量のメタンガスが局所的に噴出していたという自説を、いまも確信していると述べた。

「火星大気では、地球よりもかなり速くメタンが破壊される。当初から3年以内に行った観測では、半分が消失していた」。

 ムンマ氏は今回の発表について、「実際には、私たちの研究成果と一致している。噴出は散発的な傾向があり、メタンは大気中ですぐに消滅すると報告していた。幸いにも、メタン検出用の計測器はいまも稼働中だ。今後の継続的なモニタリングを楽しみにしている」。

 アメリカやヨーロッパのほかの研究者も、火星大気のメタンレベル上昇を検出していた。例えば2004年、欧州宇宙機関(ESA)の探査衛星マーズ・エクスプレスも大気中にメタンを検出している。しかし、ムンマ氏の論文が示す詳細なデータは得られていなかった。

◆キュリオシティ・チームの反論

 JPLのウェブスター氏は、火星のメタンに関するこれまでの論文について、「額面どおりの価値はある」と述べる。「どれも論文審査のある学術誌に発表されているからね。でも、キュリオシティの観測結果とは明らかに違う」。

 地質学的作用の場合もあるが、地球上の大部分のメタンは、ヒトからウシ、シロアリに至るまで、さまざまな生物の消化器官に存在する微生物「メタン菌」の副産物として合成される。同時にメタン菌は、湿地や埋め立て地、さらには地下深くなど、幅広い環境に適応できる。

 表面に降り注ぐハイレベルの放射線、低温、乾燥、酸性度など、厳しい火星の環境下で微生物が生存するとすれば、大深度地下の可能性が高いと考えられている。

 ムンマ氏のチームは、メタン噴出の原因として微生物について言及していないが、地質学的作用とともに可能性の1つに挙げていた。

◆キュリオシティの測定データ

 今回の論文によると、キュリオシティが地表で検出したメタンのレベルは極めて低く、生物由来の可能性はほぼゼロに等しいという。

「メタンは非常に安定している気体だ。存続期間や時間経過による分解の仕組みも解明されている」。

 では、火星大気に地球よりかなり速いペースでメタンを分解する何かが存在する可能性は…? 「想像できないことはないが、証拠もないし、観測もされていない」とウェブスター氏は語った。






<ナショナルジオグラフィック 記事より>