そんなばかげた政策があるか!と怒り出す人も居るかもしれない。しかし、そういって怒る人でも、道端に野垂れ死にしている人が居てもほうっておいてもいいとはなかなか言わないだろう。失業者に一定の期間の失業手当を払うことを全面的に否定する人は少ないだろう。国民年金という形で最低限の年金を高齢者に支払うことに反対する人も少ないはずだ。
すなわち、現在の制度下では多くの人が最低限の生活を保障されるだけの給付を政府から得ている。ただし、現行の制度の下ではその際にはなんらかの「理由」が必要である。
ここに大きな問題がある。生活保護制度は貧困ビジネスとして悪用されたり、実際にはもらう必要がない人に配られることで政府の財政を圧迫し、また多くの人のハタラクインセンティブを削いでいる。また、不正を見極めるためのコストもバカにはならないだろうし、支給基準の運用が自治体によって違う点も問題である。
子供手当ては子供の居る家庭のみに配られる。その根拠は必ずしも明瞭でない。
このように、現在のいろんな給付金やあるいは控除といった制度は恣意的でコストがかかる仕組みになっているのである。
そんなことだったら一律にベーシックインカムとして数万円を全員に給付し年金制度も生活保護制度も廃止してしまおうというのである。その結果、不正は減るだろう。また、それに関わるコストも大幅に減り、政府組織もスリムになることが期待される。
小さな政府支持者にもサヨク的な考えを持つ人にも大いに支持されるる政策である。
問題はその財源が巨額のものになる点であろう。しかし、ここではその点は「ひとまず」は問題にしない。
仮に国民的合意を得て財政の大幅な組み換えによってベーシックインカムが制度として実施されたとしよう。
しかし、まず持って問題なのはその給付額である。年金制度や医療保険制度を見れば分かるように給付額を引き下げるのは容易ではない。ベーシックインカムも一旦制度として定着してしまえばすべての国民の「既得権益」となる。その結果、財政が悪化しようとも景気が悪化して税収が大きく落ち込もうとも政治家は容易にはベーシックインカムの給付額を引き下げることはできないだろう。国債発行で借金をして将来に負担を先送りしながら給付を続けていくことになる可能性は高い。これは果たして正しいことなのだろうか?
その支給額が働かずとも生きていける金額であったとするならば・・・・。人間の働こうというインセンティブを削いでしまうだろう。この意味はとてつもなく大きく、経済に大きなダメージを与えることは想像に難くない。
あるいは、ベーシックインカムが給付されたとしてもせいぜい数万円である。人間が働かずに生活できる額とは限らない。万が一、病気や怪我で働けなくなった場合はどうなるのだろうか?あるいはとんでもなく怠惰で責任感のない人間が給付金を浪費し借金までして家を失い飢え死にしそうになった場合にはどうなるであろうか?もらったお金をすべてパチンコと酒につぎ込んでしまった場合は。。。?
いずれの場合にも、おそらく政府によるそういった人々の救済を求める声が高まることは想像に難くない。そもそもそういった人々への救済を個別条件ごとに行わないのがベーシックインカムの理念であったはずだが、それは見事に崩れ落ちることになり、かえって財政の支出額は増えることになり政府組織は再び肥大化しコストは増大するだろう。
結局、あらゆる政府による施策は制度設計時点でいかに理念的にも制度的にも優れていても恒久的に続かないというところに問題がある。そして、ベーシックインカムもおそらくその範疇を出ないものである。生活保護に子供手当てに、各種の税控除に・・・・という複雑怪奇な給付金や補助金・税控除のオンパレードよりはベーシックインカムや(個人的にはこちらのほうが好き)負の所得税ははるかにベターなものであろう。しかし、結局それらも制度として恒久的に上手く運用できるかといえば残念ながらはなはだ疑問であるといわざるを得ない。
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