コレね2018年9月10日フェイスブックページに書いた記事です。
ヤフーブログから引っ越してきて、ヤフーの方に書いてた記事は全部こっちに来てるんだけど、1年くらいヤフーに書いてなかったのでその間の記事をチョイチョイこっちに追加します。
日に1件アップしてたのですが、間に合わないので2、3件ずつアップします。

 

無肥料栽培の「コシヒカリ」、スカスカながら無事出穂完了。
もう穂が垂れて来ました。

スカスカですが、まあ、コメは穫れます。
造成して3年間、水以外何もやっていない「田んぼ」です

尺角の疎植なので余計にスカスカに見えます。
株当りの穂数も慣行栽培の半分くらいです。
その代り、これだけ痩せ作りだと、害虫も少ないしイモチも全く出ません。


葉色薄いでしょ。
窒素不足で丸っ切り育っていないトコもあります。
だいたい畦際は普通に育ってます。真ん中へんが凹むんですよね。
コレは普通の田んぼでも同じ傾向があります。
縁の部分は日照条件が良いからかな?と思ってましたが、こんな無肥料栽培してみると、別の事に気づきます。
どうもね、周囲の陸地から養分が流れ込んでるみたいですね。

大きく育った部分は、普通の田んぼのイネの8割くらいな感じで、育たなかった部分は草丈30cmくらいで穂が2、3本しか出てません。

それでもまあ、イネってしっかり者と言うか頼りになる作物と言うか、大きくならなくてもそれなりに必ず穂を出すんですよね。
これが野菜だったら、特に果菜類なんか、生育悪いと実が付かないと言う事もある訳ですが、イネはチンチクリンでも一応まともな穂を出してくれます。
10cmくらいにしか伸びていない株でも20粒くらいの穂を出しますからね。
ここら辺の性質が「主食」として何千年もアジアの食を支えてきた実力なんですよね。
試しに、穂が出てから30日くらいの未だ登熟してないスカスカの状態で籾を採って翌年播いて見ると分かりますけど、吹いたら飛ぶようなヤツでも結構発芽するんですよ。
未熟種子でも発芽力があると言う事は、作物を維持し易いと言う事で、昔の様に酷い飢饉があっても、食用にならないクズ籾を残して翌年のタネに出来たと言う事です。

栽培容易で誰でも育てる事ができ、多少の気候変動や条件不利地域でもそれなりに穫れる、そして特別な採種技術がなくても代々ズーッと作り次ぐ事ができる維持の容易さ、こんな条件が揃っていないと主要作物にはなれないんですね。
ただ単に沢山穫れて美味しいだけじゃダメなんです。
ホント、イネくらい主食としての条件を全て満たしている作物は珍しいですよ。
欠点は、水が沢山必要と言う事ですよね。
だからアジアモンスーン地域だけで稲作文化が発達したんですね。

で、この無肥料痩せ作りの「コシヒカリ」から来年のタネを採るのですが、どの株からタネを採ればよいでしょう?

ホントの所を言うと、今の御時世ですからね、一株ずつ味を確かめて一番美味しい株からタネを採らなければならないんですよ。
今の米市場は味、品質最優先ですからね。
なかなか実証する事は難しいんですが、草丈や収量や出穂期と同じ様に「味」だって少しずつ個体差があるはずなんですよね。

だけどそれを見分ける事は至難の業です。
もしかしたら生米を毎日齧って味を覚えれば、炊飯した時に美味しいお米を生米の状態で判定できる様になるかも、と思って米粒を噛み潰して味見してみたりしましたけど、よっぽど味覚が鋭敏な人でないと無理でしょうね。

今後、微量な物質を判定する技術や人間の味覚をシミュレーションする技術が進めば、穂の状態で食味を判定する機器が開発されるかも知れませんね。

「味」の方は未来の技術に期待して、その他の点で採種株を選ぶとすると、まず普通に考えれば、生育の良い株って事ですね。
品種に拘るなら「コシヒカリ」の特徴が良く出ている株。
栽培的な問題に注目するなら「コシヒカリ」の欠点である「倒伏」を克服するため、できるだけ草丈の低い株(実際、コシヒカリから選抜、派生した短稈の品種もあります)。
自然農法的には肥料なしでもよく育った株、とかも食指が動きます。

でも、今年は労力の関係もあり、もう少し分かり易い選び方をしたいと思いました。
一番簡単で分かり易い「出穂時期」で選びます。
最も早く出穂した株は8/19に出ました。

真っ先に出穂したのは畦際で大きく育った株でした。
8/19の出穂です。

それから次々と出穂し、まともな株の中で一番遅いくらいだったのは8/25でした。6日の差です。
平均的には8/22頃でした。

株は立派なのに、なかなか出なかったネボスケさんです。
他の株が全て出終わった頃に出てきました。8/25の出穂です。

田んぼの隅の出来損ないの小さな株が9/2に出穂しました。
生育不良で遅れたのかも知れませんが、他の小さな株はみんな8/22頃には出ています。
あまりアテにはなりませんが、晩生系統が得られればと、期待してしまいます。

生育の良くないヒョロヒョロの株の中には今年最も遅い9/2に出穂したものもありました。最も早いものから2週間遅れ、平均的なものに比べても10日は遅れています。

早いものから採ったタネを来年播いて、更にその中から最も早いものを選び、遅いものも播いてその中から最も遅いものを選んだら、年々差が広がるでしょうか?


実際には圃場面積の都合もあって、来年どのくらい作付け出来るか分かりませんが、出来たらチョット試してみたいと思います。

実用的に実際に欲しいのは、遅い方です。
裏作で麦を作ろうとすると、イネの作付けが遅くなるので、晩生のコシヒカリが欲しいんですよね。

実は今年一番出穂が遅かったヒョロヒョロの生育不良株と同じ様な個体を十数年前に見つけた事があります。
他のコシヒカリより1週間以上遅く、田んぼの隅に一穂だけ穂を出している草丈45cmくらいの小さな株を見つけました。
翌年、その種籾を播いたら丈が低くて出穂の遅いコシヒカリが出来ました。
私はこのイネがとても気に入って、小さなコシヒカリなので「コヒカリ」と呼んで毎年作っていましたが、農地の貸しはがしや移転問題などもあり、ゴタゴタしている間に絶種してしまいました。

もう一度あんなイネができないかな、と思っています。
 

なかなか生き物ですから一度失うと再現は運次第なんですが、コシヒカリは比較的そう言う変異が出易いので、今年の様に同じタイプが見つかると期待してしまいます。

これは商売ではなく、今まで作った数十の品種のどれよりも作り易く美味しかったので、自分が食べるコメとしてそう言うタイプのイネを育てたいと思っています。

 

私は種子法廃止には賛成だったのですが、それは反対派の人達が言うような「種子の安定供給が崩れる」とか「外資が入ってくる」とか言う事より、もっと大切な事が種子法による官製品種独占状況の下で起こって来たと感じているからです。

お上が品種育成に独占的な権限を持ち、栽培品種の選定にも強い影響力を持っていた為に、農業者、栽培者が品種に関心を持たなくなってしまった、と言う事が一番の種子法の弊害だろうと思います。

 

コシヒカリの元になった幻のイネ「亀の尾」は明治26年に阿部亀治氏が冷害の年に被害田の「惣兵衛早生」の中に冷害に耐えて実っている3本の穂を見出したものがルーツです。

酒米の「雄町」は安政6年に備前国上道郡高島村雄町の岸本甚造氏が大山参拝の帰路で珍しいイネを発見し二穂譲り受け持ち帰ったものが元です。

かつてはこの様に農民はイネの変異種に大きな関心を持っていました。
種子法により品種育成は農水省や農業試験場などお役所の仕事、農業者は製品である「コメ」を作るのが仕事、と分業制になってしまい、品種への関心がなくなってしまったのです。


毎年、晩秋から秋にかけて稲穂がたわわに実った水田の中の道を車で通ります。
必ず、一つや二つは飛び抜けて出穂の早いもの、遅いもの、背の高いものなど、他のイネと異なる特徴を持ったものが目に付きます。
けれどもそんな変異個体を選抜して自分のイネを作ろうと言う人は殆どいません。

種子法は日本のタネを守ってきたのではなく、栽培者から「自分の品種を持つ自由」を取り上げて来た法律でした。