【第二部】推しが突然先発することになったから、万障お繰り合わせて応援しに行きます【赤い街と青い姫 | 硝子姫が見てきたやきうと二次元イベント。

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プロ野球ファンも中井和哉さんファンもどうぞよろしくね。


第一部 からの続きです。
■今回もプロ野球観戦記です。二次元方面の方ごめんなさい。
■これを機に野球にも興味を持ってもらえるとうれしいです。
森川さんと速水さんはガッチガチのベイスターズファンだし。
中井きゅんはガチのジャイアンツファンだし。


ともかく、降って湧いたような話でしかない。実際、いろんなことが降りすぎだし沸きすぎである。
騙されてるんじゃないか、などと思ったりしながらともかく荷作りを終える。
リュックのファスナーをジジっと閉めたところで
「…で、仕事どうすんべよ」と思った。
さまざまなことが今日1日で降って来すぎだし湧きすぎたことですっかり失念していたが、仕事である。どうしよう。

そもそも連休に入る前の21日金曜日、姫は午後休を取っていた。
何故って、加賀繁の引退試合である。これにさしあたってやはり万障を繰り合わせに繰り合わせた友人が横浜に来るので姫も午後休を取った。退職前だからできる荒技であった。

退職前だからこそできる荒技ならもう一回繰りだしてコンボにしてやろう。
波動拳からの竜巻旋風脚である。否、姫はスカロマニアUser、ここはやはり
スカロクラッシャーからのスカロトカチェフである。なんならこの後スカロドリームファイナルまで繰りだしてもいい。「「正義は勝つ!」」

ただ、金曜に「あーこれ絶対連休明けいちばんに引き継がねぇとな」と思いながら午後イチでハマスタに向かったのは事実。ひとまず朝は出社しよう。
で、本当に最低限の処理だけして東京駅行こう。

寝たような寝てないような、よくわからない状態。ずっと布団の中でも意識があったように思う。緊張してんな、姫。…そりゃ緊張するわ。先発やぞ!先発!
2年2か月ぶりの先発。ほんとうに、なんで今日なんだろう。なんで今このタイミングで先発なんだろう。
…ずっとこんなことを考えて、寝たんだか寝てないんだかよくわからないまま起こされる。

たけお「6時45分のアラームです」

※なおアラームはこれを設定している

たけおはかしこいのでアラームとは別に時間をお知らせしてくれる。
緊張しっぱなしのまま、ともかく荷づくりしたリュックを背負って出発した。

「あれ、今日野球?」
会社につくなり、社員が声をかけてくる。このリュックの日は野球だから、と周囲もわかっているのだ。

姫「それなんですが」
社員「えっ何どしたのなんかあったの」

姫のただならぬ雰囲気を察知されている。まぁ、そりゃそうだろう。
寝不足な上にこの緊張感である。

姫「今日の午後からお休みください。急ですがちょっと広島行ってきます」
社員「えっ」
姫「推しが突然先発するんです。だから広島に行ってきます」
社員「…わ、わかった。え、えっと、じゃぁ明日…は…?」
姫「さすがに日帰りはできないですが、どうしてもの場合は明日の午後から来ます」
社員「えっ」

どうでもいいが第一部から「えっ」って言う奴多すぎじゃね?主に姫。

姫「明日の朝までにヘルプコールしてもらえればお昼過ぎには東京に戻れるので」
社員「…ま、まぁ、うん、わかった、行ってらっしゃい」

9月末で辞める会社とはいえほんとありがたい。こういう融通がほんとうに効く。

姫「ありがとうございます!あーもう吐きそうマジほんと緊張する」
社員「何時に出れば間に合うの、飛行機?」
姫「新幹線です。正午くらいのに乗れればベストですけど、いちばん遅くて13時10分発博多行と思ってます」
社員「そっかぁ。あっ、そうそう金曜のコレね…」

社員ともう一人の引き継ぎ先から金曜午後の報告を受ける。思ったより進んでいる。これはラッキー。想定より大幅に姫の作業量が減る。
大急ぎで「答え合わせ」のデータを用意する。3年間毎月やってきた集計作業もこれで最後か…などと感傷に浸っている場合ではない。

ともかく音速で済ませて姫は広島へ向かうのだ。

姫「じゃ、最終的に姫のこのデータと照合して一致してたらOKです」
社員「うわーありがとう!じゃ一致してたらもう先方に送っちゃうね」
姫「お願いします。別件で、○○○の件で困ったことになったらLINEでもメールでも、明日ほんとに午後来ますから」
社員「まぁ、そうならないようになんとかするよ、楽しんできて、気をつけて」
姫「ありがとうございます。じゃぁ、今日姫いなかったことにしてください」
社員「えっ」
姫「今日と明日、有給消化ってことにしてください。明後日来ます」
社員「えっ、それでいいの…?」
姫「いいです。では、行ってまいります」

会社を出る。いよいよである。想定よりだいぶ早く出られた。
上手くすれば16時半頃広島に着けるんじゃないかこれ。
『姫を広島までかっ飛ばしたい民の会』略して「かっ会」のLINEがすごく進んでいる。姫が仕事するフリをしている間にも何らかの動きがあったらしい。

民「姫、東京駅着時間教えて!見送りに行く時間作った!」

…かっ会の民たちも大概である。どうかしている。見送りて。


姫「おそらく大手町11:05頃と思う、そっから地下道歩く」
民「把握ー!じゃ、11:15頃東京駅に居るようにするわ。仕事場には外出する理由つけたから大丈夫!」
姫「…ぉ、ぉぅ」

姫の仕事先も大概だが民の仕事先も大概である。

民「お土産、鳩サブレーでいいよね」
姫「ファ?」
民「ファじゃないでしょう、チケット譲ってくれる人に」
姫「あーあーあー!そうねそうね、そうね」
民「姫こりゃ相当ポンコツだなー、ちゃんと寝たの?」
姫「よくわからない 鳩サブレーお願い」
民「じゃ、買ってくから!東京駅で会おう!」

実際、もう相当な緊張であった。口の中が完全に乾いている。
関東地方の外にでるということ、それも野球を見に行くという理由、そして先発国吉。必死に思い出さないようにしているあの東京ドーム先発の日のこと。
あぁもう今すぐ地球爆発しねえかな。そんな緊張を抱えて大手町駅に降り立つ。
東京ドームに行く時散々通った改札、左に行けば丸ノ内線だが今日はちがう。東京駅まで歩くのだ。
…ヤバい。神宮球場からの帰り、そしてハマスタからの帰りにあれほど通ってきた東京駅なのにいつもとぜんぜん違って見える。どこだここ。
もっとも「大手町側から」の東京駅は神宮でもハマスタでも通らないのだが…
ところで改札普通にSuicaで入っちゃっていいんだろうか。念のため有人改札で聞く。

姫「あの、今から新幹線乗るんですがSuicaで通って大丈夫ですか」
駅員さん「大丈夫ですよ、新幹線の窓口で購入履歴消してもらってください」

そっか、そうだよな。そうだよな。そんなことも解らなくなるレベルの緊張。
あれほど通って慣れているはずの東京駅が全然違って見える。どこだここ。ほんとに東京駅か。東京ばな奈の売店あるな。やっぱり東京駅だな。いいんだ。
やっぱり東京ばな奈より鳩サブレーだろう。土産。民の言う通り。
その「民」は新幹線きっぷ売り場で姫を待ちかまえていた。ニラニラと笑いながら。

民「いや~お疲れお疲れ!昨日からめっちゃ楽しいわーwwwww」
姫「…ど、どうしてこうなった」
民「どうしてもなにも国吉が先発だからでしょうが」
姫「アアアアアアアアアアアア」
民「はい落ちつこう落ちつこう。まずほら、きっぷ買おう」
姫「ぉ、ぉぅ」

--

姫「ひ、広島まで1枚」
民「あっあと入場券も1枚ください」
窓口の係員「広島…ですと11時30分発博多行が一番早いですがどうされます」
民「あと5分しかないねぇ」
姫「さささささすがに余裕がが」
民「だねぇ、…その次はどうでしょう?」
窓「…つぎが50分発広島行ですね」
姫「それがいい、それにします」
窓「席はどうされますか、指定席?」
姫「指定席にしてください」
民「窓側空いてれば窓側で!」
窓「…3列席窓側が空いています」
姫「そ、そこでおねがいします」

きっぷを、買ってしまった。本当に後へは退けない。昨日から何度も自問自答してきた。わかっている。広島へ行くのだ。先発国吉を応援しに行くのだ。
広島着15:50。想定より早い。もしかしたら先にホテルにチェックインできるかもしれないな。…いやいやそんな芸当姫にできるか?
ああああああほんっとマジなんで今日先発なの!?!?!?!?!?

窓「ではこちら指定席、乗車券になります。それとここまで来られた乗車券を拝見いたします」

あっさっき改札で言われたアレだ。Suicaを取り出す。

姫「定期券で入ってきました」
窓「…はい、じゃこちらの履歴は取り消しましたので。お気をつけて」

姫は乗車券、民は入場券を手に新幹線の自動改札を通る。

電光掲示板には[11:50 のぞみ109 広島 18番線]の表示。
遊園地のジェットコースターに乗る前の気分に似ている。民が紙袋を渡してきた。

姫「あ、鳩サブレー…」
民「これ、譲渡主に渡す鳩サブレーね。それとこっちの小さい包み、これは姫のおやつ用ね。それと、シウマイ弁当買っといた!」
姫「ありがとう…ありがとう…」
民「あとこれすごい大事、例の石田健大カードね」
姫「あ、ほんとうにいいのこれ、ありがとう」

昨晩、チケットを譲渡してもらえることが決まった直後。
放心する姫を放置して民たちが独自に動いていたのであった。
譲渡主が石田くんファンだとわかった途端に民がちょっと貴重なカードを余分に持っているから是非さしあげてほしい、と申し出てくれた。

民「よかったわぁ、なんでだか忘れたけどこれ予備で持ってたんだよね。だから誰かが泣く泣く手放したとかじゃないから、大丈夫だからね」
姫「そ、それならいいんだ」
民「よかったよ、ちゃんと石田ファンの手に渡るんだからこのカードだって本望だよ」
姫「…せやな。あ、そうだ。ブループリントの予備があったんだよ、これも差し上げようと思って持ってきた」
民「あ、いいね!あれもハマスタに来られない人には貴重だねぇ」
姫「うん、そう思ってさ」

新幹線が入線してきた。清掃スタッフが手際よく清掃作業を進める。

民「姫、乗ったらユニ出して窓に掲げてよ、写真とるからwww
姫「ちょwwww」
民「見送った証拠になるでしょうがwwユニすぐ出せる?」
姫「うん、リュックのいちばん上に詰めてるから」
民「あ、もう乗れるみたい。ほれ、乗った乗った!」
姫「…えぇぇ」
民「姫、いい?めいっぱい、悔いなく!国吉を応援しといで!」
姫「わかった。…外野民舐めんな!」
民「よし、はいっ行ってらっしゃい!気をつけて行くんだよ!!」

民にポン、と肩を叩かれて姫は新幹線車内へ。座席はホーム側の窓際だった。
民の口が「ユニ」と言っている。はいはい、撮影やろ、撮影。


【撮影:見送りの民】

どうやら隣はまだ乗ってこないらしい。リュックは網棚に上げてしまおう。
スマホ用のバッテリーとケーブル、お茶のボトルを取りだしてユニフォームをしまい、よっこいしょとリュックを網棚へ。
隣が空いているなら鳩サブレーとシウマイ弁当の紙袋はここに置いとこう。


―静かにゆっくりと、新幹線は発車していた。正直気付かなかった。
あっ、動いてんじゃん、と慌てて見送りの民に手を振る。手を振り返す民の姿があっというまに消えてゆく。あぁ、出発してしまった。あぁもうほんとうに行くのだ、行ってきます、ありがとう…
いつもハマスタ行く時に新橋駅東海道線ホームから新幹線が通りすぎて行くのを眺めていた。博多行きかぁ…などと思いながら。
今、その新幹線から新橋駅を見ている。わぁ…新幹線だ…
などと思っていたらあっという間に品川である。はっや!新幹線はっや!!
隣はまだ乗ってこない。3列シートでぼっちである。

見送りの民「静かに発車しちゃったから並走できなかったwww」

姫「姫が出征するみたいな風潮はNG」

そうだ、譲渡主に連絡しなければ。予定よりだいぶ早いんだ。DMを飛ばす。

『予定より早い新幹線に乗れました。何事もなければ広島駅に15:50到着です』

良く見ると足元に電源がある。新幹線すごい。では広島着くまでバッテリーは温存させていただこう。


いそいそとバッテリーを網棚のリュックにしまい、代わりに電源タップを出した。
ケーブルをスマホにさして深呼吸した途端にブワっと涙が出てきた。自分でもびっくりである。乗客の少ない車内とはいえ、シウマイ弁当を握りしめてメソメソ泣く女。怪奇現象か何かか。
それだけ、ほんとうにありがたかったのだ。思いつきもしなかった譲渡主へのお土産、まさかのシウマイ弁当差し入れ。それに見送り。
LINEやTwitterのDM、リプライでも続々と「行ってらっしゃい!!」「応援頼んだ!!」の声。
本当にありがたい。感謝の念しかない。シウマイ弁当を握りしめ、泣きながら窓の外を眺めていた。
譲渡主から返信が来た。『では、広島駅の改札でお待ちしてますね!』
ありがたい。改札に来てくれるって。ほんとうに感謝しかない。

そういえばきのう断った転売の人はどうなっただろう。転売でもいい人に渡ったのかな。
あぁ、なんか嫌なことしてんな…と自覚しながら昨日断った転売屋のアカウントを覗きに行く。

『25日のビジパフォ1枚譲渡可能です。価格応相談』

あ、まだ決まってないんだ。よかった。転売から買う人がいなくて。
いや、そもそもよくないんだけど、広島ファンがビジパフォ持ってるって。
…でもまだ「価格応相」って。もう意地でも定価譲渡は嫌なのか…
あ、待てよそもそもこの人自身がどっかから転売で買ってる可能性もあるのか

…あ、知ってる風景。新横浜である。港北ニュータウンで仕事していた頃は
この辺までよく原付で来たりしていた。懐かしいな。わっぱのから揚げ弁当たべたいな。

※わっぱ…https://tabelog.com/kanagawa/A1401/A140203/14038724/

いつまでもシウマイ弁当を握りしめていてもしかたない。新横浜過ぎたし、ありがたくいただこう。

紐が掛かっていない。そうだ、都内で買うと紐がないんだ。ある意味貴重だ。
そういえば都内でシウマイ弁当買ったことないな。
○まめちしき○シウマイ弁当は横浜工場製だと紐がかかった経木の折詰、東京工場製だと紐なしの箱蓋タイプ。蒲田駅から都内側で買うと東京工場製。

シウマイ弁当はとてもいい。カラダの中に横浜の空気を取り込めるようだ。
単身、広島に乗り込むのだ。赤い民の中に飛び込むのだ。体内まで武装したっていいだろう。そんな気持ちで筍煮を噛みしめた。うめぇ…食べ慣れた味に安心してまたちょっと泣く。

ところで西へ向かうにつれてどんどん天気が悪くなってゆく。
小田原を過ぎたあたりから明らかに空が暗くなる。三島を過ぎた頃から本降り。
神宮なら即中止になるレベルの降り。大丈夫かこれ。広島のほうは晴れてるんか…?
こんな雨なので富士山も見えない。これ、幕張のあたりだったら高層ビルも半分くらい見えないだろな、というどんよりっぷりである。富士山どころではない。

寝不足なんだからちょっと寝ようかなと思うもさっぱり眠れそうにない。
それより緊張感がどんどん高まってくる。
・なんで今日先発なんだろう
・YAMAHAの関連会社みたいなの増えてきたな、浜松のあたりかな
・あああああああの時の東京ドームうわぁぁぁぁ
・今どのへん?愛知入った?あれ、まだか
・ほんとまじなんで今日先発なの突然!?!?!?
・ところでまだしぞーかなの?長くね?

・とにかく思い出昇格じゃありませんように、ありませんように
完全に『負のセルフマッチポンプ』である。あと静岡長すぎ問題。
姫を送りだしてキャッキャッと盛り上がるかっ会LINEとTwitterを追いかけながら、己の緊張感と戦う。しんどい。もうほんと地球爆発しろ。

こんな感じの逡巡を繰り返しながら、名古屋駅に着いた。まだ本降りだが、静岡の入り始めよりは空が明るい感じがする。そしてまだ隣も2席空いている。快適。脳内で「負のセルフマッチポンプ」は続いているが少し余裕も出てきた気がする。

そうだ、アイス食べよう、アイス。あの硬い奴。ちょうど売り子さんが来た。
人生においてそう何度もない謎テンションMAX状態なので普段ならまずチョイスしないであろう抹茶を選んでしまう。

姫「アイス買った」
かっ会「おっ買ったか」
「ホットコーヒーと一緒に買うんが正解や」
姫「ファ?」
「ホットコーヒーの蓋の上にアイス乗っけて溶かすんや」
姫「マジかwwwwあと3分速く知りたかったww」

そういえば売り子のおねえさんが「こちら新商品のご案内です」とチラシを1枚置いて行った。

姫「…ほんとうにあと3分早く知りたかったwwwwwww」
「すまんwwwwwすまんwwww」

アイスの蓋をすこしずらして席を立ち、お手洗いへ向かう。
すげえwwww中川家のアレwwwアレとほんと同じだwwwww
個室でバカ笑いした。通報されてもおかしくない。しかもつい1時間ちょっと前にシウマイ弁当握りしめて泣いてたわけで、完全に不審者である。

ひとしきり爆笑したあとのアイスはとても美味しかった。硬いのは最初だけで
溶け始めたらあっというまにやわらかくなっていった。

まだ雨降ってんな…これほんとに広島のほうは大丈夫なんだろうか、と景色を眺めたり、会社から突然ヘルプミー、のLINEが飛んできたり(これは引き継ぎ先担当者が姫の作った手順書をよく読んでいなかっただけだった、安堵)…などとこまごま各方面と連絡を取っている間に京都に着いた。降っているかどうかわからない感じの空模様。

関西だぁ西日本だぁと思っているうちに新大阪。
そうだな、京都~新大阪って感覚的には東京~新横浜みたいなもんだろな。
早いな、新幹線。2時間半で新大阪とか。これ、姫んちからハマスタいくより近いじゃん…マジかよ…近いじゃん大阪…雨降ってるけど…

新大阪からも隣を含め周囲には誰も乗ってこない…と思ったら後ろに一人来た。
猛烈にタバコ臭い。ちょっと辟易。しかもすごく特徴的なタバコ臭さ。あーこれ知ってるわ…この匂いアレや…いわゆる「元彼」の匂いや…元彼のタバコ臭さやコレ…ってことはおっさんゴールデンバット吸ってんのかこれ…

ただでさえ「推しが先発する」「勢いで広島まで遠征する」というとんでもないテンションの中になんという古傷掘り起こしか。おっさん。何のいやがらせだおっさん。
しかも新大阪をすぎるとトンネルばかりで景色がほぼ見えない。
おっさんのタバコ臭さから逃げるようにちょっとだけ目を閉じた。意識はずっとあったように思うが少し寝たのかもしれない。ずっとこんな調子である。
がっちり最後に寝たの、昨日謎熱出して寝込んだ時じゃん。

ずっとトンネルの中に居たような気がするがもう岡山である。あっ晴れてる!
スマホでGoogleMAPを開く。ぎゅいん、と地図がスクロールする。うわぁ中国地方だー!すごいな。座ってるだけでこんな長距離移動してるとか。
ゴールデンバット臭かったおっさんは岡山で降りて行ったようだ。安堵。

トンネル移動の間に何か空間が歪んだんじゃないかと思うくらいの好天。
もうこれ絶対試合やるじゃん。あぁぁ先発だよ先発!!ほんとマジなんで今日なの!?ラミちゃん気を確かに!!ねぇ!!なんで今日なの!!!ねぇ!!
『負のセルフマッチポンプ』がどんどん加速する。

『ご乗車おつかれさまでした。この列車は間もなく終点、広島駅へ定刻通り到着いたします。どなたさまも落し物、お忘れ物なきよう、お支度をしてお待ちください』

手のひらに変な汗がにじむ。いよいよ到着してしまう。陽射しがどんどん強くなる。広島すげぇ。晴れてる。謎の感動すら覚える。超いい天気じゃねぇか。
結局ずっとさしっぱなしだったスマホのケーブルを抜き、ケーブルとタップをリュックへしまう。ボードの間に挟んできたブループリントを出し、石田健大カードと併せてお土産袋へ移す。結局隣はずっと空いてたな、ラッキーだったな。
窓の外にマツダスタジアムが見えた。…来ちゃった、と放心しかかる。減速。

さぁ、ここからは自分の足で歩かなければならない。背中にはやきうリュック、
だいじなものはエプロンバッグに全部はいってる。いつも使っているやつ。ずっと使ってきたやつ。いつものやきう観戦Style。大丈夫グレート丈夫。
この期に及んでグレート丈夫、とか口走る己自身にへんな笑いがでる。これはもう広島駅に不審者がいる、と通報されてしまうかもしれない。引き締める。
譲渡主に到着連絡。目印に65ビジユニを持っている旨を伝える。

街が赤いよ、とは聞いていたが…本当に赤い。改札を出てまだ2分とたたないのに、カープユニの家族連れが2、3組通ってゆく。ちょっと圧倒される。
駅ビルに入ってゆく人も出てくる人もだいたい、赤い。半分、青い。とかじゃない。だいたい、赤い。ユニじゃない人もちらっとTシャツから「あの坊や」が覗いてたりする。ひ、広島すごい…マジ赤い…!

「あの、姫さんでしょうか」
とてもかわいらしいお嬢さんが登場して驚くなど。

「アッハイひひひひ姫ですこのたびわわわ」

仮にも演劇部部長だったというのに!なんだこの体たらくは!!!
これは「不審者のエチュード」かなんかか!?アァ!?!?!?!?

「ではこれ、まず、チケットです、どうぞ」
姫「アッ…ほんとに、ほんとうにありがとうございます…うわぁ…」
「まちがってダブって買っちゃっててどうしようかって困ってたところに
探しているっていうツイート見かけて、こちらも助かりました」

姫「いや…ほんとに、ありがたいです。あっ、そうだ、あの、これ」

お土産袋を渡す。

「わっ、なんかたくさん入ってる…!?」
姫「すみません、お荷物になっちゃって。これ、どうぞ。鳩サブレーです」
「わぁ!」
姫「それと、石田くんのハイライトカードもどうぞ」
「た、大洋ユニの石田くんーー!やだ嬉しい!いいんですか?」
姫「はい、所持者がぜひ、って。それとこれ、ちょっと珍しいかと思って」
「なんですかこれ…?」
姫「これ、ブループリントと言って、ハマスタで配布してるえーっとなんていったらいいかな、…が、学級新聞みたいな」

_人人人人人人_
> 学級新聞 <
 ̄Y^Y^Y^Y^Y ̄

ほんとうに何を口走っているのか。学級新聞て。

姫「…スターナイトの頃ので最新号じゃなくて申し訳ないんですけど、選手名鑑としても面白いので、時間つぶしにどうぞ」
「わぁ~、こういうのすごいありがたいです
姫「来季でもその先でも、ハマスタとか東京方面にくることがあったら、嫌でなければ頼ってくださいね、なんでもバックアップしますからね」

「ありがとうございます、来季は行きたいなって思ってるんです」
姫「チケットも、とりますからねww」
「wwwありがとうございますwwwあ、もうスタジアム行かれますか?」

そうだ、思ったより早く着いたんだった。まだ16時過ぎ。ホテル先にいけるな。

姫「思ったより早くついたし、ホテルここから近いんで一度荷物整理して、身軽になってからスタジアム向かいます、ありがとう」
「わかりました、じゃ、いい試合になるといいですね。国吉くん頑張ってほしい!」
姫「あぁぁぁやめて吐きそう、ずっと今日こんな感じ…!でも頑張ってほしい!あの、ほんとにありがとうございました!}
「こちらこそ!じゃ、また!」

譲渡主のお嬢さん、ほんとうに素敵なレディでした。素敵な出会い。
ありがとう、ほんとうにありがとう!

ホテルへ向かう。右手にビジユニを握りしめたまま。
すれ違う人の大半が赤い。正直ちょっとビビる。
そりゃ関内駅降りれば青いユニの人はたくさんいるけれども、なんていうかそれとはちょっと違う。もっと「根づいている」感じがする。

「ほんとうに赤い…」

…と思わず呟きながらホテルに着いた。
フロントのお兄さんが姫を見るなり「あ、野球ですか?」と尋ねる。

姫「はい、このために来ました」
「遠いところお疲れ様でした。こちらお部屋の鍵です、どうぞ」

スタジアムへの近道も教えてもらい、ひとまず部屋に上がる。
…なんか壁がオサレ。いや~、来ちゃったよ広島ー。うわービジパフォチケットここにあるよー!うわー!

とりあえずベッドに転がりたい衝動を抑えてリュックを開ける。
ごそごそと着替えを取り出す。要らないものは全部おいていく。
神宮へ行くときと同じ荷物でいいのだ。ちょっと距離が違うだけで、ビジター側の外野の民だ。

あれだけ赤い民がいるんだから別にレプユニ着てってもよかろう。
…た、ただ上からパーカーは羽織るで…

よし、準備できた。吐きそう。吐きそうだが行かねばならぬ。ハラくくれ。
赤い民たちがぞろぞろと続く道へ、青い姫はひとりで飛び込んでゆく。


「推しが突然先発することになったから、万障お繰り合わせて応援しに行きます」第三部【先発・国吉】へ続く

(長いな)
(まさか第二部でまだスタジアムにつかないとか自分でも思わなかった)