歌舞伎には 動きの決まり事があります。 

例えば 1 正面向きで名乗りを上げたり  2 物語の説明をしたり
(これは あくまでも、お客様を主体とした独特のもので 能仕立 お能からの狂言立です。)

リアルなお芝居では 決してありえないことでしょう。

また、三方礼(カーテンコールで行なう お客様への御礼)は 必ず上手から行なう 等 

色々な決まり事 先にも申し上げましたが 歌舞伎は お能から発展したものなので 
その動きのあり方は 皆 お能の基本的な動き方に添っております。

この能仕立は、スーパー歌舞伎も例外ではありません


1 の 変形的なあり方は 幕開き、帝の台詞 「小碓の命よ これへ参れ!」での小碓の登場!

真正面の階段下から上がってきて まずお客様にその姿をご覧に入れ 存在を覚えて貰います。

それから上手に控えます。 (これもリアルなお芝居ではありえません)


2 の 物語の説明は2幕の幕開き 朝臣(まえつぎみ)たちが
1幕での熊襲館での小碓の戦いを説明致します。

これは3幕での幕開き 私扮する尾張の国造、夫妻が 2幕までの状況説明をしているのも同じですね。

リアルなお芝居ですと 各々が各々の顔を 見ながらでないと 逆に不自然です。


この他の動きの約束事で その場を1周するとそこは もう別の場所(別世界) と云う事があります。

お能などは狭い舞台で 広い世界を表現しますので そう云った事を お客様にわかって頂ける様
あらかじめ 約束事が設けられているのです。


スーパー歌舞伎での、そのお約束事が 2幕 焼津でヤマトタケル タケヒコ 弟橘姫の元へ
蝦夷の兵士 ミンダラが参ります。 そして ヤイラムの元へ案内する時 

「いざまず あれへ」と云い 先に発ちながら 1周すると
ヤイラムが現れ 背景のパオを想像させる模様が降りてまいります。

パオとは中央アジア モンゴルやアラビアなどによくある 大きい居住空間のテントの事です。


リアルなお芝居ですと ミンダラを先頭としたタケル一行は 一旦 舞台袖に入り 舞台転換の後に
新たに登場と云う事になりますが それではスピーディーに運びたい動きに 水を指すことになり

時間がかかり過ぎてしまいます。それでは連続的な動きの、お客様の呼吸を閉ざしてしまいます。
 

そこで先ほど指摘した 能仕立での動き 1周すればそこはもう 別空間 パオの中!

ヤイラムは上手から現れますが これはパオの中でタケル一行を迎えたこととなり 

決して焼津の場面でミンダラに続いて 上手から登場したわけではないのです。


富士を背にした草原から ミンダラに案内されて長い距離を歩き パオの中で迎えたヤイラムとの会談


そして焼津の草むらと 短い距離・時間で 長い距離 多くの時間をかけて移動した事を 
表しております。

これは3幕での能煩野でも同じことが言えますね。 


こう云った お約束事も 含めて舞台を御覧になって頂くと なおさら面白いかと存じます。