「空と海の境界線の、遥か彼方の光の奥に、私は吸い込まれていく」

「悼む人」

原作 天童荒太 脚本 大森寿美男
演出 堤幸彦

出演 伊藤蘭  小西真奈美 手塚とおる
        真野恵里奈 向井理

文字通り人の死を悼む。

事故 病気 災害 殺人によって人は死ぬ。人が死んだ場所に行き、悼む旅をする人の話。

最初の音楽で、僕の心と体は静かになりました。自然に。それを聴くために。

まるで朗読劇みたいな台詞回し。それが早口で膨大な量の台詞を役者が喋る。

最初の音楽の後は、内容も明るくなく、重たいので正直、少々入り込みづらいのを感じたけど、

でも、その台詞を喋る役者を目で追わずにはいられなかった。話す内容もそうだけど、心が激しく動いてるから、こちら側は集中しないと置いてかれる。もう本当に大変な芝居なのだ。

希望は無いのか、希望は!!と泣きそうになってしまう。何て残酷なのか。人の事なんて分かり得ない。計り知れない。奥が深過ぎる。


しかし、希望はある。命を繋ぐ。生があった。愛するという事と、思うという事。感じるという事。生きているということ。当たり前の事。

伊藤蘭さんが手塚とおるさんに、言った台詞がとても優しい。

目の見えない手塚さんは、間も無く死を迎える伊藤蘭さんに「何か私に出来る事はありませんか?」すると伊藤蘭さんは「あなたにして欲しい事は、ただ。誰かを好きになって欲しい。その誰かと思い切り愛し合ってくれさえすれば、それでいい。」

僕はそんな台詞に目からウロコが落ちたようだったんだよね。何故かわからないけど、当たり前の事に気づいたというか。

向井理も終演後カーテンコールの挨拶で言ってた。


「僕はこの本を読んで、今こうしてここに立てているだけでとても幸せな事なんだと気づきました。それまで生きてきてやっぱり不平不満を言う事もありましたし、役を通して、沢山の当たり前に気づきました。」

カーテンコールで5人が泣きながら抱き合う姿を見て、感無量。


これはとても大事な舞台だと思いました。きっと他にも面白い舞台は沢山あると思います。でも、これは大事な舞台でした。終わってみれば、何て優しい気持ちになれるんだろうと安らかな気持ちとで一杯になります。

そしてとても美しい舞台でした。

「僕が生きている限り、あなたは死なない。あなたはここに生きている。」ってね。
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