力強い“手”の新種竜脚類を発見


大きな体とは裏腹に、植物だけをむしゃむしゃと食べる平和志向の恐竜とされてきた竜脚類(カミナリ竜)。しかし、力強い手を持つ新種の化石が発見されたことで、この定説が覆るかもしれない。

 また今回の発見により、恐竜が一時代を築いたのは生存競争に勝ち残ったからではなく、“日和見主義”的な行動と多少の幸運のおかげだったという説が勢いを得そうだ。サラフサウルス(学名:Sarahsaurus aurifontanalis)と名付けられた新種の竜脚類は1億9000万年前のジュラ紀前期、北アメリカに生息していた。

 アメリカのアリゾナ州で発見されたサラフサウルスの化石は驚くほど完全な姿だった。全長4.3メートル、体重113キロで、後代に登場する巨大なアパトサウルスなどの近縁種に比べて小型である。



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新種の竜脚類、サラフサウルス(学名:Sarahsaurus aurifontanalis)の復元図。
(Illustration courtesy John Maisano)


 史上最大の陸生生物であるほかの竜脚類と同様、サラフサウルスは首長で頭が小さいという特徴を持っている。しかし、彼らには強力な歯と鉤ツメのある手があった。手の大きさは人間と同じくらいだが、専門家によると、とてつもない力を発揮できる構造になっているという。

 研究チームのリーダーでテキサス大学オースティン校の古生物学者ティム・ロー氏は、「草食動物だったと考えられている竜脚類に、強力な手と大きな鉤ツメは似合わない。用途をあらためて考える必要がある」と話す。「歯を見ると何でも食べる雑食だったフシがある。純粋な草食ではなく、時には動物の死骸をエサにしていた可能性が浮上した」。

 また、サラフサウルスの風変わりな外見は、恐竜の北アメリカ支配を説明する比較的新しい主張を支える根拠ともなるようだ。それは、「必ずしも生存競争のライバルたちを圧倒したのではなく、チャンスを待っていただけ」という説だ。

 竜脚類を含め、恐竜発祥の地は南アメリカと一般的に考えられている。南アメリカは当時、「パンゲア」と呼ばれる古代超大陸の南側の一部を構成していた。発祥地についてはそれほど異論が出ないが、「恐竜たちはなぜ、どのようにして残りの世界を征服したのか」という点については現在でも結論は出ていない。

 いまから2億年前、三畳紀の末に大量絶滅が発生し、ジュラ紀へと移り変わる。北アメリカでも状況は同じで、恐竜にとって生存競争のライバルとなる種が全滅した。研究チームがサラフサウルスと既存種2種の骨の年代を調査した結果、竜脚類の北アメリカ移動は大量絶滅以後のことで、数回の波があることが判明した。

「ただし、一斉突撃というイメージとは異なる」とロー氏は話す。「大量絶滅で競争相手がいなくなるのを待つ必要があった。つまり、チャンスを待っていただけで、相手を蹴散らしたわけではない。絶滅の後の隙間を、ほかの種が埋め合わせたということだ」。

 ロー氏によると、サラフサウルスの全身化石の発見が契機となり、これまでのいろいろな化石断片も再分析が必要になるという。

 研究チームは、生物種の半分以上が失われた三畳紀末の大量絶滅以前に、竜脚類は北アメリカに一切存在しなかったと考えている。

 ユタ大学自然史博物館の古生物学者マーク・ローウェン氏は、今回の研究を受けて次のようにコメントする。「これで、“竜脚類が北アメリカに拡散したのは大量絶滅以後”とする説がさらに有力となった。サラフサウルスはこれまでの研究の欠落を埋めることになるだろう」。

 研究チームの一員でワシントンD.C.にあるスミソニアン研究所国立自然史博物館の古脊椎動物学者ハンス・ディーター・スーズ氏は、「竜脚類は、ヨーロッパや南アフリカ、南アメリカ、さらにはグリーンランドでも大量に発見されているのに、北アメリカの三畳紀の地層には一片の骨や歯も存在しない。北アメリカに近寄れなかった理由があるはずだ」と述べる。

 競争相手の大量絶滅という幸運を味わったのなら、1億3500万年後に同じ運命が我が身を襲っても文句は言えないのかもしれない。

 スーズ氏は次のように話す。「大多数の種が滅びる中、恐竜たちは三畳紀末をそれほどの犠牲を出さずに生き延びた。しかし興味深いことに次は恐竜の番となったのだが、6500万年前のその破滅を生き伸びた種が1つだけある。それは鳥類だ」。

 今回の研究成果は、「Proceedings of the Royal Society B」誌オンライン版に10月6日付けで掲載されている。

Brian Handwerk for National Geographic News