~チャンミンside~
「きみの担当になってる、あの会社の案件についてだが。」
昼に支店へ戻った僕を呼び寄せて、作成途中の稟議書を片手に話しだした渉外副長。
「はい。あの、…何か不備がありましたか?」
「いや、…そうじゃなくて。実は、この会社の本社からある申し出があってな。」
「今回の大掛かりな設備投資にあたって、この支社と本社を合同で融資してほしいそうなんだ。」
「その条件で、うちが根抵当権をつけてもいい、と言ってきてる。」
「ほ、本当ですか?」
「最初は、抵当権って話だったから、こちらとしては申し分ないだろ?」
「今の情勢では珍しい優良会社で、将来性もある。」
「────出来るか?」
にやっ、と笑う副長に。
「はいっ!!!!」
興奮気味に、でもハッキリと返事した。
根抵当権をつける、という事は、担保の枠を作るということで。
これからも融資取引が続くということだ。
当行にとっては、願ってもない話で。
「まぁ、でも3年目のきみには少々荷が重いかもしれないし、…これは向こうの本社も関わってくる案件だから。」
「本社担当の融資渉外と協力して案件をまとめてもらうことになった。」
「……ああ、そろそろこちらに来る手筈になってるから、協力しながらいろいろ教えてもらうといい。」
「当行期待のホープだからな、彼は。」
─────嫌な予感がする。
僕のこういう予感は結構当たる。
でもさ、今朝は何も言ってなかったよな?
いつもの朝だった。
僕が作った簡単な朝ご飯を美味しそうに食べて。
もう支店が別なんだから、平日一緒に寝てもいいだろ?って、もう癖になってんじゃないか?ってくらい、繰り返してくるセリフ。
それを僕が無視して、…くっ付いてきたのを軽くはたいたのも一緒。
「彼が来たら、ここへ案内して。とりあえず3人で打ち合わせをしよう。」
そう言われて、重い足取りで営業室へおりる階段のステップを踏んだ。
昼過ぎの混みあう窓口の向こう。
自動ドアがスーッと開いて。
長身におよそ銀行員らしくない細身のスーツを身に纏い。
切れ長の瞳は久しぶりの古巣への懐かしさからか、スッと細められて。
整った鼻筋ときれいな顎のラインがポテッと赤い唇をより色っぽく見せて。
何ともいえないオーラを纏い、こちらへ歩いてくる人。
ジュリさんが融資窓口で接客しながら、パァ、…と一瞬目を輝かせたのを見逃さなかったし。
同じ大学で、憧れの人なんです、って公言してるジュンギもその人の突然の来訪に興奮した面持ちだ。
スーッと見渡して。
僕に視線が重なった。
憎らしいくらい格好良く、ニッ、と笑いながら。
「チャンミナ。」
僕のなまえを口にした。
────────ユノヒョン!!!