ラ・トラヴィアータ

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$ラストテスタメント クラシック-デフォルメ演奏の探求-ラ・トラヴィアータ

オペラがまだ歌手の時代のころ、指揮者主導の演奏で強烈なカンタービレで聴くものを呪縛し、制作物としても一級品を残したのはトスカニーニでした。つづく指揮者の時代への先鞭をつけたともいえます。そのヴェルディオペラはどれもすばらしいものですが、「オテロ」と「フォルスタッフ」の完全無欠に比して録音の古さと歌唱の難が気になるものがあります。その一つが「ラ・トラヴィアータ」。通称「椿姫」で知られるデュマ・フィス原作の名作です。この名作で筆頭にあがるのがカラスでしょう。ミラノではあまりにもその印象が強烈でフレーニを起用したカラヤンも失敗して「カラスの呪い」とまでいわれました。その録音は幾種類も出ていますが、残念ながらカラスの歌唱はともかく録音が悪すぎたり、指揮がしまらなかったりと条件の悪さが目立ちます。高級娼婦の物語。トラヴィアータとは「道を踏み外した女」のこと。映画「プリティ・ウーマン」でオペラを見てジュリア・ロバーツが泣くシーンがありますが、まさにこのオペラの中に自分を投影しているのです。
 この主役の肺病に病むヒロインの歌唱を難しくしているのものの一つが、実演で慣習になった改編です。観衆が喜ぶために声域は高くなり、さらに音が付加されていったという状況。ムーティの演奏あたりから、ヴェルディが書いた音に戻して聴くとサーカス的な妙技は減ったものの不思議な魅力が出てきました。もともとヴィオレッタにはパーティの場などの外面と、孤独に打ち震える内的な面と相反する面の歌い分けだけでも難しい。ここではレナータ・スコットの歌唱。それでもカラスと比するとどうでしょう。レヴァイン、ゼフィレッリのオペラ映画のストラータスは画面上の美貌は映えましたがその歌唱にはいささか難あり。しかしこの映像後は見た目も重要になりました。受難が続きます。現代に求められているのは舞台映えする美貌と歌唱力。ハードルはきわめて高いのです。
 話題になっているオペラの廉価のシリーズにショルティ指揮の話題になったゲオルギューの「椿姫」が登場します。舞台の袖がまるで額縁のように見える美しい舞台。この映像ソフトはとても美しい。ショルティのヴェルディは録音の点数は多く、「シモン・ボッカネグラ」のようなマイナー作まで取り上げています。しかし、フォルスタッフ(旧録音)の評をみてみると「こちらは、緻密で激しく、ひじょうに直線的で騒々しい、派手だが全体としては、不気味なほど精密である。これほど乾いていて、切れ味がよく、ユーモアにあふれ、迫力に事欠かないオーケストラの音は、他のスタジオ録音にはおよそないものだ。オーケストラはここではまるでストラヴィンスキーの編曲したスコアのように鳴っている」(『名作オペラブックス「フォルスタッフ」』。ショルティのヴェルディでこの評にあまり付け加えることはありません。指揮は精確なのですが、イタリアオペラとしてはすこしボタンの掛け違いのようなものなのです。しかしこの録音のころは老成期。新しいスターの誕生を支え、つつみこむ老成した指揮者の姿があります。内在するドラマの陰と陽の描き分けも見事。
 意外だったのが、この録音(94年)の頃までショルティが「トラヴィアータ」を録音していなかったこと。「コヴェント・ガーデンから私にこのオペラを取り上げてみないかと提案されたのは、3、4年前のことだ。乗り気にはなれなかった。確かに作品は有名だし、客も入るかもしれないが、実はたいへん難しいオペラなんだ。まず第一にキャストだ。誰がヴィオレッタにふさわしく、誰がアルフレードにふさわしいというのだろうか、しかも演出はどうするんだ、といった具合で、私は慎重だった」。「ラ・ボエーム」のオーディションでゲオルギューと出会い考えを変えます。最初、ミミとヴィオレッタではキャラクターも違うし、どうだろうかと迷っていました。しかし私邸でそのヴィオレッタのアリアを聴いて考えは一変。制作を決意します。この段階から歴史的な公演になることを確信していました。「初日をわずか8日後に控えた頃のだったが、私はこの公演は絶対に録音され、映像収録されるべきだとの強い想いにかられてしまった。私はBBCの幹部に自ら電話をし、とにかくドレス・リハーサルをみて欲しいと力説したし、デッカにも電話をして、録音しようとかけあった」。映像、および同時に制作されたCDにはショルティの自信がみなぎり、期待に見事応えた現代のディーヴァ、ゲオルギューというスター誕生の場面を見事捉えた映像があるのです。特に、2幕。娘の結婚で兄嫁が元娼婦というと世間体が悪いから身を引いてくれと頼むアルフレードの父。いささか旧態めいたシーン。デュマ・フィスの原作を凝縮したために、ヴィオレッタが現実と向き合う場を描くために重要になった場面です。ヴェルディの音楽は父を基本的に善人として描いています。このソフトは古い場面を新しく現代的なものとして描きだしました。唯一、配役に傷があるのですが(見た人はわかるはず)見た目にも、音楽的にもひじょうに高いレヴェルに達したプロダクションです。

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冒頭 これだけでわくわくします

出色の2幕
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