
谷口真由美・神戸学院大学客員教授
兵庫県知事選挙で、前知事の斎藤元彦氏が再選を果たした。なぜ斎藤氏は勝利できたのか。谷口真由美・神戸学院大学客員教授に聞いた。
AERA 2024年12月2日号より。
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稲村(和美)さんの「斎藤候補と争ったというより何と向き合っているのか違和感があった」という言葉を、そうだろうなと思って聞いていました。
「エコーチェンバー(意見を発信すると似た意見が返ってくる状況)」とか「フィルターバブル(自身の価値観の中に孤立する情報環境)」と言われますが、入り口はわかりやすいストーリーだと思うんです。ストーリーテラーがいかに多くの人々に伝わりやすいストーリーを作り上げたか。時代劇と同じように勧善懲悪ものが受ける。「既得権益」という言葉を使って、どこかにすごく悪い奴がいて、そういう悪い奴らに陥れられたんだというストーリーをうまく作ったということはあるでしょう。そしてアディクション、熱狂の状態を作り出す。新しい手法のようで、実は古来からあるやり方です。
私も大阪府知事選で痛感しましたが、例えば赤信号で1、2分しか足を止めない人たちに、今の現職はこう言ったけどこれはやれていないなどというのは、非常に伝わりにくいんです。
■市長の支持はマイナス
今回、兵庫県内の22市長が稲村さんを支持するという異例の表明を出しましたが、あれは大変なマイナスになったと思います。「既得権益」のど真ん中、つまり、悪い奴と簡単に位置づけられてしまう人の集合体が稲村さんを担いでいるように見えた。無所属という立場で出たにもかかわらず、「これだけの人が応援してるんだぞ」ではなくて、「これだけの人のしがらみの中でこの人はやらなきゃいけないんだ」というように見えてしまった。斎藤さんには興味がないけれども、そんな人たちに担がれているならろくでもないやろ、と。一度作られたわかりやすいストーリーは、打ち消す方が難しいんです。
「既得権益」という言葉で維新が大阪で特に批判したのは教員でした。嫌いな先生って誰でも一人は思い出せるから、それをうまく使ったんです。それから公務員。役所で待たされたとかたらい回しにされた経験は、誰もがしている。それ以外の人の溜飲を下げるために、人口の1割いない程度の公務員を叩く。公務員は叩かれても文句が言いづらいから叩きやすい。
非常にわかりやすい敵の作り方だけれど反論しにくい。なぜなら相手の抽象度が高すぎるから。こういうレッテル貼りは、うまくできた時にはものすごく機能するんです。人々は過去の事例や自分の経験則、ネットからの情報をいいあんばいで繋ぎ合わせて、それを真実だと考える。でも現実社会での敵とか味方って、そんなにはっきりしていないものです。
今回、立花孝志さんが斎藤さんを応援するという立場で立候補しました。まさかそんなことをする人はいない、という前提で進んでいた社会がガラガラと崩れているという状況に、法律が追いついていません。法改正も検討するべきだと思います。
(構成/ライター・濱野奈美子)