ドイツの医療過誤訴訟

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412日、ドイツのケルン大学のハンス・プリュティング教授の「ドイツ法における医師責任訴訟」という講演のために、斎藤ともよ弁護士と立命館大学に行ってきました。ドイツの医療責任訴訟は、日本の医療過誤訴訟の実態と大きく異なっており、勉強になりました。

 

まず、ドイツも日本も民事訴訟においては、弁論主義という、「訴訟資料の提出は当事者の責任」という原則に従っており、裁判所は当事者の責任によって提出された訴訟資料にのみ基づき裁判することになっていますが、ドイツでは、医師責任訴訟の場合、患者側が最低限の主張をした場合は、診療上の過誤の疑いについて調査しなければならないという判例原則があり、患者側の主張に欠落している点があったり、不明確な点があった場合、裁判所は、当事者に釈明せねばならず、裁判所が職権で鑑定人を任命して、医師の診療上の過誤が認められるか審査を依頼することもできるという点で、弁論主義に修正が加えられるとのことでした。日本でも、裁判官によっては、自身の正義感に従って、当事者に詳細に求釈明したり、職権で調べるまでしなくとも当事者に必要な訴訟資料の提出を示唆してくれることが多いような気がしますが、弁論主義の修正が判例の原則となっている点で、個別裁判官の良心のみに依拠している日本と異なります。

 

また、原告が主張立証責任を負うというのも、ドイツ及び日本の民事訴訟法の原則で、この原則に従うと、たとえば、全身麻酔下で手術の失敗があり後遺症を負ったということで患者が病院を訴える場合、手術でどのような失敗があったかを患者側が具体的に主張し、さらに立証までしなければなりません。ところが、その点もドイツでは医師責任訴訟の場合、手術において具体的に何が起こったかを主張立証する責任は病院側にあるという判例理論が生み出されています。日本でも、原告側で相当程度、病院側の過失を伺わせる具体的事実を主張立証すれば、病院側が反論をしなければならず、有効な反論がなければ、病院側が敗訴するので、患者側が具体的に病院側の問題点を陳述できれば、その時点で事実上証明責任が移ると考えることができますが、ドイツの判例理論だと、概括的な事実のみ患者側が主張立証すれば、病院側に証明責任が転換して、病院側が具体的な陳述により反論等しなければ、それをもって、病院側が敗訴することがあるとのことです。具体的には、HIVの混入した血液製剤を投与されたと患者側が一般的な主張をし、患者側は、どの保存血液が問題となるのか、誰が製造者であるのか、実際にはどこで混入が生じたかについては主張できなかった事案において、被告は患者の主張に対し具体的に陳述せず、原告は被告の陳述が具体的でないと争った結果、原告が勝訴したという2005年の連邦通常裁判所の判例が紹介されました。

 

このような判例理論が日本にもあると、患者側が訴訟提起前に意見書を書いてくださる医師を探し回らなければならないというような事態がなくなって、いいのになあと思いました。

 

松森美穂

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