花蜜食コウモリの舌は血流で形状が変化


パラスシタナガコウモリ(学名:Glossophaga soricina)は長い舌を使って花の蜜を飲むことが知られているが、このほど、ハイスピードカメラを用いた研究によって、コウモリの舌の形は血流によって変化し、そのおかげで効率良く花の蜜を絡めとれるということが確認された。研究の共著者であるアメリカ、ブラウン大学のキャリー・ハーパー(Cally J. Harper)氏は、これは自然界に類を見ないものだと語る。


音史のブログ-花蜜食コウモリ
パナマで撮影された花蜜食のコウモリ。枠内は、舌先の拡大画像。

Photograph by Christian Ziegler, National Geographic; Image inset courtesy Cally Harper



パラスシタナガコウモリの舌先には多数の毛髪様の突起がある。この突起は通常は寝ているが、血流が増加すると1本1本が太くなって立ち上がる。コウモリはこの突起が列をなした舌を突き出して、エサとなる花の蜜を絡めとっている。

「毛髪様の突起については早くから知られていたが、今回カラーのハイスピード動画を見て初めて、エサをとっている間、この突起が舌に対して垂直に立ち上がっていることが確認できた。これは舌の血流量の増加によるものだ」とハーパー氏は言う。

◆コウモリの舌の科学

 ハーパー氏らのチームは今回の研究で、コウモリの舌の突起は血管とつながっており、その血管が拡張していることに気づいた。

 コウモリは花に近づくと舌を突き出して蜜を得ようとするが、このとき舌先の長さは50%以上も伸びる。また、カラーの動画では、はじめはピンク色だった毛髪様の突起が、固くなり赤黒くなっているのが確認できる。

 このためチームでは、血管を流れる血流量の増大によって突起が立ち上がるのではないかと仮説を立てた。これを検証するため、死んだコウモリの舌の標本に血液を模した液体を注入し、ハイスピードカメラで撮影したところ、生きているコウモリの場合と同様に突起が立ち上がった。筋肉は死んでいるのだから、突起が立ち上がるのは血液の作用によるものと考えられる。

「舌先に張り巡らされた血管のネットワークは筋繊維に囲まれている。筋肉が収縮すると舌の血管に圧力がかかり、血液が舌先に集中して毛髪様の突起が立ち上がる」とハーパー氏は説明する。

◆舌の進化的適応

 パラスシタナガコウモリの舌先のこのような構造は、わずかな食資源でも生き延びられるよう進化したものではないかとハーパー氏は見ている。南米およびメキシコ、ジャマイカで生息の確認されているパラスシタナガコウモリは、主に花の蜜を主食としているが、これは人間が考えるほど簡単なことではない。

「エサをとるためには花の前でホバリングしていなくてはならないが、それには多くのエネルギーを消費する。できるだけ速く、できるだけ多くの花蜜を吸うことが重要だ」とハーパー氏は言う。

◆進化の驚異

 カナダ、トロント大学スカボロ校で脊椎動物の生理学を専門とするケネス・ウェルチ(Kenneth Welch)氏は、この研究を読んで、ハチドリに関する別の最近の研究を思い出したという。そこでは、ハチドリが筒状の長い舌を開閉して花蜜を包み込んでいる可能性が検証されていた。

 花蜜食のコウモリとハチドリとは、どちらも花の蜜を主食とする。ともにホバリングができるが、その方法はそれぞれ異なる。また、どちらも単糖類をエネルギー源とするが、血糖値の制御方法は異なっているとされる。

「どちらも花から蜜を得やすくするための特殊な舌を備えていることが分かったが、その舌の仕組みと働きはかなり異なっているらしい」とウェルチ氏は言う。

◆小型ロボットに応用?

ハーパー氏は、パラスシタナガコウモリの舌の自然のシステムを模倣した小型ロボットを作成すれば、将来的には内視鏡などの外科手術器具の役割を負わせられるのではないかと見ている。

「コウモリの舌は柔軟で、長さを伸ばしつつ同時に表面の形状を変えることができる。同様の仕組みを使えば、手術中に血管や腸の狭い部分を拡張させるのに役立つのではないか」とハーパー氏は言う。

 パラスシタナガコウモリに関する今回の研究は、「Proceedings of the National Academy of Sciences」誌オンライン版に5月6日付けで掲載された。





<ナショナルジオグラフィック 記事より>