一英語教師の読書ノート -13ページ目

Nation, P. Vocabulary Size, Growth and Use.

Nation, P. 1993. "Vocabulary size, growth and use". ed. Schreuder, R. et al. The Bilingual Lexicon. Amsterdam: Benjamins. pp. 115-134.


 未知の単語を推測しながらテキストを読み理解するには95%の語彙が既知語である必要がある。高頻度語上位約3000語で95%をカバーするが、アカデミックな場においては高頻度語上位約2000語+アカデミックな場においての高頻度語800語の習得が望ましい(Xue et al. 1984)。語彙の習得のためには反復練習より創造的に使用してみることが効果的である(Hall 1991)という説を提示する一方、著者は単語カードの作成・携帯を勧めている。

 ネイティブスピーカーの語彙の大半を占める低頻度語の習得には、様々な分野の読書が必要である。語彙の記憶保持には教員によるドリルより読書やリスニングの方が効果的である(Elley et al. 1981)。インフォーマルな会話からは低頻度語を学ぶ機会はあまりない(Schonell et al. 1956)。

 つまり、2000-3000語の語彙をできるだけ早く取得し、その後は多様な分野の読書により低頻度語を学習し、読書やリスニング、単語カードによって学習語彙を保持し、語彙を増やすことが望ましいということだろう。高頻度語についての論は既知のものだったが、低頻度語の獲得にはインフォーマルな会話でなく多様な読書が有効という説は、当たり前のようだがあまり目にしたことがなかったので新鮮だった。課題は、授業に多様な読書をどのように組み込んでいくか、ということになるだろうか。

Nation, P. Lexical awareness in second languag

Nation, P. 2008. "Lexical awareness in second language learning". eds. Cenoz, J. et al. Encyclopedia of Language and Education. 2nd ed. vol. 6. Boston: Springer. pp. 167-177.


 学習者に語彙を意識させることの利点と方法についての論考。単語帳を作成し覚えた単語数を意識させることで意欲を刺激させる、単語の使用頻度の知識を持つことで語彙学習の達成可能な短期目標を持たせる(高頻度の単語は限られるので、高頻度の単語から覚えれば効率よく理解できるということ)、英語起源の外来語はすぐに使用可能な語彙になりうる(日本語の場合約3000語。Daulton 2002)等の指摘がなされている。文学作品は感情、家族、食物に関する表現を学ぶのに役立つという指摘もあった。

Littlewood, W. Communicative and task-based lang

Littlewood, W. 2007. "Communicative and task-based language teaching in East Asian classrooms". Language Teaching, 40: 243-249.


 コミュニケーション重視や、タスクに基く英語教育は、東アジアではうまくいっていないという指摘。英語を生徒に使用させる生徒中心の授業がうまくいかないのは、大教室、生徒の母語使用、不十分な生徒の意欲・教員の能力、文法・語彙・読解中心の入試などのためだという。解決策として、一足飛びに高度なコミュニケーション能力を要するタスクをさせるのでなく、文法・発音練習などコミュニケーションを要しない練習から始めて、誰もが答えを知っている質問に答えさせる、最近習った言葉を使用した情報交換、より複雑な情報交換、ディスカッションへと、少しずつ段階を踏んでコミュニケーション重視の教育法を取り入れていくことを提案している。

 コミュニケーション重視の英語教育がうまくいっていないのが日本だけではないと知り、興味深かった。段階をふんで進めていくことはもちろん大切だが、日本の場合少人数クラス(せめて20人以下)を実施することが何よりも必要だと思う。経済的に難しいだろうが、よほど意欲のある学生が揃っているのでない限り、20人以上のクラスで学生の母語使用を制限し有意義なコミュニケーションの時間を確保することに、少なくとも私は困難を感じる。第二に必要なのは学生が興味を持てるタスクだろうか。英語が得意でない学生の場合、彼らの語学力でできて知的好奇心を刺激するタスクは少なく、容易にできるタスクの内容は大抵あまり面白いものではない。ゆえに、少人数クラスの次に教材開発が必要であると思う。