結構内容は古いものですが、重要な歴史的問題のひとつとしての我が国における朝鮮学校の高校無償化除外の事案について、改めて論説を加えたいと思います。


これ自体、bubkaさんのブログでも随時取り上げておりますが、ネトウヨや右派系政治家それからこの問題についてまったく無知な人々の「憶見」がまかり通る形で日本国内は、「反日教育」をしているから当然除外されるべきだ、はたまた「北朝鮮スパイ養成機関」、「キム親子を崇拝する洗脳機関」だとか色々な言葉が飛び交うなかで、戦後間もない当局からの弾圧や00年代における拉致問題を発端として「チマチョゴリ切り裂き事件」や関係する児童への加害行為が横行、最近では在特会による2009年の京都朝鮮学校襲撃事件などなど、日本の排外的極右勢力による暴力的蛮行が何度も起きる形で、今年に入っては凶器を持った男が学校内に侵入したり、校舎のガラスが割られるなどという事が後を絶ちません。


私としましても、元来から日本国内に根強く残っている「侮蔑・迫害の対象としての朝鮮人」像が政治的問題が引き起こされるたびに噴出し、マジョリティによるまったく理性を介さない卑怯な暴力が、常々マイノリティ側に突きつけられている現状です。



そういう国内における「思想的下地」を踏まえたうえで考えないと、容易に見誤った見解に至ってしまいます。



朝鮮学校における過去の教育については、冷戦対立まっただ中の時代における「思想教育」というものはたしかに存在しましたが、時代とともに下火となり、その教育を受けた人々も市井の人である以上考えは流動的になっておられますし、現在は純粋な民族教育の場となって地域の人々と密着した存在となっています。この動画でゲストと呼ばれてきたデイリーNK東京支局長の高英起氏がご出演されておりましたが、私は彼の意見を聞いていて、正直「説明が下手だな」と感じました。朝鮮学校について全く説明が出来ていないに上に、ネガティブな断片的な事例しか提示せず、背景としての原因や歴史的バックボーン、その変遷を構造的かつ客観的に述べられておりません。私としては、TBSラジオの方にもひとつ意見を提示することとして、現在の学校側の関係者にも現場に来て頂き客観的な議論の場を作ってもらいたかったです。


ほとんどが問題について無知な人を集めたところで、その本質や実体はつかめません。


ましてや平沢勝栄という極めて右翼的な人間の話は、「政治的問題」や「反日教育」一点張りの極めて傲慢かつ独善的な見解ですし、ここで最も重要なお話を致しますと、そもそも「『反日教育』とはなんぞや」として、みながこれについて全く無批判の材料として受け入れている現状があります。拙ブログにおいても、その「お守り言葉」性やら「真の定義からの乖離」した現状を記事にして詳しく解説致しました。



昨今の日本社会においては、社会が右傾化し、極めて反動的な安倍自民を筆頭に右翼雑誌や右翼本(嫌韓本を筆頭)であふれかえり、アマゾンでは排外的レイシズム団体『在日特権を許さない市民の会』の会長である桜井誠(高田誠)の本が1位を取る現状です。



そんな中での各々の「朝鮮学校」観というものは、いかほどのバイアスがかかって極めてネガティブに捉えがちです。よく議題にあがる「反日教育」についても、これは本来歴史学的な範疇での命題であり、学的素人がただ印象論で「こうこうだから、しょうがないよね」と軽々しく発言できる問題ではありません。無論、植民地問題における学校の歴史的記述についても、在日コリアンがなぜ日本に存在するのかという、根本的かつ本質的な「存在論」の問題であり、きわめて深刻に捉えるのは当たり前のことです。


そこで、過去の日本の植民地政策を批判したりすることについては、歴史学的にも当時の経済的システムから俯瞰しても妥当なことであります。これは私自身が記事にしている、「近代ブロック経済における植民地収奪論」でもさまざまな学的観点から広く提起している問題です。また現在の日本の歴史学的主潮においても、同様の見解または学術的通念として確立しております。


つまり、「反日的な朝鮮学校の歴史的教育の悪」と語ること自体が誤りであり、それは歴史学という「専門科学」の部外者である政治家や問題に精通しない人々たちの独善的措定による「誤謬」といえるでしょう。



上述の総合的な帰結として、国連から様々な「勧告」として日本政府の行いに対する過ちを指摘しております。

国連勧告の全文http://l.facebook.com/l.php?u=http%3A%2F%2Fta4ad.net%2Fwp%2Fwp-content%2Fuploads%2F2014%2F09%2F1d55f383b97c46c02b35e3c58e68b997.pdf&h=rAQHXcw37&enc=AZPlI3M3oZK92r8qLZUDNiodA0xon5jpDkiYZM9ZQCeGq1Jqr1w3Ju82BtAyWeP0Ful_a_nq5slY53k_s37yFY06kEPYS5diflXVyRAA387kNYuOgRKUyIG5nZjI4WCvu3GqU43MJ9cv7vFwEE-ZPfKCYsjvDFe8K7Bgd-L74lDECQ&s=1



その中の「朝鮮学校の問題」について抜粋します。

朝鮮学校

19.委員会は、以下に挙げる状況を含む締約国の法規定及び政府活動によって、締約国における韓国・朝鮮系の子供たちの教育を受ける権利が阻害されていることを懸念する。:a)朝鮮学校を高等学校就学支援金対象から除外されているb)自治体による朝鮮学校向け財政支援の割り当ての継続的縮小あるいは差し止め(第2条及び第5条)。

一般的勧告30(2004)「日本国籍を持たない者に対する差別」に照らし、委員会としては、前回の最終見解パラグラフ22で示した「締約国は自国の領土内に居住するあらゆる子どもが学校入学について障害に直面しないよう、教育を受ける機会の提供においていかなる差別もないことを確実なものとする」という勧告をここに繰り返す。委員会は締約国がその立場を見直し、自治体による朝鮮学校への資金提供を再開させ、また、高等学校就学支援金からそれぞれの朝鮮学校に見合った補助金額を提供することを推奨する。委員会はまた、締約国が、ユネスコによって1960年に採択された教育差別禁止条約への加盟を検討することを勧告する。



特に重要な勧告

33.委員会は、上記パラグラフ11、19、21、23に含まれる勧告が特に重要であることに締約国の注意を喚起するものであり、次回定期報告においてこれらの勧告を実施するためにとられた具体的施策に関する詳細な情報を提供することを求める。

※11.ヘイトスピーチ 19朝鮮学校問題 21沖縄問題 23.難民申請問題



つまりまとめるとこいうことです。


①委員会は韓国・朝鮮系の子どもたちの教育を受ける権利が阻害されていることを懸念してます。

・無償化制度からの除外

・助成金の縮小、差し止め


②差別をなくして無償化制度を適用させなさい。助成金も出しなさい。

③教育差別禁止条約への加盟を検討しなさい。

④この問題は重要な問題なので次回まで具体的な施策に関する詳細な情報を提供しなさい。




やもや動画内でも、「子供の権利条約」を「理想論」として語る人がおられましたが、きわめて現実的かつ喫緊する動的な問題として、上記のように「国連勧告」として日本政府に突き付けられているのです。

間違っても、日本に意をそぐわない「反日教育」をしてるだとか「日本を貶めてキム親子を崇拝している」という「国内の論理」はおよそ通用せず、それでもその論理に固執するならば「国連は大反日組織」という、どうしようもならない土壺にはまって、ついには「世界が反日」という八方ふさがりという矛盾に陥ります。


まあこの「国内の論理」自体、朝鮮学校のみにターゲットを絞ること自体が矛盾であり、そうなると今全くの政治的対立状況におかれている「韓国学校」や「中華学校」にも適用されるはずなのですが、そもそも日本に原爆を投下して「それを正しかった」と教えるアメリカンスクールについては、まったくの沈黙というありさまで、そういった「日本とは異なる教育をしている」論理からいくと、「世界中の国々の教育」が「反日教育」という結論が導出されるのは、だれしもが理解できる事実だと思います。


ざっと述べましたが、これが「反日教育」論理の陥穽であり、最も脆弱にして反証を介さない独善的な国内論でしかないということです。世界を確実に理解する人々にとって、これほどまでに横暴な論理は到底受け入れがたいものであり、今現在それが大手を振るってまかり通っている現実に、ただただ憂いと軽蔑の念しかありません。



※追加参考動画


レイバーネットTV第42号「高校無償化なぜ朝鮮学校だけダメなの?」

http://www.ustream.tv/recorded/26443542