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悪質な運転による交通事故に対処するため、法務省は21日、危険運転致死傷罪のあり方を議論する検討会の初会合を開いた。適用要件や類型の見直しなどについて刑法の専門家や交通事故遺族らで議論を進め、同罪を規定する自動車運転処罰法の改正も視野に、法相に報告書を提出する。

危険運転致死傷罪は特に悪質な運転を処罰するため平成13年に成立。法定刑の上限は懲役20年で、処罰対象として、制御困難な高速度▽アルコールや薬物で正常な運転が困難▽赤信号を殊更に無視する-などの状態での運転を規定する。

一方、近年は法定速度を大幅に超えた死傷事故で、高速度でも「制御困難」の要件が満たされないと判断されるなどして、同罪が適用されないケースが相次いでいた。

遺族から規定見直しを求める声が上がり、昨年12月には自民党のプロジェクトチームが同罪の適用範囲の拡大などを求めて小泉龍司法相に提言していた。

検討会は座長の法政大の今井猛嘉教授(刑法)と遺族、弁護士ら委員の計10人で構成する。この日の初会合では、危険運転致死傷罪に問う高速度の運転や飲酒運転などの適用要件の明確化について議論を求める意見が出た。一部委員からは「責任の大きさに見合わない刑罰を科される可能性がある」などと慎重な意見も出た。

■悪質事故でも適用見送り、慎重意見も

危険運転致死傷罪の要件見直しに向けた検討が始まった。度重なる法改正で厳罰化が進められてきた悪質な交通事故。同罪の適用見送りが相次いだことで、遺族は適用範囲の拡大などを求めるが、過度な処罰を招きかねないとみる専門家もおり、見直しを具体化するハードルは高い。

政府は悪質な運転などによる死傷事故が相次いだことを受け、これまでにも法改正を繰り返して厳罰化を進めてきた。

平成13年に法定刑の上限を懲役15年とする危険運転致死傷罪を新設。それまで適用されてきた業務上過失致死傷罪の懲役5年から、法定刑を大幅に引き上げた。さらに16年には上限を懲役20年とし、19年には過失による事故を懲役7年以下で罰する自動車運転過失致死傷罪も新設した。

危険運転の適用範囲が狭いとする批判に対し、対象となる類型についても改正が重ねられた。

25年に危険運転と過失運転の双方を移行した自動車運転処罰法を制定した際には、飲酒などで正常な運転に「支障が生じる恐れがある状態」も危険運転の類型に追加。令和2年にはあおり運転なども対象に加えた。

だが、その後も同罪が適用されない事例は続いた。特に直線道路での高速運転による事故では、「制御困難とはいえない」とする判断が相次いだ。

こうした判断に交通遺族らは反発。今年1月には遺族団体が「制御困難な高速度」を制限速度の2倍以上とするなど、危険運転致死傷罪の適用範囲を拡大・明確化するよう求める要望書を小泉法相に提出した。

東京都立大の星周一郎教授(刑法)は「危険運転は他の犯罪とのバランスで適用範囲を限定してきた」と分析。適用範囲拡大には慎重な検討が必要とした上で「『無謀運転』のような危険運転と過失運転の中間類型を新設すべきではないか」としている。(宮野佳幸)