83年録音。シューベルトの宗教的合唱作品集から、スターバト・マーテル ヘ短調です。サヴァリッシュ指揮、バイエルン放送交響楽団、同合唱団(合唱指揮ヨーゼフ・シュミットフーバー)独唱はヘレン・ドーナト、ヘレン、ヨーゼフ・プロチュカ、フィッシャー=ディースカウと声もそろい、7枚の重厚なボックスを制作しました。世俗的な合唱作品も録音。あまりとりあげられない作品をも網羅しています。もうひとつのスターバト・マーテルはト短調のD.175はラテン語ですが、6分ほどの小品で1815年に書かれました。ヘ短調はその1年後の作品です。多くの音楽が付されてきたスターバト・マーテル。キリストが磔刑となった際の聖母マリアの受けた悲しみをテーマとしています。先行する有名なペルゴレージ作品(1736年)があり、直截的にはハイドン作品(1767年)の影響を受けています。ハイドン作品はオラトリオ的な展開をするもので1時間近い大作。シューベルト作品も40分ほどのものです。1816年という年は1797年生まれのシューベルトが20代に向かう直前。声変わりもあり声楽隊を辞め、コンヴィクトを出たのが16歳。ロマン派らしい早熟と異常な創作力は「糸を紡ぐグレーテヒェン」から、歌曲の王となる旋律に真価を発揮しました。すでにヘ長調のミサ曲をはじめ、コンヴィクトを出たあとも教会の関係は続き、リヒテンタールの教会が宗教的声楽作品の舞台となりました。

ヘ短調のスターバト・マーテルはドイツ語のテキストに作曲されたことで異質な作品です。スターバト・マーテルではありませんが、晩年のベートーヴェンの畢生の大作、ミサ・ソレムニスは1823年とシューベルト作品に後続する作品です。1816年、ショーバーの提案で教職を辞め、ボヘミアン的な生活がはじまり、旺盛な創作能力を示した重要な時期にあたります。交響曲第4、5番といった作品。こうした作品が生活を潤すことはありませんでしたが、教会作品は実際に歌われることが目的のものでした。先述のように、ハイドンとベートーヴェンのミサ・ソレムニスをつなぐ。手法的には保守的ですが、緩やかなロマンへの移行。シューベルト晩年のミサ曲にはシューベルトらしい和声効果が際立つものがあります。スターバト・マーテルに見出すものは、資質の萌芽といったものですが、独唱者を得て、情感は美しい。まだまだ演奏の機会は限られた作品の貴重な一枚です。


 


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