「小説新潮」2021年2月号の、特集"氷点下のミステリー"の中の、大山誠一郎氏の短編「カラマーゾフの毒」を読みました。
https://www.shinchosha.co.jp/sp/shoushin/backnumber/20210122/
家政婦が、かって遭遇した資産家の毒殺事件の話をし始め、犯人が捕まらなかったその事件の疑惑を語ると、主人公と共に話を聞いていた、推理が得意な悪役俳優の叔父が、真相を解き明かす本格ミステリです。
タイトルでわかる通り、ドストエフスキーの「カラマーゾフの兄弟」が設定のベースになってますが、あれを毒殺事件の本格ミステリにした感じですかね。
父を殺した容疑がかかる、金に困っている息子たちは全員、毒を盛る機会はなく、ではいかにして殺したのか?を解明していくわけですが、後半に至り、探偵役の悪役俳優の叔父が見事な推理を披露してトリックを見破り、事件の真相まで解き明かします。
この探偵役の悪役俳優の叔父が、かって「カラマーゾフの兄弟」のある役を演じていることが、ちゃんと伏線になっているところがうまいですね。
最後には即興で演じてくれますし。
その上、トリックが解明されてからの怒涛の真相解明によって、「カラマーゾフの兄弟」より非情な現実が浮き彫りになっていくところなど、なるほど、まさに"氷点下のミステリー"ですな。
そこにも見事な伏線回収があり、この伏線が回収される度に温度が下がり、氷点下の非情に近づいていく終盤の展開には中々の醍醐味があります。
短い作品ですが、意味深な、よく出来た本格ミステリの秀作です。