一年前にヒブワクチンと肺炎球菌ワクチンの
同時接種を受けた後の子供が亡くなるという
事例が相次ぎ、厚生労働省がその予防接種の見合わせを
指示したニュースがありました。
結論はその後、専門家による検討会(薬事・食品衛生審議会医薬品等
安全対策部会安全対策調査と子宮頸がん等ワクチン予防接種後副反応検討会の
合同会合)で検討され、その結果が発表されました。
「死亡とワクチン接種との直接的な因果関係は認められない」
「同時接種で重篤な副反応の増加は認められず、安全上の懸念は
認められない」というものです。
(その時の私のブログ記事はこちら。)
私が診療している病院ではやっとその厚生労働省による見合わせ
以前の水準に戻りました。しかし、まだ三種混合ワクチン、
ヒブワクチン、肺炎球菌ワクチンの単独接種のために毎週
いらっしゃる方もいますし、市町村の医師会やNPOで
「慎重を期すため原則として単独接種で」と申し合わせている
ところがあるそうです。
今日の記事を書こうと思ったきっかけは外来小児科学会雑誌の
Vol.14No.3を読んだからなんですが、そこで二人の先生が
今でもお母さん達の同時接種対する不安感が強く、説明に苦慮
しているという話が載っています。
日本赤十字社医療センターの薗部友良先生がこう言っています。
「まずこの世の中で、何事も絶対否定ということはありえない。
「黄色いカラスは存在しない」ということを証明することは、
悪魔の証明といって現実的に絶対に不可能であり、それに類似する。」
つまり、同時接種が絶対に有害事象・副反応と言ったリスクを
増やさないということは誰も証明できません。だから、去年の
死亡事例の検討後、「同時接種とは因果関係がない」と聞いても
皆さん、不安が消えないのだと思います。でも、「実際に米国では
生後2ヶ月から6種類のワクチンの同時接種が行われており、
特に何の問題も発生していないのが、最高のエビデンスである。」
(注:6種類とはB型肝炎、ロタ、日本と同じ三種混合、ヒブ、肺炎球菌、
不活化ポリオだと思われるので三種混合を三つに分けたら8種類を同時に
接種していることになりますね。米国CDCのサイトはこちら。)
(クリックでCDCのページヘ)
さらに、薗部先生は米国では、CDCが「日本では(ヒブと肺炎球菌
ワクチンの)接種が一時中断中であるが、心配しないように」と
説明したり、ワクチンの専門家であるOffit先生が「こんなことで
ワクチン接種を中止することは、日本の厚労省は"foolish"と有名誌で
述べている。」と言った話を載せています。
次に、ふじおか小児科の藤岡雅司先生は同誌で、ワクチン同時
接種を控えるとどうなるかということについて述べています。
以下の(1)ー(3)です。
(1)感染防御に必要な免疫の付与が遅れる
私が試算したのですが、小児科学会が推奨するワクチンとポリオ
ワクチンを不活化で行った場合、全てを単独接種で行うとします。
(クリックで小児科学会のページヘ)
1月1日に生後6週間になり予防接種を始めるとすると1歳以内に
やるべきものが全部終了するのは7月です。全部で18回、
月に1-4回医療機関に通う必要があります。
一方、不活化ワクチンどうしだけでなく生ワクチンどうしも同時接種
するとしたら全て終了するために、医療機関に行く回数は4回です。
同じく1月1日から開始した場合、5月に終わります。
あまり違わないじゃないと思いますか?これは赤ちゃんが調子を
崩したり、連れて行く家族の都合がうまくついたりしたベストの場合
です。単独で18回通う間に何回、中断が入るでしょうか?4回行く
だけよりも多いであろうことがわかると思います。
7月と5月で二ヶ月しか違いが出ないのは不活化ワクチンはある程度の
間隔をあけて打つ必要があるからです。
この間に、注射を打てば予防できたはずの疾患にかかるリスクが
単独接種だと増えるということです。
(2)紛れ込み事故が増加する
私の試算で単独接種をしていると、半年以上常に何かのワクチン
の接種後です。当然、ワクチンとは関係ない風邪や突然死等が
紛れ込む可能性が増えます。
副反応報告期間というのはワクチンによって違い1-4週間なので、
単独接種だと1-4週間×18回、
同時接種だと1-4週間×4回、
子供の様子に注意しなくてはいけない期間が圧倒的に違う
のはわかると思います。
(3)健康被害発生時の給付水準を上げられない
三種混合やBCGといった定期接種とヒブ・肺炎球菌ワクチンといった
任意接種は、健康被害が出た時の補償に違いがあるのをご存知ですか?
同誌の藤岡雅司先生の総説に図が載っていました。
17歳までを比較すると定期接種の場合、およそ240万円/年であり、
任意接種だと85万円/年の補償です。
私が予防接種を受けさせに来たお母さんに「どうして一本だけに
したんですか?やっぱり同時接種は怖いから?」と聞くと、
「はい、なにかあった時に怖いからです。」とよく言われます。
「なにか」というのはもちろん大事なお子さんに健康被害が出たら
ということですね。前述のように日本以外の国々はワクチンは同時に
何本も打つものです。同時接種で健康被害のリスクが上がる訳では
ありません。そして、本当にあってほしくないことですが、同時でも
単独でも予防接種によって健康被害が出ることが考えられます。
その際、定期接種のワクチンと任意接種のワクチンを同時に打って
いた場合、どちらで補償されると思いますか?予防接種法によって
より手当が厚い方の給付を受けられるんです。
つまり、あってほしくない「なにか」があった場合、お子さんに
より高い補償をされるのは同時接種した場合なんです。
これは、小児科医でも知らない人が多いと思います。
実際、私がびっくりしてTwitterでこのことを言ったら、
お気に入りに入れてくれたり、RTしてくれたりした小児科医が
複数いました。文末に出典を書いておきます。
前述の薗部先生がこう書いています。
「これらのワクチンの単独接種は問題が多いし、まして、上位の
法律で許可されている同時接種を地方自治体などが禁止することは、
国民の、健康に生きる権利を阻害する法律違反とも考えられる。」
そこまで言ってしまう薗部先生の信念が感じられます。
私も日々、お母さん達に不安や疑問に答えられるように
勉強していこうと思います。
今日はいつもよりも早い更新にします。
予定更新だとトラックバックも付けられないし。
補償制度についての出典:
岡部信彦.Hibワクチン,肺炎球菌ワクチン(PCV7)の一時停止と
再開.小児科2011;52:1191-1198
庵原俊昭.Hibワクチンと他のワクチンとの同時接種.日本医事新報
2010;4485:83-84
補償制度について詳しい宮原篤先生のブログ:
かるがもクリニックのブログ
同時接種についてのお話:
KNOW☆PVDのHP
この記事を更新した翌日に @sasayakibito さんから
こういうページがあると教えて頂きました。
国立感染症研究所の予防接種スケジュールです。「乳児」と
ありますが小児期全般ですね。
なので、私の試算と計算が合わないと思われるかもしれませんが、
私のは一歳未満でポリオは不活化ワクチンにした場合の計算です。
同時接種も生ワクチンどうしも同時接種をした場合の計算に
なっております。
とても参考になると思うので、乳児(一歳未満)をお持ちの方は
ぜひ、見てくださいね!ページはこちらからも。
単独接種で行った場合のスケジュール(ポリオは生ワクチン)。
同時接種で行った場合のスケジュール。
(ポリオは生ワクチンで生ワクチンどうしは同時に接種しない場合。)