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離婚後300日問題-民法772条による無戸籍児家族の会

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再婚禁止期間と民法772条と同性婚
<最高裁判決の速報ニュースを受けて>


弁護士 南和行


女性にのみ6ヶ月間の離婚後再婚禁止期間を定める民法733条,そして夫婦同氏を定める民法750条,それぞれが憲法違反ではないかという裁判について,最高裁で判決があった。
尋問、弁論、役所の方との意見交換会などに出ていたので、最高裁判決の全体をまだ読めてはおらず,ニュース速報しかまだ見てはいないが,再婚禁止期間については100日を超える再婚禁止は違憲(憲法違反),夫婦同氏については合憲(憲法に違反しない)という判断になったそうだ。

最高裁のホームページに掲載される判決内容をよく読んでからでないと細かい論評はできないが,取り急ぎの感想を,再婚禁止期間についてのみ書いておこうと思う。
私はこれは日本における同性婚の議論にも影響のある問題だと考えているからである。

再婚禁止期間について,100日を超えると違憲という判断に「?なぜ100日なの?」と思う人も多いと思う。
これは民法772条2項と結びつけて導かれる数字だ。

民法772条1項は,婚姻している女性が産んだ子の父親はその夫であると推定する規定であるが,2項はさらにそこから,婚姻後200日以内に生まれた子の父親は妻の夫とは推定しないとし,そして離婚後300日以内に生まれた子については逆に妻の前夫を父親と推定するとしている。

再婚禁止期間も100日ならば憲法違反にならないという理屈は,この民法772条2項と併せることで,離婚後300日以内と婚姻後200日以内の隙間を埋めるための再婚禁止期間なら,不合理な男女差別ではなく,合理的な男女の区別に過ぎないというものだろう。

女性にだけ再婚禁止期間が設けられている理由については、長らく「女性は妊娠している状態で離婚することもあるから,すぐに再婚すると産まれた子どもの父親が誰かわからなくなるのが「子どもにとって」良くない」と説明されていた。

しかし,先に述べたように民法772条2項があるのだから「それなら父親不明になる可能性は100日だけじゃないか」という反論が容易にできて,最高裁の多数意見はそれに乗っかったと思われる。

最高裁は,昨年の9月には,離婚後300日以内に生まれた子どもの父親は母親の前夫と推定するという民法772条2項をより強く貫く姿勢を示す判決をしているから,今回の民法733条の再婚禁止期間の判断を,先に示した民法772条2項の判断に引き寄せたということだろう。

それだけ聞くと「ふーん。なるほど」かもしれないが,ここで民法772条を強く貫くということの意味をもう一度,問い直したい。

民法772条は,結婚という制度を中心に,子どもの父親を決める制度であるということだ。

子どもを分娩するのは女性だから,子どもの母親が分娩した女性であるということは,客観的に把握しやすい事実だ(卵子提供者が別にある代理母出産もあるが)。

しかし子どもの父親が誰なのかを客観的に把握するのは難しい。
DNA検査をすれば,生物学上の父親が誰であるかを容易に把握できるようにはなったが,AID(生殖補助医療における精子提供)など,生物学上の父親が直ちに社会生活上の父親であると言えない場合もある。
生物学上の父親だけを,法律上も唯一の実父だとするのが子どもの家族環境として実態にそぐわない場合もあるのである。

「父親(特に法律上の父親)とは何か」というややこしい問題について,民法772条は,ややこしい部分をとりあえずそっちのけにして,子どもの母親の婚姻関係を中心に父親を決めてくれるので,それはそれで便利である。

しかし,一方で,実際の家族のあり方や,婚姻の実情というのは,様々複雑で,簡単に割り切れるものでもない。
例えば,婚姻関係が破綻している中で妻が夫ではない男性の子どもを授かった場合など,子どもの父親を単純に子どもを産んだ女性(妻)の夫としていいのだろうか。

だから,民法772条を,父を定める第一次的なルールとするにしても,柔軟に,家族の実情に応じて定められる二次的な方法もあっていいのではないかと思われるが,最高裁は実はこれについては非常に厳しく,「外観説」という独自の立場にたって,民法772条の例外を狭く狭く解釈していた。

今回の,再婚禁止期間についての判断についても,100日の再婚禁止については憲法違反ではないと最高裁が判断したのであれば,それは裏返していえば民法772条2項をより一層強く貫くという姿勢を示したとも捉えられる。

さて,このような最高裁の民法772条堅持の姿勢から見えてくるのは,結婚は何のための制度化という結婚の本質をどう捉えているかである。
少なくとも最高裁は結婚は二人の愛情の結実,結婚は社会から祝福されること・・・結婚というのは恋愛の向こうにあるものというイメージでは結婚の本質を捉えていない。

しかし民法772条は,結婚を二人の愛情の結実だとか,社会から二人への祝福だとかはいわない。
民法772条が示すメッセージは非常にシンプルだ。
結婚は「子どものための制度」「結婚は子どもを産む枠組み」「結婚は子どもに父を定める制度」というのが,民法772条における結婚の本質である。

民法772条から発生する「子どもの父を確定する機能」こそが,こそが法律上の結婚がもたらす最重要の効果であるとするならば,実は子どもが産まれない結婚というのは,当然,法律上は認められない,あるいは認められるとしてもそれはあくまでも社会の中の特別な恩典(おまけ,ごまめ)ということにもなりかねない。

結婚したい当事者の権利の実現として婚姻制度が用意されているのではなく,子どもの父親を不明確にしないために婚姻制度は用意されているということにもなる。

私自身は,民法772条が制定された明治時代,同じような法律の規定は世界中の民法にあったし,当時はDNA鑑定もなく,そもそも生物学上の父親を確定することが難しかったことから,その意義もあっただろうと思う。
しかし,今の時代となっては,民法772条を堅持しすぎることは,先に述べたように,婚姻制度について,極端なまでに,結婚は子どもを産むためにあるというイメージを社会に抱かせてしまうのではないかと危惧する。

家族の形は様々で,結婚によらずとも子どもを持ちたい人もいる。
結婚という共同生活を送りつつも子どもを持ちたくない人もいる。あるいは,家族として一緒に暮らす相手と子どもの生物学上の親(父親も母親も)とが必ずしも一致しない場合もあるだろう。

そのような多様な家族が実際に存在するにもかかわらず,それには目もくれず,「子どもを産むための結婚こそが正しい家族の基本単位」として,民法772条を堅持しすぎるのは,よりいっそう,多くの人に対して結婚することや家族を持つということについて不安にさせ,あるいは臆病にさせるのではないだろうか。

私が,速報の限りで残念だったのは,これからの結婚制度は,特定の家族の形を押しつけるのではなく,それぞれの個人の幸せを実現するための多様な家族を,これからは法律で国が積極的に認めるような,そんな後押しをしてくれる判決とはなっていないように理解できたからだ。

同性婚や同性愛は「子どもを産めない異常な関係」などという言い方でもって差別に晒されることがある。

残念ながら,民法772条を堅持するという最高裁の姿勢は,もしかするとそのような同性婚や同性愛へのひどくつらい差別をする人たちに,差別が正当化されたと誤解させる余地すらあるのではと私は危惧を募らせる。


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