...私、無言、です。

 

 

 

 

ええ、朝の9時過ぎから観始めました、小林正樹監督の「人間の條件」全6部作。

 

 

 

今、観終わりました...ええっと、夜10時12分。

 

 

 

この映画は全6部作に分かれているが、第1部と第2部が1959年1月、第2部と第3部が1959年11月、第5部と第6部が1961年1月に、それぞれセットで封切られている。

 

 

 

実際には撮影に足かけ4年を費やしたそうだ。

 

 

 

 

私もその封切時の形式にならい、第1部と第2部を観終わると、買物に出かけ昼食をとり、第3部と第4部を観たあと洗い物と夕食の準備、第5部を観て夕食を摂ってから、最後の第6部を観た。

 

 

 

 

 

 

計9時間31分...あ、でも私が観たのは昨年のBSプレミアムで放送された「山田洋次監督が選んだ日本の名作100本 家族編」のもので、8月15日月曜日から20日の土曜日まで1日1部ずつ、6日間のそれぞれの番組の前とあとに山本晋也監督と小野文惠アナの解説と主演の仲代達矢のインタビュー映像もあったので、実際はもっと長い間テレビに向かっていたことになる。

 

 

 

 

長かった...確かに、長かった。

 

 

 

でもねえ、第1部を観終わると、次が気になり、第2部を観ると、すぐに第3部が観たくなる...文字通り、止まらなかった、どんどんどんどんのめり込んでいって、気がついたらもう夜だった...それが真実。

 

 

 

 

まあつまり、ぶっちゃけ、思っていたよりもかなり面白かったという訳だ。

 

 

 

誤解を恐れずに言うと、思っていたより分かりやすく、かつ、深くて、それでいて娯楽性をもちゃんと併せ持っていた。

 

 

 

 

第1部「純愛篇」と第2部「激怒篇」では、満州の高山で労務管理を任された中間管理職の「サラリーマン」としての主人公・梶が戦時下のさまざまな不条理に抗い、まわりを敵に回しながらも人間の尊厳を訴えようとする姿を描いている。

 

 

 

第3部「望郷篇」と第4部「戦雲篇」では、いよいよ戦争に駆り出されるのだが、敵は同じ軍隊の中の日本人で、ここでもそのヒロイズムのせいで「赤」と罵られ、いじめに遭いつつも、人間の尊厳を獲得しようと苦悩、奮闘する。

 

 

その第4部のクライマックスでいよいよロシア軍との戦闘が描かれる。

 

 

 

第5部「死の脱出」では敗戦兵となった梶たちの逃避行が、第6部「曠野の彷徨」では捕虜になり、その中でもまたロシア軍よりもむしろ他の日本兵との対立の中で、人間の尊厳を叫ぶ姿が描かれている。

 

 

 

 

まあとにかく、全体的には主人公・梶のヒューマニズム、現実の戦時下では埋没してしまっていたであろう人間性に対するある種の「ヒロイズム」が、その梶というキャラクターに投影されている。

 

 

 

番組の解説でも言われていたことだが、実際の戦争ではこの梶のような人物は存在しなかったであろうが、五味川純平の原作と戦争体験のある小林正樹監督の「思い」が強烈に反映された結果なのだろう。

 

 

 

 

その主人公・梶の戦時下における「変化」を主役の仲代達矢は、まさに梶そのものになりきって、見事に演じていたように思う。

 

 

サラリーマンとしての葛藤、一兵卒としての葛藤、戦時下とはいえ「殺人」を犯してしまったひとりの人間としての苦悩をホント、見事に演じていた。

 

 

 

 

 

その仲代の名演もあって、とにかく1部終わるごとに、次が観たい、次が観たいとイッキに観てしまった。

 

 

 

戦争という状況下におけるひとりの人間の変化という意味では、この映画ほど丁寧に描いているものはないだろう...もちろん時間が長いということもそれに寄与していると思うが、全6部がすべて無駄がなく、そのそれぞれのどのエピソードも梶のキャラクターを描くためには欠かせないピースとなっているというところがすごい。

 

 

それは恐らく、どんなシチュエーションに置かれても梶という主人公の哲学というか、人間性、生き方がぶれていないということが大きいのかな。

 

 

 

しかも、この作品、戦争映画という言い方が最も当てはまるにもかかわらず、サラリーマンモノとしても描かれているし、夫婦愛もしっかりと盛り込み、群像劇としても面白い。

 

 

あとね、実際にいわゆる戦争映画の売りであるはずの戦闘シーンは、第4部のクライマックスにあるのみで、全編のうち9時間以上は「ドラマ」である...それもすごいなと。

 

 

 

 

 

まいったね。

 

 

50年以上も前に、こんなすごい映画を作ってたのね。

 

 

ていうか、その当時だったからこそ、日本映画が輝いていた時代だったからこそ、こういう名作が生まれたんだろうね。

 

 

 

先日観た「切腹」に心酔していたので、私はますます小林正樹監督が好きになった。

 

 

 

ああ、またまた今までこんなすごい映画を観ていなかったことを後悔し、恥じるよ、あたしゃ。

 

 

 

 

更に驚いたのは、この映画に出ていた当時、まだ20代だった仲代達矢は、第1部と第2部を撮り終わったあと、黒澤明の「用心棒」に出演し、そのあと第3部と第4部に出たあとに、再度黒澤明の「椿三十郎」に出てから、第5部と第6部にまた臨んだという、まさに「ひとり日本映画史」的な芸当をやってのけていたということ。

 

 

 

これは小林正樹と黒澤明が親密だったということもあったようだが、それにしてもちょっとすごすぎる逸話である。

 

 

 

 

 

まあとにかく、五味川純平の原作を絶対読むぞと心に誓い、偉大な日本映画の歴史の1ページをまた知ることとなった私は、心のそこから満足している。

 

 

 

そりゃあね、疲れましたよ、ドッと。

 

 

 

なにせまる1日費やしたんですから。

 

 

 

でもね、心地いい疲れですよ。

 

 

 

 

すばらしい、あまりにもすばらしい9時間31分...小林正樹監督、仲代達矢さん、ありがとう。