真っ暗闇の中で

目を覚ました。

獏は見えない。

「ば


『想像してみよう』

獏の声だ。


『その世界に行ったら、

ひとりに助けを求められた。』




Dr.Cider  そのジュウニ』




思わず助けたら

今度はたくさんの人が助けを求めてきた。


今さら断ることも出来ず、

ただただ救い続けた。

ある人は苦しそうに

ある人は悲しそうに

やってきては、身の上話をする。


自分だって救われたいと思うだろう?

だが、助けた人は

そのことを、覚えていない。

こちらは助けたことをしっかり覚えていても、

向こうにとっては次に会った時は

「はじめまして」

と言われる。

また苦しそうにする。

また悲しそうにする。


自分の力が足りないんじゃないか、

相手にかける声が別のものならば、

もう来なくて済む、

幸せに暮らせるようにしてやりたい。


そう思って、救い続けた。

だが、願いは叶わない。

なぜなら叶った人は、何も言わずに来なくなる。

感謝の言葉も謝辞もない。

そんな生活を、延々と。


… … … …


それこそが。

サイダの悪夢だよ。


獏はそう告げた。


『きっと君も

サイダのことは覚えない』


「私は治療してもらってない、また来るから、この悪夢でーー」

そんなこと

言わないでくれ。

悲しいじゃないか。

寂しいじゃないか。


『ううん、忘れる』

獏はもう一回、伝えた。


『たまに、サイダが匙を投げる患者がいる。

あなたみたいに。』

獏が近寄ってきた。

『その人たちはどうしていると思う?』

「きっと、悪夢ではないから、

患者と医者の立場でなければ、

対等に付き合える……

獏の周りに風船が飛んでいる。

色とりどりの、赤、青、黄色、白……

『僕のごはん』

「え……

『美味しそう』

獏が舌舐めずりをした。

思わず後ずさる。

『さようなら、楽しかったよ』

「待っ--------」


世界が彩りに飲み込まれた。


*********


サイダ医師が休憩から戻ると、

獏がふくふくとした表情で机の上に座っていた。

サイダ医師は片眉をあげて

『少し太ったか?』

そう言った。

『わかってるくせに』

獏は嬉しそうに、美味しかった~!と囁いた。

『結局どうなった』

サイダ医師が椅子にかけた。

『いつも通りさ、診療はバッチリ』

ふふっと、獏は笑った。

『そうか』

「ねぇ、サイダ」

『なんだ』

「僕は待っているよ」

サイダが眉根を寄せて言った。

『待ってないで次の患者を呼んでこい』

『つれないなぁ~』