火星内部に大量の水、火山噴火で地表へ



 火星地下のマントルには“海”と呼べるほど大量の水分が閉じ込められていることが明らかになった。古代の火星では、火山噴火が主な水源となっていたようだ。生命に適した環境が形成されていた可能性もある。


音史のブログ-火星の水
火星の周回軌道からとらえたオリンポス火山。

Photograph from NASA/Corbis



研究チームが火星から飛来した隕石を調査したところ、驚くほどの量の含水鉱物(結晶構造の中に水分を含む鉱物)を発見したという。

 このデータを基に分析した結果、現在の火星マントルには70~300ppmの水分が含まれていることが判明した。液体にすれば、火星全体を深さ200~1000メートルで覆うことのできる量だ。

 研究チームのリーダーでアメリカ、ニューメキシコ大学の惑星科学者フランシス・マッカビン氏は、「この水の量は、地球の上部マントルに存在する量と同等以上だ」と話す。

 また、現在の火星マントルに大量の水分が存在する場合、その由来は火星形成時までさかのぼる可能性が高いという。「後から彗星や小惑星が水を運んでくる必要はない」とマッカビン氏は述べる。

 火星の水が火山噴火に由来しているのであれば、水星や金星、地球などの岩石惑星、さらには大型の小惑星なども同様のプロセスをたどった可能性がある。「地球が特別なわけではない。太陽系のほぼあらゆる場所で水分を見つけることができるだろう」。

◆火星の溶岩から沸騰してなくなった水

 研究チームが水分を発見した火星隕石は、小惑星の衝突により表面から吹き飛ばされ、地球に向かって猛スピードで飛んできた。隕石は玄武岩質のため、地下深くのマグマが火山噴火で地表に運ばれて形成したと考えられる。

 マッカビン氏らは、玄武岩に含まれる鉱物「アパタイト(リン灰石)」を慎重に検査して、水酸化物イオンを発見した。水酸化物イオンとは、酸素原子1つと水素原子1つが結び付いた陰イオンである。

 水酸化物イオンの存在は、火星のマグマ内に通常の水分子(酸素原子1つと水素原子2つ)もあったことを意味する。通常の水は溶岩が冷える際に沸騰してなくなったが、水酸化物イオンは岩石とより強く結合するため残っていた。

 マッカビン氏によると、隕石内の水酸化物イオンの量から、火星内部の水分量を推定することが可能という。「アパタイトを比重計として使用すれば、蒸発する前に岩石内に存在した水の量を計測できる」。例えば、月のアパタイトに対して2010年に同様の研究が行われており、月内部の水分量が想定の100倍と判明している。

 また、今回対象となった火星隕石は、3億5000万~1億5000万年前に生まれた極めて若い玄武岩だという。

 つまり、火星の歴史を通じ、大規模な火山噴火があるたびに大量の水が地表に運ばれてきたことになる。火星で最も古い地質年代区分「ノアキス紀」は温暖だったため、火山噴火後には地表に液体の水が存在した可能性もある。

 また、ノアキス紀以降の噴火でも、一時的に生命に適した領域が出現したかもしれない。「火星で過去の生命の痕跡を探すなら、火山地帯が最も有望だ」とマッカビン氏は述べる。

 今回の研究成果は、「Geology」誌オンライン版に6月15日付けで掲載されている。




<ナショナルジオグラフィック 記事より>