の続きです
小さい女の子と
男性の影
突然見えた
新しい映像に
私は動揺して
心拍数が上がるのを感じました
あの女の子は誰？
そしてあの男の人の影は？
「３番ベッドに、○○さん
入っていただきますねー。」
受付スタッフが次の患者さんを
案内する声で、私は我に返り
吉井さんに
「終わりましたよ。
ゆっくり起きましょうか。」
と声をかけました
吉井さんは、いつもよりゆっくりと
大義そうにベッドから上半身を起こすと
「先生、おおきに。ありがとう。」
と、小さい声で言いました
私は吉井さんの正面に回り
彼女と目が合う位置にしゃがみました
「先日は、バナナありがとうございました。」
と、周りに聞こえないように伝えた後
白衣のポケットから
あのカードを取り出し
彼女の手に渡しました
吉井さんは、最初
カードを不審そうに見ていましたが
しばらくすると、突然
がばっと顔を上げて、私を見ました
眼と眼が合ったまま
何秒かが過ぎた後
吉井さんが口を開きました
「先生おおきに。ありがとう。
でも、世の中には弱いもんと
強いもんがある思うんです。
私は弱いもんやから、仕方ないんです。
これでええんです。」
と言うと、
私の手にカードを返しました
えっ？！
と驚いている間に
車椅子を持ってボランティアの方が
吉井さんを迎えに来られ
私は再度、次の患者さんのところへ
呼ばれました
吉井さんに素早く一礼して
次の患者さんの待つ
ベッドに移動してからも
私の頭の中では
どうして？どうして？
が渦巻いていて
落ち着くために、待合の花瓶に活けられた
黄色いキンセンカの花を思い出しながら
目を閉じて、深呼吸をしました
それから終業までの数時間は
できるだけ
目の前の仕事に集中することを
意識して過ごしました
患者さんがお帰りになり
後片付けをして
その日使ったタオルを洗濯して
干してから、ゴミを集めます
最後にゴミ袋を持って
収集場所に運ぶ時
真ん丸な、大きい月が目に入り
今日は満月かぁ
と思ったと同時に、
吉井さんのことを思い出しました
あの日
吉井さんがくれた1本のバナナが
喫茶店で、そっとテーブルに置かれた
おしぼりが
私を勇気づけてくれたように
あのカードが、吉井さんを
少しでも癒やしてくれるんじゃないか？
そんな期待をしていた
自分を感じました
私は、本質を
何にも分かっていないのかもしれない
簡単に何かをしてあげられると
思って行動したけれど
自分の気持ちしか
見られていなかったんだな・・・
メソメソと泣きたくなる気持ちを
マフラーをぐるぐる巻きにして堪えながら
早足で駅までの道を歩きました
まさか、その２日後に
あんなことが起こるとは思わずに・・・
続く・・・
