また暑い夏がやってくる。
君と最後に過ごしたあの日と同じ…暑い夏がやってくる。
君と出かけた先に、大輪の向日葵が咲いていた。
「この向日葵は可哀想ね」
「何故?」
「頭が重くて傾いているもの。向日葵は上を向いていなくちゃ。貴方みたいに!」
「俺?」
君は意味有りげにクスリと笑い、青い空を指差して言った。
「そうよ!貴方みたいに!だって向日葵は地上に咲いた太陽だもの。太陽は空にあるものよ。空から落ちてきたんだとしたら、向日葵はあの青い空を向いていなくちゃ!」
そう言って指差した先には太陽があった。
眩しくて目が開けられない。
それでも太陽から目を離す事は出来なかった。
地上に咲いた太陽。
俺にとってそれは…君だった。
たった一人の大切な女。
「ごめんね…。私の様子がおかしいから気を遣ってくれたんでしょ?大丈夫…大丈夫よ。私なら大丈夫。もう泣いたりしないから…」
君が涙を堪えているのがわかる。
でもそれを拭うのは俺の役目じゃない。
だから泣いても良いよとは言えなかった。
だが、涙を堪える君を見ていられなくて、愛おしくて、たまらなく愛おしくて…
「泣いて良いよ…。此処には誰もいない。太陽以外は…此処にはいないから」
溢れる涙を拭くことも出来ずにいる君を、俺はただ抱きしめた。
ただ黙って抱きしめた。
もしこの時に俺が君に何か気の利く言葉をかけていたなら、運命は変わっていただろうか?
君を失う運命を回避出来たのだろうか。
後悔しても仕方がないと言いながら、一番後悔しているのはこの俺だ。
一番大切な女を救う事も出来ず、一番信頼していた友を裏切り、失い、真実を明かす事すら出来ない。
向けられる憎悪をただ黙って…受け止める事しか出来ないでいる。
「わぁ!大きな向日葵!」
声に驚き、一瞬体がビクリと動いた。
今は仕事中であった事を思い出し、背筋を伸ばす。
(意識が飛んでいたな…いかんいかん)
向日葵が陳列されたケースの前に、小さな女の子と大柄な男が立っていた。
「今日は向日葵にするか?」
「はい!」
男は手際よく向日葵を手に取り束ねていく。
「何本にする?向日葵は本数で花言葉が変わるからな」
「そうなんですか?」
「あぁ…1本なら一目惚れ、3本なら愛の告白。7本ならひそかな愛」
男はからかうように女の子の耳元で囁く。
「11本なら最愛。99本は永遠の愛だ」
「私そんなに買えません!」
女の子は根を上げたように、真っ赤な顔をして叫んだ。
「ククッ…お前相手に押し売りなんてしねぇよ」
「もぅ!」
ようやくからかわれた事に女の子は気づき、男の体を強く叩いた。
「花言葉の続き…聞きたくねぇか?」
「…聞きたいです」
男はしゃがんで女の子の顔を覗き込みながら言葉を続ける。
「108本は私と結婚してくださいで…999本は『何度生まれ変わってもあなたを愛す』だ」
「向日葵って意外とロマンティックな花言葉なんですね。向日葵畑に連れて行かれたら、プロポーズされてるみたい」
「まぁ、お前にはまだ早いがな」
「もー」
男はあやすように女の子の頭を撫で、「今日は2本にしとけ」と言って手早く他の花を合わせていく。
もしあの時、あの場所に999本の向日葵が咲いていたなら…
俺は何があっても君を繰り返し愛すると…気持ちを伝えられていただろうか。
(過ぎた過去を思っても仕方がないな…)
向日葵が目の前の二人を幸せに導いてくれるようにと…俺は静かに祈った。
ꕀ꙳
前のブログで2012年に掲載していたものを加筆修正しました
14年前だって…(*´・д・)(・д・`*)ネー
前半はちょっと修正して、後半はほぼ書き下ろしです
元々は星村麻衣さんの『ひまわり』をイメージして書いたSSでした
14年後に同曲で動画を作って、別のSSを書いて
ふと前に書いたものをもう一度載せたいなと思いました
14年も経ったら動画作っちゃってるよ私…Σ(゚Д゚)スゲェ!!