79年録音のベートーヴェン、フィデリオ。ショルティ指揮のシカゴ交響楽団の演奏です。恋多き男であったベートーヴェン。生涯、独身だったわけですが「不滅の恋人」など逸話にも事欠きません。「フィデリオ」にもベートーヴェンの理想の夫婦像が反映します。その音楽と同様に理念が先行しています。作品を通しては囚われの身である政治犯の救出、自由、解放といったストーリーを追うことになります。男装しフィデリオとなったレオノーレが登場する前半はブッファの趣きです。後半はドラマ的にも音楽が一気に畳みかけますが、歌劇というよりオラトリオ風です。囚人の合唱をはじめ、テーマである救出を描くのは人類愛的。夫婦愛に思いが至る人は稀でしょう。ベーレンス、ペーター・ホフマンという強力な声はベートーヴェン以上にワーグナーで映えそうです。ガザリアン、キューブラー、テオ・アダム、グウィン・ハウエルと配された歌手はひじょうに強力です。作品は難儀の末に生まれ、レオノーレと名付けらえた序曲が3曲、フィデリオ序曲と合計4つもの序曲があることになりました。上演の成功のための難儀。作品の不成功はナポレオン軍のウィーン侵攻がありベートーヴェンの責任だけではありません。何しろ観客であるはずのフランス兵士がドイツ語を理解できませんでした。作品は自由思想を扱ったもので、やはり理念が問われるのです。近年、盛んに取り上げられるザルツブルクでの上演。ショルティも公演を行った指揮者の一人です。また映画「不滅の恋」での音楽もロンドン交響楽団を率いたショルティでした。合奏も手兵のシカゴ響の精緻な音楽が付されるフィデリオ。全体に隙なく進行し構築された全体がありますが、普遍の人類愛、理念の展開といったところは薄くなる。そういった意味では演奏は難しい作品かもしれません。

70年のカラヤンはヴィッカーズとデルネシュ、近接する78年のバーンスタインがコロとヤノヴィッツ。いずれもワーグナーをも歌う歌手がこなしています。かつてのフラグスタートといった重さから、歌手も移り変わっていった時代。ショルティ盤のホフマンもベーレンスもすでに亡く、現在の上演は歌手もかわりゆく中、ショルティ盤の強さは、これら特別な時期での録音であったことにあります。デッカでは、あの有名なワーグナーのニーベルングの指輪を最初期にスタジオ録音で完結させ、ヴェルディ作品をもとりあげていたショルティ。その真骨頂はワーグナー、R.シュトラウスに連なる作品にありました。オーケストラはウィーン・フィルではなく、シカゴ交響楽団としていること。オランダ人も、シカゴ響で制作され、マイスタージンガーの20年後の再録音もやはりシカゴ交響楽団でした。オペラ巧者のウィーン・フィルからシンフォニック・オーケストラであるシカゴ響。演奏の緻密に一役かっているところです。


 


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