日曜日。

 

ていうか少し早めにダラダラと冬休み。

 

明日ひょっとしたら仕事に出ろと言われるかも知れないんだけど、この時間になっても会社から電話がかからないところをみると、恐らくこのまま休んでもいいんだろう。

 

 

一昨日「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」を観に行ってしばらくたったんだけど、あれこれいちゃもんをつけすぎたかなという後悔が私の中でジワジワと襲ってきてて、そんな妙な心持を持て余している。

 

 

そういう時は日曜日ということで、全く違う毛色の映画でも観て、罪滅ぼしではないけれど、少しでも「リフレッシュ」しないといけないかなということで、思い切ってちょっと趣きを変えて日本映画を。

 

 

昨年度の各映画賞を賑わせ、米アカデミー賞でも作品賞にノミネートされ、国際長編映画賞をゲットした「ドライブ・マイ・カー」をいささか遅きに失した感もあるけれど、観てみた。

 

 

「アバター」の続編と同じくこちらも3時間に及ぶ大長編だけど全く違うタイプの映画で、亡くなった妻の秘密を抱えながら苦悩する演出家と、同様に過去に苦悩する寡黙な女性運転手とのいわば心の交流を描くお話なんだけど、そのプロットから感じられるような薄っぺらさは微塵もなくて、舞台公演が始まるまでの時間軸の中で徐々に人間関係が形成されていくその過程にはスピード感がないにもかかわらず観る者の心に常にザワザワ感を維持しながら物語が進んでいくので、長さを感じさせないし、飽きさせない。

 

何だろうね、凄いんだよね、この妙な「ザワザワ」が。

 

舞台稽古が進むにつれてそれが完成に近づいていくワクワクもあるし、それと同時に西島秀俊演じる演出家・家福と三浦透子扮するドライバーのみさきの距離が徐々に縮まっていく過程も妙なドキドキ感があって、それらが相まって妙な「ザワザワ」が止まらないという、何とも不思議な映画。

 

加えて広島が主な舞台になっているので、それだけでも高揚感があるし、更には私の知らない広島もたくさん出てくるので、その私の故郷である広島と対峙している自分が誰かに見透かされているような妙な感じもあって、それも含めて常に「ザワザワ」していたように思う。

 

 

あとは何が凄いって、全く回想シーンがないんだよね。

 

 

妻との生活も序盤にちゃんと描いて、ちゃんと亡くなるシーンも順を追って描いたうえに、ふたりが過去に対する贖罪を吐露するシーンも現在進行形ですべてセリフで語られる。

 

何年前だったか、NHKで放送された山田太一脚本のテレビドラマで「ナイフの行方」という名作があったんだけど、これも回想シーンが全くなくてすべてセリフで過去を語っていて、それにいたく感動したことを思い出した。

 

 

回想シーンって安易に使われがちで、過去を説明するうえではとても便利なツールではあるんだけど、同時にキャラクターの感情の流れを遮断してしまう危険性も併せ持っているので、そういう意味ではこの映画は登場人物の感情の流れに素直に身を任せられて、感情移入することに見事に誘導する、そんな巧さもあったように思う。

 

 

ひとつだけ残念だったのは、私がチェーホフを読んでいなかったことで、この映画の中でいわゆる「劇中劇」的な扱いになっている「ワーニャ伯父さん」の舞台を作り上げていくという過程をもし私がちゃんと読んで内容を知っていれば、この映画はもっと味わい深いものになっていだろうことは想像に難くないし、返す返すも自分の無知を後悔せずにはいられなかった。

 

 

そうそう、もうひとつふと思い出したのは、1991年だったかなあ、TBSの「東芝日曜劇場」で放送された市川森一脚本の「サハリンの薔薇」というこれも名作があったんだけど、役所広司扮する、妻を安楽死させた罪に苛まれてサハリンにたどり着いた医者が「ワーニャ伯父さん」のセリフを駆使してロシア人との交流しながら過去を乗り越えていくという作品で、ひょっとしたら監督の濱口竜介さんはこのドラマにインスパイアされたのか...いや、それはないかな。

 

 

にしても全体的に静謐な映画で、セリフも比較的少なめにもかかわらず3時間の長丁場が全くダレないというのは凄いなと。

 

 

先ほども言ったけどその3時間の間で程よく維持される「ザワザワ」の威力、観る前に想像していた以上に私の心に常に突き刺さりまくりだった。

 

 

起承転結で言うところの「転」も想像以上の変化球で、これもまた長尺にもかかわらず全然飽きさせない、ダレないというポイントだった。

 

 

何だろうね、どう表現すればいいのかよく分からないけど、こういう日本映画らしい日本映画が世界に通用する嬉しさとその才能に激しく嫉妬して悔しいのと、いやそれでもいい映画を観た心地よい余韻に浸ることの贅沢さ...決して「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」では得られない贅沢さなんだろうと思う。

 

三浦透子という女優さんはこの映画で有名になったんだろうか、最近ちょくちょくテレビドラマでも顔を見ることが多くなって、その個性的な魅力はこの映画を観てなるほどなと思ったし、妻役の霧島れいかさんはいわゆる「脇役」でしか知らなかった女優さんだけど、今回は今までになく素敵だなという印象があって、改めてその魅力が感じられたように思う。

 

 

にしてもやはり公開して映画賞を賑わせて盛り上がった時にちゃんと観ておけばよかったという後悔と、やはりチェーホフくらいちゃんと読んでおけよと、その無学な自分が恥ずかしいなと。

 

 

うーん、やはり私はダメだな。

 

 

まあでも今からでも遅くない、人生は一生勉強なのだと、ちょっと自分を慰めてみたりして。

 

 

 

何せ今年はまだまだ時間がある。

 

 

...色々学ばないとね。