夫の家庭内暴力(DV)から逃れるために夫に隠れて転居した女性の住所を、大阪府大東市が誤って夫に漏洩(ろうえい)していたことがわかった。女性が転居届を出した2日後だったという。夫からの直接の接触はないというが、市は府警に女性の安全の確保を要請した。
市が取材に対して明らかにした。市は「完全なミス」だとして女性に謝罪した。
市によると、女性は10月15日、同居の夫の暴力を理由に、夫に気づかれないように転居した。府警にも対応を相談し、市に対しては、同17日に転居届を出した際に「DV等支援措置」を申し出た。
支援措置は総務省が所管する全国共通の制度で、DV被害者の申し出により、加害者が被害者の住民票や戸籍付票の写しの交付を申請しても、自治体側が拒否できるというもの。適用が正式に決まるまでの間も同様の暫定措置がとられる。
市では申し出を受けた際、住民票と戸籍の情報を開示できなくするシステム上の手続きを、当日中にパソコンで個別に行う運用になっていた。だが女性のケースでは、担当者が戸籍関連の手続きを失念していたという。このため2日後の同19日、コンビニエンスストアの端末からマイナンバーカードで戸籍付票の写しの交付申請をした夫に、転居先の住所が伝わった。市が漏洩に気付いたのは同31日、システム上のデータを確認していた時だったという。
■市は「弁明の余地がない」
漏洩後、夫から女性の携帯電話に「住所がわかったぞ」との趣旨のメッセージが送られてきたという。市は女性に謝罪し、府警には経緯を報告してパトロールの強化などを要請した。
大東市の中村知則・市民課長は取材に「完全な人的ミスで弁明の余地がない」と話した。再発防止策として、開示制限の手続きは1人ではなく、複数人で確認し合いながら行う運用に変えたという。
■自治体の漏洩、4年で38件
DV等支援措置の対象者の住所漏洩(ろうえい)は各地で相次ぐ。総務省によると、自治体が誤って加害者側に伝えたケースは、2020年4月から24年11月1日までに全国で少なくとも38件あった。
東京都日野市は23年5月、措置対象の女性と子の住所を加害者とされる夫に漏らした。児童手当の受給書類を申請者の夫に送る際、住所を伏せる作業を怠ったという。埼玉県所沢市も24年8月、措置対象の男性の住所を加害者とされる妻に漏洩した。戸籍付票の写しの請求を受けた際、夫が対象者であることを確認できていなかった。
訴訟に発展したケースもある。加害者とされる元夫の代理人弁護士の請求で、戸籍付票が2度にわたり交付されたとして、措置対象の女性が22年に香川県三木町を提訴。翌年、町が解決金35万円を支払うことなどで和解した。
■「人生を狂わせるという危機意識、何より大事」
DV被害者の支援団体「エープラス」(東京)の吉祥(よしざき)真佐緒・代表理事は、人為的ミスはいつ、どこででも起こりうるとの前提で、住所が記載された書類の交付申請を受けた場合は、複数人で開示の可否をチェックする態勢が欠かせないと考える。
その上で吉祥さんは「何よりも大事なのは、漏洩が被害者側の人生を狂わせる、という危機意識。身の危険だけではなく、再転居や転職、子の転校などを迫られ、精神的にも大きな負担を強いられる」と強調する。
2024年11月30日 7時00分
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コメントプラス
みたらし加奈
(臨床心理士・NPO法人mimosas)
2024年11月30日11時21分 投稿
【視点】心理支援において、「絶対にしてはならないこと」「細心の注意を払わなければならないこと」は一貫している。それは守秘義務も同じであり、相談内容だけではなく、個人情報も絶対に漏れてはならない。その立場からすると、こうした漏洩の報道が不思議でならないのだ。ここまでくると、ヒューマンエラーというよりも組織の体制の問題でもあるのかもしれない。
DVの被害に遭われた方の中には「漏洩が怖くて、新しい住所の住民票の届出が出せない」ケースがかなり多い。またDVをおこなう側は操作的であり、一見「気さくで信頼できる人」に見えることもあるため、窓口の職員が問題に気づかない場合もあるのかもしれない。
だからこそ、個人の裁量で「伝えるかどうか」を決定するのではなく、個人情報保護の観点をルールとして組み込むことも必要だ。そしてDV被害というものを透明化せず「この事例はこう対応する」といったマニュアル化も必要である。
どうか「命に関わることだ」という認識をいま一度持った上で、2度とこのようなことが起きないような組織改革をしてほしい。