癌がわかった時、どこでどんな治療を受けるか?
…を初めて会うそのDrは
「どうされますか?」
と尋ねてくれた。
「先生は、どんな方針ですか?」と夫は聞き返した。
彼が、考え考え示した方針を聞くと、夫は
「じゃあ、出来るだけ早く始めて下さい」
と即決した。
え?
実は、弟は消化器癌が専門の外科医。
私は、まず相談したかった。
それは夫もわかっていたし、本人も相談するつもりでいたのだが、結構な進行具合で、多臓器転移も心配な状況。
即決すれば、翌日にはPET、週明けには大腸ファイバー(木曜だった)、なんかあって生検したらその結果が出る頃には入院して術前ケモが始まっている、という電光石火の予定が組まれた。
前にも何回か書いたが、これが良かった。
オペ後の病理検査の説明時に、ギリギリで腹腔内転移前に治療は始められた、と説明された。
全く自覚症状がなく、実感は無かったが、夫に引きずられて命拾いした。
この時、相談の電話をかけた弟は「(根治が望めるかどうかギリギリだと思うから)長丁場の介護をするダンナさんのホームグラウンドで、車で20分で行けるところ、というのはとにかく大事なポイントだよ」と言った。
以後、ずっと相談相手になってくれているし、今はセカンドオピニオンの担当医として主治医と直接やりとりしてくれている。
私立だけど地域の拠点病院で700床はあろうかという準がん拠点病院。当県唯一の国立医大の研修施設でもあり、医大からDrがふんだんに派遣され設備は近隣でも多分一番。
あまり考える余地なく決めてしまったけれど、このたまたまも良かったことは確かだ。(でなきゃ賛成しなかった、と弟は言った)
親ガチャもあれば、地域ガチャもある。
bestの治療やケアが手に入るかどうかは、どこに住んでいるかで変わる。現にリハビリに関しては、地方では自費で受けようとしても不可能で、STに至っては、嚥下困難でもなければ絶対に探し出せない。
首都圏では、失語症のリハが普通に受けられると知った時はのけぞってしまった。
それに比べたら、ガイドラインで標準治療の定まっているがん治療は、保険で全国どこにいても同じ治療が受けられることになっている。
建前は。
本当のところは、先生の技量と経験と勘が成否を分けることは職業柄よく知っている。
そして、相性も大きい。
私はそれこそ命がけで、主治医が一生懸命になってくれる患者であることに努めている(つもり)。
人生を全うするには、どんな治療を受けどんなケアを受けるか主体性を持って(そして覚悟を決めて)臨むしかない。
これが難しい認知症や失語症、あるいは神経難病などで自己表現が難しい状態になったら、信頼できるキーパーソンに頼るしかない。
主介護者でありキーパーソンであるヨコ型のケアラーにとって、どこで過ごすかを決めるのはとても厳しい選択に違いない。
どんなに仲の良い間柄でも、育ってきた家の文化の違いや地域の違いで「こんなにも違うのか」と愕然とすることが多々ある。
自分が一番良いと信じていても、当の本人はそれを望んでいないかも知れない。
本人の本心がどこにあるのか、どんなものを食べて暮らしたいのか…もし本人がケアする側になっていたら、どんなケアをするだろう、と想像して欲しい。それが本人がして欲しいケアなのだ、多分。
ただし、タテ型で上の世代をケアする場合は、
「ゴメン!でも、明日を生きる子・孫の方が大事」ということもままあって、施設介護に踏み切る場合もあるだろう。
夫が妻をケアする場合、「そんな生活能力ない!」という場合も多々あるだろう。
うちの場合、もっと問題だったのは私が30年どんなふうに衣食住を管理してきたか、夫は全く見ていなかったことだ。
ことに食に関しては。
今回初めて、1人で外食ばっかりではなく、簡単な自炊に挑戦しているみたいだが、ここまで来るのにこの4年、辛抱強く教えてきた。
「できないから手伝って」と言うことにして、野菜の切り方から炒め物の基本まで。
あと一息で基本の栄養知識を…というところだったのに。
一人暮らしでも困らないように。
残される人への置き土産だ。
私のターミナルには間に合わないかも知れないけれど…
慣れないことばかりで、ストレスも多いだろう。
生まれてから、やったことのないことを人のためにする。それだけで褒められるべきなのに相手が満足しないとあっては、投げ出したくもなる。
夫は、それが30数年かかって作ってきた関係なのだから仕方ない、と言っている。
考えてみれば、結婚しても一緒にいる時間なんか少ない。長時間労働や海外出張の間ワンオペで子育て。生活のための労働…一緒にいる時間の大半は眠っている時。夫にとっては同僚女性といる時間の方が長いくらいだったのではないか?
時にはケア生活から解放されてそういう旧知の人達と時間を過ごすのも大事だって思う。
私だって、夫の留守に築いてきた地域でのネットワークのおかげで倒れてからもどれだけ助けてもらったかしれない。
長期にわたる厳しいターミナルケアは慣れ親しんだ場所で、手に入る医療や介護がbestでなくてもbetterを選んでやるしかない。
それが本人にもケアラーにもいいのかも知れない。
そして、もし良い環境を求めて新天地へ移ったのなら、ケアラーのレスパイトのために公助をフル活用することもきっと必要だ。
ケアラーが還暦に近いなら、ケアラーが倒れたとき緊急にショートステイやレスパイト入院できるよう慣れておかねばならないから。