「会社を長男に継がせたいけど、他の兄弟姉妹から何か言われるんじゃないかと心配…」
事業承継は、会社の未来を左右する重要な決断ですが、同時に家族間のトラブルに発展するリスクも潜んでいます。
特に厄介なのが、遺留分の問題です。
今回は、事業承継における遺留分問題を解決する民法の特例について解説し、円滑な事業承継を実現するための方法をご紹介します。
遺留分ってそもそも何?
遺留分とは、相続人が最低限受け取る権利として法律で定められた相続分のことで、遺言などでいくら財産を減らされても、この遺留分だけは必ず受け取れます。
例えば、先代の経営者が後継者に会社を継がせるため、自社株式を全て贈与したとしましょう。しかし、他の相続人がいれば、彼らは「遺留分が侵害された」として、後継者に対して遺留分に相当する額の請求をする可能性があります。
事業承継における遺留分の問題点
遺留分問題は、事業承継を複雑化させる要因の一つです。
- 後継者の経営権が不安定になる: 遺留分請求によって、後継者が保有する株式が減少し、経営権が不安定になる可能性があります。
- 事業の継続が困難になる: 遺留分を支払うために、後継者が自社株式や事業用資産を処分しなければならないケースもあり、事業の継続が困難になる可能性があります。
- 家族間のトラブルに発展する: 遺留分を巡って、相続人同士で争いが発生し、家族関係が悪化する可能性があります。
事業承継を円滑に進めるための特例
このような遺留分問題を解決するために、経営承継円滑化法では、遺留分に関する民法の特例(民法特例)が定められています。
この特例を活用すれば、相続人全員の合意を得た上で、遺留分を算定する際の財産価値から自社株式や事業用資産を除外したり、合意時の時価で固定したりすることができます。
特例の具体的な方法
特例には、除外合意と固定合意の2つの方法があります。
1. 除外合意
- 内容: 後継者が先代から受け継いだ自社株式や事業用資産を、遺留分の計算から除外できるというものです。
- メリット: ほかの相続人は、自社株式や事業用資産に関して遺留分を主張できなくなります。
- 注意点: 会社が非上場の中小企業で、合意時点で3年以上事業を継続しているなど、いくつかの条件を満たす必要があります。
2. 固定合意
- 内容: 遺留分の計算において、自社株式を合意時の「時価」で固定して算入するというものです。
- メリット: 株価が上昇しても、遺留分の額に影響を与えません。
- 注意点: 自社株式にしか適用できず、会社のみが利用できます。また、合意時の時価については、税理士や公認会計士、弁護士などの専門家に証明してもらう必要があります。
特例を活用する手順
特例を利用するためには、以下の手順が必要です。
- 相続人全員(遺留分を有する者に限定)による合意書の作成
- 必要書類と共に経済産業省中小企業庁事業環境部財務課への提出
- 経済産業大臣の確認
- 家庭裁判所の許可
まとめ
特例は、適用条件が厳しいため、事前に専門家への相談が不可欠です。
- 遺留分に関する法律の専門知識を持つ司法書士
- 税務や会計の専門知識を持つ税理士や公認会計士
- 事業承継の専門知識を持つ弁護士
事業承継における遺留分問題は、事前に対策を講じなければ、後継者にとって大きな負担となる可能性があります。
民法特例を活用することで、遺留分問題を解消し、安心して事業承継を進めることができます。専門家と連携して、適切な対策を検討しましょう。