第43回:屋根一軒からはじまった「相乗りくん」・上田市民エネルギー | 全国ご当地エネルギーリポート!

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-エネ経会議・特派員:ノンフィクションライター高橋真樹が行くー


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◆大きな屋根にみんなで相乗り!

 今回の全国ご当地エネルギーリポートで紹介するのは、長野県北東部の上田市で太陽光発電事業に取り組むNPO法人上田市民エネルギーの活動です。長野では、これまで自治体の長野県環境課や、飯田市のおひさま進歩エネルギーなどの取り組みを紹介してきましたが、他の地域でも豊富なエネルギー資源を活かした取り組みが増えてきています。特に上田市のNPO法人上田市民エネルギーが発案した「相乗りくん」は、一軒の屋根から始めた小さなものでしたが、それが長野県を始め全国に広がろうとしています。


大きな屋根を活用して左側に住宅用パネルを、右側に相乗り用のパネルを載せる。相乗りくんの前で手をつなぐ、屋根オーナーとパネルオーナー。(提供:上田市民エネルギー)

 「『上田の特産物は太陽光だ』って言えるようになりたいですね!」と言って微笑むのは、柔らかな雰囲気をたたえる上田市民エネルギーの代表理事、藤川まゆみさんです。3・11の震災が起きたときには、かっぱ寿司でパートをしていたという藤川さんは、「3年前には自分がエネルギーを仕事にしているなんて想像もできませんでした」と語ります。

 上田市にはかつて養蚕をしていた農家が多く、大きな屋根が使われずに空いていました。太陽光パネルを屋根に置いた場合、その家庭の全電力をまかなってもスペースが余るほど大きいのです。しかも上田市は、全国でも日照時間にめぐまれているというだけでなく、雪も少なく、太陽光発電に有利な地域です。また、ソーラーパネルはあまり気温が高くなりすぎると発電効率が落ちるのですが、上田市は夏でも朝晩は気温が下がり、パネルの温度があまり高くならないという理想的な条件が揃っていました。
 
 そこで、上田市民エネルギーでは屋根の持ち主が太陽光パネルを設置する際に、余るスペースを活用するために、一口10万円から設置費用を負担して、プラスアルファのパネルを相乗りさせる参加者を募集することにしました。「相乗りくん」では、屋根を貸す家の所有者を「屋根オーナー」と呼び、設置費用を出して自分のパネルを相乗りさせる人を「パネルオーナー」と呼んでいます。

 「屋根オーナー」は、太陽光パネルの容量が増える事で初期費用を安く抑えることができます。また「パネルオーナー」になる人たちは、自宅の屋根には条件が合わず設置できなくても、太陽光発電に参加することができる上に、10年間で設置費用額よりも1割ほど多くの売電収入を得ることができるという、どちらにもメリットのあるプロジェクトになっています。(※1)そして、両者が協力した結果として、地域に自然エネルギーが増えることになるのです。


上田市民エネルギーの藤川まゆみさん

◆つながる「パネルオーナー」と「屋根オーナー」

 具体的にパネルオーナーと屋根オーナーになった人の声を紹介してみましょう。上田市在住の中村亜季さんは、パネルオーナーです。生協が主催したマネー講座に参加したことをきっかけに、自分のお金の使い道について考えるようになったと言います。


藤川さん(左から二番目)と、屋根オーナーとパネルオーナーのみなさん。右端が中村亜季さん

「それまでなんとなく原発は嫌だなと思っていたのですが、当時はうちは賃貸住宅だった事もあり、具体的にどう関わればよいかわかりませんでした。でも藤川さんたちがこういう活動をしていることを知って、自分のお金が活かせたらと思い、50万円分を相乗りさせることにしました。銀行に預けていても、その先でどう使われているのかわからないじゃないですか。何に使われているかが実感できるというのが嬉しいですね」。ちなみに、利益として入ってくるお金は月々の電気代くらいにはなっていて、得した気分になっているとも語ってくれました。

 屋根オーナーのひとりである尾沼誠司さんは、上田のねぷた祭りのイラストなども描いているデザイナーです。最近では、ご当地ヒーローのキャラクターデザインも手がけています。

 尾沼さんが藤川さんと知り合ったのは、上田市民エネルギーが立ち上がるずっと前のことです。地元の幼稚園の親の会で一緒になって依頼、長年つながっていました。子ども向けのヒーローショを親の会が手作りで行い、キャラクターのデザインを尾沼さんさんが手がけて、藤川さんがそのコスチュームを着て悪役を演じたこともあったとのこと。そんな彼女が相乗りくんをはじめたと聞いて、それまで興味のなかった自然エネルギーに関心を持ったと言います。


屋根オーナーの尾沼さんさんご夫妻

「当初は自然エネルギーには興味がありませんでした。うちには、太陽光をつけませんかっていう営業がたくさんきていましたが、面倒だから全部断っていたんです。でも藤川さんがはじめたというのは大きかったですね。話を聞いてみると、ただうちが自分たちのために設置するだけじゃない広がりが出る事がわかり、見積もりをお願いしたんです。設置費用も思っていたよりかなり安かったし、8.4キロワットのパネルを設置して以降、予想以上に発電してくれていますよ。何より、他の人の分も載っているというのは面白いじゃないですか」。

 人はコスト意識や環境意識だけで動くわけではありません。このような地域をベースにした活動は、ふつうのビジネス以上に「あの人が言うならやってみよう」という信頼関係やネットワークが大切です。上田の場合は、藤川さんの人柄や日頃からのネットワークが、まさに多くの人をつなげていったのではないでしょうか。

◆等身大の活動は、今年から新たなステップへ

 2011年11月からはじまった「相乗りくん」は、パネルオーナーからのお金が集まった分だけ設置するという方式で、ゆっくりと地域に広まっていきました。2014年9月現在、相乗りくんを通して広まった太陽光発電は戸建て住宅や集合住宅など22軒で、合計173.51キロワットの発電を行っています。これは一般家庭ではおよそ45世帯分にあたります。

 これは他のご当地電力、ご当地エネルギーの取り組み全般に言えるのですが、小さな取り組みとは言っても、誰もやったことのないビジネスを軌道に乗せるのは簡単なことではありません。ビジネスなどやったことのなかった藤川さんは当初、「何でこんなにたくさんハードルがあるのかな」と日々、思い悩んだと言います。


相乗りくん第一号となったお宅

 それでも地域の特性を活かして、誰もが参加できるようなシステムをつくったことで、他の地域からも注目を集めるプロジェクトへと成長しました。そして2014年3月からは長野県からの委託を受けて、「相乗りくん」を他の地域に広げるための事業を始めています。「相乗りくん」の手法を提供して、長野県内の市民が発電事業をはじめるサポートをする体制をつくり中なのです。「一般社団法人 自然エネルギー共同設置推進機構(NECO)」と名付けられたその事業は、新たに4名のスタッフを迎えて働きかけを進めています。

 藤川さんは、他の地域でやるのなら自分たちが出張するのではなく、主体はあくまで地域の人たちがやるべきだと考えています。「相乗りくんがここまでやってくることができたのは、地元の上田で、地域のいろいろな分野の方々が協力してくれたお陰です。地域で市民が自然エネルギーを増やしていくには、地域が主体になる事が本当に大切なのです。でも、まだ自然エネルギー事業は手法の提供や情報共有など背中を押すサポートが必要で、そこを私たちがお手伝いするというのが今回のプロジェクトになります」。 

 ぼくが上田市民エネルギーの活動を見ていて一番素敵だなと思うところは、等身大で活動していることです。規模が小さいので、この長野県との事業が始まるまでの3年間は、専従スタッフは藤川さん一人でした。藤川さん自身は大変だったとは思いますが、一方で組織の足下がしっかりしていないうちから専従スタッフを大勢雇ったり、大きな設備をつくってしまうと、クリアしなければならない課題はより多くなり、挫折する可能性が高まります。「相乗りくん」を立ち上げたメンバーは、「まずは1軒からでいいから、集まったお金の分だけ設置しよう」というところからスタートしました。背伸びせず、身の丈にあった小さなプロジェクトだったことが、今の成長につながっているのです。

※売電収入は、太陽光発電の発電量によって変動するため、金額が保障されているわけではない。上田市民エネルギーでは現在の所、パネルオーナーには見込み通りの売電収入を支払っている。

◆関連リンク 
NPO法人上田市民エネルギー
NECO(一般社団法人 自然エネルギー共同設置推進機構)

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