竜巻と地球温暖化に関連性はあるのか?


 巨大な竜巻の発生数が、地球温暖化の進行に伴って増加していると考える人は多い。両者の間に関連性はあるのだろうか。


音史のブログ-竜巻と地球温暖化
 地球温暖化が竜巻の発生頻度に及ぼす影響については、まだ不明な点が多い。

Photograph by Carsten Peter, National Geographic


 温室効果ガスが熱を吸収すると、大気エネルギーが増大する。竜巻は、その膨大な大気エネルギーの存在を示す象徴だ。

 現段階では、天候の100%予測は難しい。特定の異常気象と温暖化の結び付きを単純な論理で説明するには無理がある。しかし、昨今の気候パターンと温暖化との間に、なんらかの関連性を推し量ることはできる。例えば、一昔前より頻発している降雨の統計データから、温暖化がもたらす水蒸気量の増加が異常気象の発生につながっているという研究結果も報告されている。

 しかし、竜巻には他の異常気象とは違う点があり、温暖化が追い風になっているとの報告もある一方、ブレーキとして働いているとも解釈できるという。専門家の間でも、どちらかが正しいのか結論は出ていない。

 過去データからもこの点は明らかになっておらず、竜巻の発生数増加を示す証拠はない。1950年代から観測数はそろってきているが、データを詳細に分析すると、増加しているのは、竜巻の強さを分類する改良藤田(EF)スケールで最低の「EF0」カテゴリーの竜巻のみ。大きな竜巻の発生数増加を示すデータはなく、EF4やEF5といった最高レベルの竜巻にいたっては、むしろわずかに減少しているとも考えられるという。

 同時期、アメリカの人口は2倍に膨れ上がっており、小規模な竜巻の観測機会が多くなったとも解釈できる。60年前は高性能観測機器のドップラーレーダーもなく、トルネード・アレイ(竜巻の通り道)となるオクラホマ州のハイウェイに専門の研究者が押し寄せることもなかった。

 また、コロラド大学のロジャー・ピールケ・ジュニア(Roger Pielke, Jr.)氏の研究チームによると、竜巻による被害規模が拡大しているという証拠もないという。2011年は大規模竜巻が頻発した年だったが、人口と資産の増大を考慮に入れると、被害の大きさでは1953年と1965年に及ばない歴代3番目だった。

 ナショナル ジオグラフィック誌では、2012年9月号「猛威を振るう異常気象」で竜巻関連の写真を表紙に掲載、6ページにわたる特集を組んだ。2011年にアラバマ州のタスカルーサとバーミングハムを襲い、64人の死者を出したEF4クラスの被害記録も含まれている。

 しかし、この執筆者のピーター・ミラー(Peter Miller)氏は、「感覚をあてにして“竜巻が増えている”と断定するのは避けるべきだ」という点も明確に述べている。

◆発生要因となる2つの要素

 ただ、温暖化が年々進んでいるため、過去データも予測にはあまり役に立たない。では、物理学の観点から今後の傾向予測を行うとどうなるだろうか。

「重要なのは、嵐が形成される大気の構成要素の中の2つだ」と、インディアナ州にあるパデュー大学の大気科学者ジェフ・トラップ(Jeff Trapp)氏は解説する。

 まず、熱と湿度を含む不安定な大気エネルギーに注目したい。発生頻度が高いオクラホマ州では、メキシコ湾沖合からの南風によって運ばれてくるという。

 そしてもう1つの要素は、急激な乱気流“ウインドシア”である。地表付近と大気上層部間での、風向きや風速が劇的に変動する現象で、「基本的に、西方から寄せるジェット気流(偏西風の流れ)の強さが影響する」とトラップ氏は説明する。ウインドシアが大きいと、スーパーセル(竜巻の発生源となる非常に激しい雷雲)内部の熱と上昇気流の強さが増大して、雷雲の回転運動が強まる。嵐が形成される条件が整い、竜巻の前兆となる細長い雲「漏斗雲(ろうとうん)」が発生するという。

 一方、温暖化と竜巻の関連性に関しては、原因と結果がそう簡単に結びつかない。温暖化によって大気内のエネルギーは増大するが、ウインドシアは弱まるはずだからである。

 ウインドシアを助長するジェット気流の強さは、地球上の温暖な熱帯地域と寒冷な極地域の温度差によって決まる。しかし、極地域の方がいち早く温暖化傾向が現れるため、かえって弱くなるはずだ。つまり、竜巻発生につながるウインドシアも温暖化によって抑制される。北極の氷床が溶け、ホッキョクグマの生息地が脅かされているような現状では、本来ならジェット気流が弱体化し、竜巻の発生頻度も低下するはずなのである。だがそうとも限らないというところに、竜巻研究の難しさがある。

 トラップ氏によると、最も重要なのはこの2つの要素だが、ウインドシアが小さくても大規模な雷雲が発生する場合はあるという。

 同氏は現在、地球全体の気候モデルと局所的な高解像度の気候モデルを組み合わせ、レーダーの画面上に仮想上の竜巻を表示する研究を進めている。

 この研究が進めば、オクラホマをはじめとする竜巻の頻発地域の気象予報に役立つ可能性がある。そんな中、同氏は最後に1つだけ確かなことがあると言い、こう続けた。「ここ数日間、オクラホマでは、ウインドシアと大気中のエネルギーの両方が非常に大きい状態が続いている」。





<ナショナルジオグラフィック 記事より>