二足の草鞋 -2ページ目

孤独な道標 【終章】~永遠に~

【終章】

淳介が孤独の道を選択し、1週間が過ぎたころ公安から連絡があった。
「自ら命を絶たれました。」
言葉にならなかった。
寂しくて、悲しくて、辛くてどうしようもなかったんだね。
淳介は死を選んだその時に、孤独を感じたのだろう。
私の足は、淳介の家へと向かっていた。
気がつくと、淳介の家の玄関の前に立っていた。
「せ、線香をあげにきました。」私は、深々と頭をさげた。応対をしてくれたのはお姉さんだった。
線香をあげながら私は声を漏らして泣いた。どれくらい泣いたのかわからない。
その脇で、お姉さんは涙を凝らし「弟が長い月日に渡りご迷惑をおかけし申し訳ありませんでした。」と土下座をして謝った。
私は言葉がでなかった。
そして、お姉さんから1枚の紙を手渡された。
私へ宛てた遺書だった・・・。
淳介の言葉はとても重かった。
その言葉は私の頭から一生離れることはない。
お姉さんが淳介が家へ戻ってきてからの生活を話してくれた。
「弟は、家へ戻ってからは毎日近くの精神科へ通う傍ら、体調を崩しがちな母の面倒をよく見てくれていました。いつか、あなたから告訴が取り下げられるのではないかと信じていたのかもしれません。最後の日の前日は、夕飯を作ってくれていて・・・その日の晩、おそらく毒薬を大量に飲み・・・発見が翌日の夜だったので・・・。」
「葬儀には友人とか来られたんですか?」
「いいえ、弟のあの性格ですからね・・・。葬儀は密葬でしたから、友人は後日2人ほど来て下さっただけです。」
「そうでしたか。」
しばらく沈黙が続いた後、2階にある淳介の部屋へ行き遺品を見ながら淳介の温もりを思い出した。
「この部屋、みるくさんの物ばかりでしょ。写真、服、ネックレス・・・全部・・・よかったら何か持ち帰ってもらってもいいですよ。そのほうが淳介も喜ぶでしょう。」
「はい・・・。」
私は、写真に写る淳介を手でなぞっていた。
「みるくさん、辛いでしょう。今日わざわざ来て下さって有難いんですが、こちらは大丈夫ですよ。一度だけでも線香をあげに来て下さったこと、弟は本当に嬉しく思っていますから。」
また、涙が溢れた。お姉さんに対しても申し訳ない気持ちでいっぱいだったのと、本当に淳介がこの世からいなくなってしまったという真実を受け止めた。
「弟は、みるくさんの幸せを願って孤独を選んだのです。自分では幸せに出来ないことを悟ったんでしょう。だから、みるくさん・・・自分が悪いなんてこと思わないでください。」
「うぅっ・・・・うう。」私は、写真を抱きしめ泣いた。
帰り際、一枚の紙を渡された。
「四十九日の法要後、弟が入るお墓の地図です。今後もし、弟を想うことがあればこちらへ行ってあげてください。」
「はい・・・。」
お姉さんは、私の姿が見えなくなるまで深々とずっと頭を下げ続けていた。
帰路がものすごく長く感じた。まるで、迷子になったかのように・・・。
その晩、みるきーに全てを打ち明けた。でも、私の心の中は渦を巻くようにモヤモヤしていた。
後日、亡くなった事実を知ったK先輩から連絡があった。約半年ぶりに聞く先輩の声だった。
「亡くなったの、知ってるよね?」
「うん」
「どうして、告訴を取り下げてあげなかったの?どうして、殺したの?」先輩の声からは怒りが滲み出ていた。
「捜査がどう進んでいるか・・・知らなかった。それに、淳介には刑に服して欲しかった。」私は、K先輩に正直な気持ちを伝えた。
「淳介くんは話せばわかる人よ。あまりにも可哀想でならないわ。」
「・・・・。」
「来週、淳介くんの家に行くから来るでしょ?」
「いや・・・この前、行ってお姉さんと話して今後はお墓に・・・」
「何言ってるの?そんなの、本当は来てほしいに決まってるじゃないの!」
「でも・・・。」
「みるくちゃんがそんな風に思っていたなんてね。もういいわっ!」
K先輩は電話を切ってしまった。それ以来、K先輩とは連絡を取り合っていない。
私自身、どうするべきなのかさえわからなかった。
そして、淳介が亡くなって2週間後、1通のハガキが家へ届いた。
『結婚しました!』
そのハガキは付き合っていた当時、TDSへ行ったときに模擬結婚式の写真を撮った時のもので、結婚式の日にちは淳介が亡くなった10月8日になっていた。
消印は10月5日になっていたから、死を覚悟した時に投函したかもしくは、日付指定をしたのだろうか。
寒気がした。まだ、淳介が生きているような気がしてならなかった。
きっと、住所がわかるところへはすべて投函していたのだと思う。幸い、実家には送りつけられていなかった。
淳介の魂は、成仏することなくまだこの世を彷徨っているのではないかと思うと、ものすごく怖くなった。
あれから、7カ月・・・ねえ、そちらは寂しくないですか?
孤独を選んだその道に、本当に後悔はありませんか?
私は、いまでもときどき、あなたとの想い出を夢に見ます。
ときどき、あなたに似た人を見かけるといたたまらなくなり、あなたの温もりを感じてしまいます。
なぜ、逝ってしまったのですか。
私が死に追いやったのではないかと自責の念にかられ、眠れぬ日々が続き、悔いる毎日を過ごし後を追うことさえも考えました。
その辛さを月日をかけて昇華しようとしてくれているのは、みるきーです。
「死に追いやったのは、みるくではない。僕だよ、責めるなら僕を責めな!」
そのみるきーの言葉は、心の柵を少しだけ解かしてくれました。
みるきーがいなければ、私は息を絶ち淳介のもとへ逝っていたでしょう。
だから、私にはみるきーが必要不可欠なのです。
一緒に乗り越えていこうと言ってくれたみるきーにとても感謝しています。
この小説も、少しでも自分の心の苦しみを昇華したくてみるきーの協力のもとでここまで書くことができました。
思い出し筆を取りながら涙を流したことも多々あります。
果たしてこれが良い結果なのかはまだ分かりません。
人それぞれに愛の形があります。
淳介の愛は、孤独への道標だったように思います。
孤独な道、それは私であり淳介自身だったのでしょう。
その道を選んだことにより、私の心に消したくても消せない刺青のような証を刻みました。
「みるくこれからはおまえが苦しむ番だろう」
淳介のもとへ逝くまで、私は苦しみ続ける。
それが、淳介を死に追いやった罰なのかもしれません。
そして、この事実を一生涯、忘れないでいることが淳介への償いなのだと思っています。