アメリカの医療がおかしいのは市場に任せすぎたからだ。なんで国民皆保険にアメリカ人が反対するのかよくわからない。あいつらは市場原理主義者で頭がおかしいんだ。
なんていう声が聞こえてくる。
このブログではアメリカの医療費高騰の原因が必ずしも市場に任せすぎたからではないんじゃないか?という疑問を何回も書いてきた。同時になぜオバマの医療保険改革にもアメリカ人が反対しているのかも書いてきた。
今回はニューヨークタイムズに書かれたこの記事から。
Following the Money, Doctors Ration Care
The underlying problem is that doctors are reimbursed at different rates, depending on whether they see a patient with private insurance, Medicare or Medicaid
医療に平等にアクセスできないという現象はアメリカにおいて新しい問題ではない。
その根本の問題は民間医療保険かメディケア (高齢者向け公的医療保険)かメディケイド (低所得者向け公的医療保険)のどれに患者が入っているかによって医者への支払い金額が違うことだ。メディケイドの患者の医者への支払いはメディケアのたった40-80%なのだ。(その結果、当然、医者は(保険からの)支払額が多い患者を優先する)
このようなゆがみの原因は高齢化や需要の増大ではない。
理想的には医療に対する需要の増大は医療サービスの供給の増大を促すはずだが、アメリカでは今後15年で15万人の医者の不足が予測されている。なぜなら、医師という資格の取得が非常に厳しく規制されているために需要の増大に対応できないからだ。
熟練看護師の行える医療行為の範囲拡大や外国人医師を増やすこと、ウォルマートスタイルの安価な医療サービスの提供の許可によって増大する需要にこたえる必要があるが、そういった規制緩和が行われる様子は見えない。
今後数千万人のアメリカ人がオバマ法案によって民間医療保険とメディケイドに加えられるが、上述のようにメディケイドの被保険者は不利益をこうむるだろう。
このことは何回も書いているがアメリカの医療保険制度をゆがめている一つの大きな原因は上述の二つの公的保険制度である。問題の両保険制度の患者の医者への支払いが少ないから当然彼らは後回しにされたり診療拒否されたりするらしい。
じゃあ、もっと政府が民間保険並みに払えばいいじゃないかという意見もありそうだが、ご存知のとおり上述の二つの保険が政府の財政を圧迫しているのは有名な話であり、これ以上政府も対応しきれないのだろう。
また、メディケアにおける公定価格が需給をあまりに無視した結果、市場にゆがみをもたらしているという点に関しても以前書いた 。
本来であるならば、こういったゆがみを作り出す公的医療保険を廃止しすべて民間保険にするとともに、低所得者などへは医療保険購入のための補助金(もしくはバウチャー)で対応すべきというのがセオリーのはずだ。しかし、まったく逆の方向の全員参加の公的保険なんていったわけだから、今の健康保険に満足している多くの有権者がオバマ法案への反対姿勢を強めたのは想像に難くない。何も問題の解決にならないどころか事態を悪化させる可能性の高い提案をしていたわけだ。
さらに、この筆者も書いているが供給サイドの改革が必要だろう。
これは日本でも言えることだ。いつも書いているが、日本の場合は比較的安価な医療サービスをうまく提供しているといわれている。しかし、実際には勤務医や一部の診療科においては安価な公定価格が過剰な需要を喚起して彼らの勤務実態を非常に過酷なものにしているといわれる。その結果、全般的な医師不足に加えて、一部の診療科においての深刻な医師不足が起こっているという。(また、誤解を恐れず言えば、値段が安いから質の悪い(クレーマーのような)患者が増えているのかもしない)
要は供給サイドに過剰な負担を押し付けることで安価なサービスを維持しているだけにすぎない可能性は高いといえるだろう。
又、公定価格はさまざまな医療の技術革新を妨げていることも想像に難くない。
しかも、医療費は34兆だが、そのうちの37%が税金の投入でまかなわれているという。要は現状でも保険料もしくは患者の自己負担分が安すぎるわけだ。持続可能な制度とはいいがたい。
日本でも供給サイドの改革が求められる日は遠くないだろう。
できれば、問題が大きくなる前により市場機能を生かした医療制度に向けて改革が進むべきだろうが、例にもれず医療の業界も利権まみれの世界だから、おそらく官僚と政治家と利権団体が制度をいじくりまわして滅茶苦茶になるまでは、現在の統制経済が続くのだろう。どんなに彼らが滅茶苦茶なことをしても「医療の世界に市場機能を持ち込むなんて!!」といえば多くの人が納得してしまうわけだ。
気が重い話である。
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